俺と麻人はリビングにいた。俺は特にこれといったこともなくただニュースを見ているだけだ。麻人は首に黒い体毛の生えた白い大きな狐と戯れていた。
「わんわーん」
最近家族として迎え入れた、『アキ』と言う狐だ。ただの狐ではなく実際には妖狐だが、家族になった経緯は別の話で。
「アキ、おすわり」
麻人の声に反応してアキはその場に座る。
「ふせ」
お座りの状態から伏せになる。犬は伏せが苦手だと聞くが難無くできている分、麻人が教え込んだのだろう。もしくは・・・
《母親に感謝を伝える母の日のギフト》
テレビでは母の日の特集が組まれていた。麻人は食いつくように見ていた、暁人に何かするのだろうか。麻人にとって暁人はある意味、血の繋がった親なのだから。
「麻人はお母さんに何かしたいことはあるのか?」
「うーん・・・」
麻人に訪ねてみるが何をすれば良いか分からないようだ。
「無難にカーネーション渡せば喜ぶと思うけどな」
「ん?」
「これだ」
スマホに赤いカーネーションの写真を表示させて見せる。
「アキの散歩ついでに買いに行くか」
「うん」
俺はアキの身体にハーネスを着ける。麻人も出かける準備ができたので家を出た。ちなみに暁人は大学なので不在だ。外は寒いのか暖かいのな良く分からない気温が続いていた。
「寒いか?」
「べつに」
「ギャン」
麻人は返事をし、リードに繋がれているアキは鳴き声を上げた。アキも大丈夫そうだ。少し歩くと花屋があったので立ち寄ることにした。
「1本か2本あればいいか」
俺は麻人に金を渡すと、麻人は俺にアキを預けて一人で店内に入っていった。アキを連れて外で待っていると、数分後には戻って来た。手には赤いカーネーションを2本持っていた。ご丁寧にリボンでラッピングされている。麻人はアキに跨がるとそのまま進み、俺はその後ろについて行くことにした。
「アキのことなんだと思ってる」
「・・・かぞく」
「本音は?」
「いぬ」
「素直でよろしい」
そんな会話をしながら家に着く。
「お帰り、KK、麻人、それにアキも」
家には暁人が帰ってきており、アキをそのままモフッていた。あとで俺と麻人にもモフらせろ。
「麻人、それって・・・」
暁人が麻人の手にしていたカーネーションに気づくと、麻人はそれを差し出す。
「おかーさん、いつもありがとう」
「麻人・・・」
「母の日ってことでな、麻人が」
「ありがとう、麻人」
感謝を述べた暁人は麻人を抱きしめた。
「今日は晩御飯奮発するよ!」
「やきにく!」
「ほんと肉好きだな」
「ひとのかねでくうにくはうまい」
「どこで覚えたんだそれ」
10年後
「母さん」
「なに?」
「僕が5歳の時にあげたカーネーション未だに大切にしてるよね、今年で高校生にもなるのに」
「だって麻人から貰ったんだから」
花瓶に生けてある2本の赤いカーネーション、それは未だに枯れず、赤く咲き誇っていた。