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    リキュール

    @liqueur002

    GWT(K暁)
    今のところGWTだけ。基本雑食。

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    リキュール

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    いい兄さんの日の翌日のK暁と、
    当日のKKと麻里ちゃんの小話。
    いい兄といい妹である伊月兄妹に敵わないKK。

    #K暁

    11月23日の翌日昨日あれだけ降っていた雨はもうすっかりと晴れわたり、今日は過ごしやすい日だった。暁人が雨上がりの濡れた鉄骨に足を滑らせたときは心臓が止まったかと思ったが、それ以外は仕事も調査も順調に進み、良い日だったと思う。

    以前より整理整頓された台所で、洗い物をする暁人の隣で食器をを拭きながらぼんやりと横顔を眺める。
    今日はアジトに暁人が泊まる日だ。コイツは依頼や調査を手伝った後、夕食を作ってから帰宅するか、そのまま泊まっていくか気分で決めているらしい。気分とは言っても、自分の中で決まりがあるのか5日に1回のペースは基本的に守っているし、急な泊まりの場合欠かさず麻里に連絡もしているという。仲の良い兄妹だ。一時期すれ違いで危ぶまれた兄妹仲がまるで嘘のようである。
    食器を全て片付け終わって、冷蔵庫から缶ビールを2つ取り出すと1つを暁人に差し出した。

    「寝る前の1杯、オマエも飲むだろ」
    「そうだね…、じゃあ貰おうかな」

    カシュ、と空気の漏れる音と共にじわ、と湧く泡に口をつける。シンクに寄りかかって半分程を飲み干した。
    一口飲んで口を離した暁人が視線に気づいてへらりと笑う。

    「なに、何かついてる?」
    「いや…オマエ家では飲まないのか?」
    「え?」

    きょとんとした表情でビールとオレを交互に見ると、何か考えるように視線を斜め上にあげ、唇の下を指先で撫でた。

    「言われてみればそうかも。ほら、僕って飲みすぎると、」
    「でろでろになって甘えたになるな」
    「……、…いや確かにそうなんだけど。自力で部屋に戻れないだろ?それでソファで寝る」
    「それをオレが運ぶんだよなぁ」
    「いつもお世話になっております…ってそうじゃなくて。さすがに麻里の前ではちゃんとしてたいんだよ」

    照れくさそうにはにかむと暁人はビールをまた少し口に含んだ。
    暁人は麻里に『しっかりした兄』として見られたいらしい。帰宅や泊まりの連絡は毎回し、掃除洗濯料理は交代しつつ当番制で回す、麻里の学校行事は欠かさず参加。少し過干渉な気がしなくもないが、本人たちは至って幸せそうなのでそれで良いのだろう。

    ちなみに泊まりに関しては、最初の頃は未成年の麻里を一人家に残して泊まることに難色を示していたが、麻里に説得されて二人それぞれ約束事はあれど良しとなった。そのとき何故か麻里に「お兄ちゃんに無理させないでくださいね」と釘を刺され片眉を上げたが、今となっては彼女が何をどこまで知っているのかわからず肝が冷えるばかりだ。女のカンというのは年代問わず冴え渡るものらしい。
    これは昨日もそうだった。




    「あれ、KKさん?」

    依頼の情報収集のため、データが公開されていない資料が必要で図書館へ行った帰り道のことだ。雨が降り続く昼過ぎに渋谷駅の中で声をかけられた。
    制服姿の彼女が傘を腕に下げエコバッグを肩に背負いながらにっこり笑って手を上げた。

    「麻里、学校はどうしたんだ?サボりか」
    「まさか!今日は午前だけなんです。だから帰りに晩ご飯の買い物に」

    ニヤリと笑ってからかうと麻里は両手を前に突き出し慌てて弁明する。ガサガサと音をたてるエコバッグから、ころりと飛び出したリンゴを地面に落ちる既のところで受け止めた。

    「リンゴ?何を作るんだ?」
    「今日はお兄ちゃんがビーフシチュー作ってくれるんです!」
    「へぇ…けどシチューにリンゴ…?買い間違いじゃなくてか?」
    「はい、お兄ちゃんの買い物メモにちゃんと書いてあります。…ふふ、結構前なんですけどね、お肉の臭み取りとかいろいろ教えたんです」

    前に暁人が肉をヨーグルトに漬けていたのを思い出す。あれは柔らかくて臭みもなく美味かったのでよく覚えている。そういえば麻里の受け売り、なんて言っていたか。
    暁人の字で書かれたメモを嬉しそうに眺めて麻里がはにかむ様に笑う。その表情は暁人にそっくりで、無性にアイツに会いたくなった。グゥと自己主張する腹を擦った。

    「アイツのうんちくはオマエ仕込みか。助かってるぜ、毎度美味いものが食えるからな」
    「うふふ、でしょう?お兄ちゃんは私が育てました!だって放っておいたらKKさんろくなもの食べないですよね」
    「はは…あ?オレか?」
    「そうですよ、だからお兄ちゃんに仕込んだんです。二人でちゃんとした食生活を送ってもらわないと!長生きできませんよ」

    腕を組んで得意気な表情で人差し指をぴっと立てる。
    暁人に仕込むのがオレのためとはどういうことだろうか。てっきり暁人の一人暮らしに備えての事だろうと思っていたが、どうやら違うらしい。ああ、なんとなくわかってきた。長生きってのは歳の差の事を言いたいのか。

    「いつから気づいてたんだ、オレたちが」
    「付き合ってること?それなら最初からですよ。KKさんを紹介された時から」
    「最初から!?」

    暁人と二人で、難しい年頃である麻里にはなるべく隠そうと決めていた交際の事実がこんなにも早く筒抜けになっていたことに頭を抱える。
    この様子だと危惧していた悪感情は無いようだ。それどころか後押ししているような言動をしている様な気がして言葉に詰まる。

    「私、嬉しいんですよ。お兄ちゃんは最近私の幸せの事をたくさん考えてくれてますけど、私はお兄ちゃんこそ幸せになるべきだと思うんです。だから『幸せ』をみつけた!って表情で貴方を紹介された時、本当に嬉しくて、嬉しくて」
    「…アイツ、」
    「KKさんも心底安心するって感じでしたよ」
    「んな馬鹿な…」
    「女のカンですけど」

    言い当てられ恥ずかしくなって目を逸らす。
    すると麻里は、にっと笑って一歩、近寄って上目遣いで顔を覗き込んできた。

    「KKさん、お兄ちゃんをよろしくお願いしますね!…でも苦しめたら許しません」
    「………そこは泣かせたら、じゃねえのか?」
    「思いが通じ合っても感情って難儀なもので、泣くこともあると思いますよ、でもそれを乗り越えてこその愛だと思いません?」

    随分と思考回路が大人びているな、と思いつつもその考えに深く納得した。生きることは幸せだけではない。二人ではどうにもならない壁にぶち当たって嘆く事だってあるだろう。それをこの年で理解しているとは驚いた。暁人より大人なんじゃないか。
    麻里は後ろに下がるとくるりとこちらに背を向ける。

    「まぁ、あんまり心配してないんですけどね!じゃあそろそろお肉駄目になっちゃうので帰ります。会いたくなっちゃったかもしれませんけど、今日は『私の』お兄ちゃんの日なのでKKさんは明日までご遠慮くださーい」
    「は、おい!」

    言うだけ言って走り去る背中にため息を吐く。
    たまに発揮されるこのマイペースさはさすが兄妹といったところか。虚しく鳴り響く腹の虫に、アジトにあるカップラーメンじゃなくて何か作るか、と自炊を決意した。





    「KK?」

    随分と長いこと考え事をしていたようだ。台所のシンクに体を預けていた暁人が缶を置いて不思議そうに首を傾げる。缶の中はもう空になっていて、明日の事を考えて二本目に手を出すか迷っているらしい。

    「…オマエ今日はオレの暁人だからな」
    「なんだよそれ?」
    「いや、オマエはいい兄貴だなと。でも今日はオレのだよな」
    「うん?そう…だね?」

    缶ビールをもう一本ずつ冷蔵庫から取り出すと暁人の腕を引いて台所を出る。ソファに座らせ、困惑した表情を浮かべる暁人の隣に腰掛けた。

    「オマエの妹、しっかりしてるな」
    「麻里?そうだね、僕より大人だなって思うことがあるよ」

    麻里を褒められて嬉しいのか困惑していた表情をガラッと変えてへにゃへにゃと口元を綻ばせる。缶ビールの二本目に口をつけ、酔いでほんのりと赤く染まった暁人の頬をつついた。

    「今日はいい兄貴は休みだ、好きなだけ飲めよ」

    その言葉に視線を宙に泳がせ逡巡し、頬をつついている手に触れる。指先で唇をつついてやると、その手を捕まえて開かせ手のひらに吸いついた。細められた目が、目尻を下げなだらかな弧を描く様は艶やかさを感じさせる。

    いい兄さんかもしれないがとんだ魔性の兄だぞ、と脳内に思い浮かべた麻里に話しかけるとサムズアップを返された。伊月兄妹恐るべし。
    早々に手を離してビールを嬉しそうに飲む暁人を、今夜美味しく頂くための手順をシミュレーションしながら手元の缶を飲み干した。
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    リキュール

    DONE #毎月25日はK暁デー
    7月お題【宿題】を書かせていただきました。またも大大大遅刻。
    可愛いこと言い出すあきとくんとそんな可愛いやつを甘やかしちゃうけけの話。
    美味しいもの食べるあきとくん。
    生姜の辛味は何にでも合う気がする。
    甘やかしには辛味を足して七月、それはある者にとっては書き入れ時、またある者にとってはただの平日、そして僕らの様な学生にとっては長い夏休みの始まりである。

    休みに何しようかと楽しそうに予定を立てる友人たちを横目に僕は頭を抱えていた。
    夏は夜に肝試しをする若者が増える季節ということもあってか、禁足地や事故物件が騒がしくなり毎夜KKと共にパトロールに精を出していたのだが、そんなこんなで忙しくしていたので、すっかり忘れていたのだ。
    前期の試験やレポートは問題ないが、引き続き後期でも受講する選択科目の講義には宿題が存在することを…!
    普通ならば夏休み中にやればいいんだから焦らなくても、なんて思うだろうがこれは資料集めが厄介で、どれも大学の図書館にしか無いようなものばかり。休みに入る前に資料の検討をつけてコピーしなくてはならないのである。ただでさえ難しい科目で前期レポートもギリギリだったのだ、生半可なレポートは出せまい。夏休み中も図書館に来ることはできるが休みには遠出の依頼があるため資料を求めて毎回行くわけにはいかず、できるだけ必要な資料は今のうちにまとめておきたい。それにあわよくばKKとの時間ももっと確保できれば…大丈夫僕ならやれる。
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