とある中華料理店に一人の青年がいた。右腕を三角巾で吊るした状態で左手で箸を動かしながら餃子を黙々と食べている。食べる速度は早く、一口また一口と次々に口に運んでいく。そして二皿分の餃子が彼の胃の中に消えていったところで彼は手を止めて箸を置いた。そして会計を済ませると店を出ていった。
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あの日、KKが消えていってから僕の右手は動かなくなった。医者が言うには毎日リハビリをしていけばいつかは動くようになるらしいけど・・・。あの時はKKがいてくれたから生きていられた。でも今は一人だ。僕はこれからどうすればいいんだ?
「少しいいか?」
目の前に傘を被り、顔を布で隠した三人組が現れた。
「祟り屋?」
あの夜の日に槌蜘蛛を倒してほしいとお願いされ、仕方なく引き受けていた。そういえばあの日から一度も会っていなかったなぁ。
「お前の状態について少し話したいことがある」
僕は警戒して近づかなかったが、彼らは僕を襲おうとはせず、ただじっとしていた。
「とりあえずこっちに来てくれ」
三人に連れられて行ったのはそこは人通りの少ない裏路地にある小さなビルの地下へと続く階段の前だった。僕たちはその階段を下っていく。地下へ着くとそこには椅子がいくつか並べられており、そこに座るように促された。僕が席に着くとその向かい側に三人も腰掛ける。
「まず最初に確認しておくが、お前は今、自分の意思でその手を動かすことはできるのか?」
「殆ど動かないよ」
「そうか・・・」
三角巾で吊るした右腕をまじまじと見つめる。
「それでは次に、お前はこのままだとどうなると思う?」
「わからない。先生からはいずれは治るとしか聞いてないから」
「おそらくだが、右腕だけあの世に持っていかれている可能性はある」
「どういうこと?」
「あの時のお前は生死を彷徨っていた、だが祓い屋のお陰で一命を取り留めた。その後仮面の男を倒し、祓い屋と別れたがその際に離れたくないという思いがどちらかにあったのかもしれない。それにこれはあくまで仮説に過ぎない」
確かにKKと離れたくないと思っていた。無意識のうちに僕はKKと一緒に逝こうとしたということなのか? その答えが分からないまま僕は帰って行った。外は既に夜を迎えていた。家に帰ろうと歩を進めている途中、突然後ろから肩を掴まれた。振り返ってみるとにんまりと笑う口元が見え
「うわぁぁあああああ!!」
マレビトにいきなり肩を掴まれ、恐怖のあまり叫び声を上げると同時に体が大きく吹き飛ばされてしまった。吹き飛ばされた先に電柱がありぶつかるとそのまま地面に落ちて、その拍子に三角巾が外れた。それに背中を強く打ったせいで呼吸ができない。そんな状態のまま動けずその場で悶え苦しんでいると、右手になにかが絡みういている感覚に襲われた。恐る恐る目を開けて見ると右手に髪の毛が絡みついていた。一か八か、動かなくなった右手を大きく振り上げた。
「いってぇじゃねぇか馬鹿野郎!」
聞き覚えのある声と共にマレビトが吹き飛ばされる。
「K、K・・・?」
「久しぶりだな、暁人」
僕の目の前にいたのは紛れもなくKKだった。
「KK!」
「感動の再開は後だ、今はこいつらを何とかしないとな」
KKは右手にエーテルを纏わせてマレビトの方を見た。
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急に髪の毛を引っ張られたと思いきや、見覚えのある顔が俺の視界いっぱいに映り込んだ。それは紛れもない暁人だった。いきなりのことで状況が把握できなかったが、マレビトを倒すことだけは理解できた。ショットを放ち、露出したコアをワイヤーで引き抜いた。
「大丈夫か?」
「う、うん・・・」
暁人の右手を掴むが何かがおかしかった。力が入っているようなことはなく、まるで手がそこにあるだけのようだった。
「お前・・・」
「動かなくなった、KKに会いたいなんて思ったから」
「お前のせいじゃない。だから気にするな」
「ごめん、僕のせいで・・・」
「お前は生きてる。それでいいじゃないか」
「でも、もう・・・」
「お前のせいじゃない」
泣きそうな表情を浮かべながら俯く暁人を抱き締めた。動かなくなった右手を握りしめながら。