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    Hakuaisan(GWT)

    @Hakuaisan

    二次創作てんこ盛り野郎

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    POIPOI 291

    Hakuaisan(GWT)

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    僕は僕。

    終わり→https://poipiku.com/2688419/9418850.html

    「ん・・・ここは?」
    僕の姿をした怪物に影の中に引きずり込まれて意識を失っていた。今は真っ暗な空間に突っ立っている。
    「僕は死んだのかな・・・」
    真っ暗な空間を見渡しながらそんなことを考える。すると、突然目の前に光が差し込んだ。突然のことに驚くが、その光の中に人影が見える。
    「え?」
    僕はその人影に近づくように足を進める。人影は手招きをする。
    「う・・・うーん・・・」
    こちらにおいで、と手招きをする人影に誘われるように僕はそのまま光の中へ駆け足気味で進む。すると、その空間は一気に光に包まれた。あまりの眩しさに目を閉じる。
    「・・・っ」
    恐る恐る目を開けるとそこは病院のような場所だった。病室ではベッドの上で赤子を抱えている女性と、その隣で椅子に座っている男性。この2人は夫婦なのだろうか。
    「おめでとうございます」
    出産を無事に終えた女性に看護師が声をかける。
    「元気な元気な男の子ですよ」
    女性は優しく微笑んだ。その様子に僕も自然と頬が緩む。赤子は母親の腕の中でスヤスヤと眠っている。
    「良かったですね」
    僕は女性に向けてそう言いながら赤子を見る。
    「あれ?」
    何か大事なことを忘れているような・・・僕は必死に記憶の糸をたぐるが何も思い出せない。そんなとき、寝ていたはずの赤子が目を覚ました。
    「うぅ?」
    「あら、起きちゃった?」
    赤子は目をパチパチさせながら母親の顔をじっと見ている。そして、ニコッと笑った。その笑顔に僕も自然と笑みがこぼれる。
    「暁人、お母さんだよ」
    赤子に声をかける女性。その女性に僕は目が離せなかった。僕と同じ名前の赤子を見つめる母親。
    「──」
    僕は無意識に母親の名前を呟いた。
    ****
    不意に景色が変わる。同じ病院なのだか赤子が少年に成長している。母親のお腹は大きくなり、いよいよ出産が間近に迫っている。
    「もうすぐお兄ちゃんになるわね」
    女性は大きくなったお腹を優しく撫でながら少年に声をかける。お腹の中には少年の妹が眠っている。僕はその光景に自然と頬が緩む。そして妹が産まれると少年は赤ちゃんのお世話を手伝っている。少年は、兄らしく妹の面倒を見たり、わがままを聞いている。僕はその様子に胸を撫で下ろすと同時に羨ましく感じた。「麻里ちゃんは絵が上手ね」
    母親の口から麻里の名前が出てくる。
    「麻里・・・僕の、妹」
    忘れかけていたものが浮かんできそうな気がする。
    ****
    また景色が変わる。兄妹が仲睦まじく家族と笑い合っている光景だ。父親に頭を撫でられて兄にちょっかいを出される妹。彼女は満面の笑顔で彼らを振り回す。三人は楽しげにしている。その様子を母親は優しい眼差しで見守っている。
    「おにいちゃんおにいちゃん!」
    「麻里」
    「麻里は本当にお兄ちゃんのことが大好きね」
    「うん!おにいちゃんだいすき!」
    「僕も麻里のことが大好きだよ」
    「えへへ~」
    2人は互いに微笑み合う。その笑顔はどこまでも幸せそうだ。少年は妹を優しく抱きしめると彼女は幸せそうに少年の胸に顔を埋める。そして、次に景色が変わったとき
    ****
    普段なら四人揃っているはずだが、父親がいなかった。棺桶の前に母親と兄妹のが並んでいた。棺桶の中には父親が入っていた。顔には白い布がかけられていた。その顔は安らかで眠っているようだ。母親は泣いていた。その横では妹も一緒になって泣いた。兄も二人を宥めながらも目に涙を溜めて我慢している。誰も父親の死を受け入れられないでいた。僕はその光景を見て何も感じられなかった。悲しいとか寂しいといった感情が自分の中から無くなってしまったようだ。遺影に写る父親の顔は穏やかで、今にも目を覚ましそうだった。その間ずっと妹の泣き声だけが聞こえていた。僕はただ何もせずにその光景を眺めていた。
    ****
    それから母親と兄と妹は三人だけで生活を始めた。お金は父親が残していたものがあったからしばらくは大丈夫だ。でも、その内尽きることだろう。母親は働き始めたが、それが祟ったのか母親までもが棺桶に収まっていた。そして兄妹は抱き合っていた。どうして彼らは泣く必要があるのだろう。父親は死んでしまったけど、また会えたではないか。僕はこの光景をどこか客観的に見ている。悲観的に見られなくなってしまっている。そんなとき、少年と妹は僕に
    「麻里」
    「お兄ちゃん?」
    「これから先もずっと一緒だよ。何があっても絶対に守るから」
    そう言って2人は抱きしめ合う。僕はその光景に何も感じなかった。家族愛、兄妹愛、恋愛などといったものに僕は感動できなくなってしまったようだ。
    ****
    また景色が変わった。場所はどこか知らないが、部屋のように見えた。あの兄妹のだ。両親が亡くなった今、二人で暮らしている様子だ。今は二人で何かを話している。兄の顔は僕と瓜二つだ。
    「お兄ちゃん、また忘れてるでしょ!今日、お母さんの三回忌だよ!お父さんのときだって、一度も会いに行ってないじゃない!」
    兄は申し訳なさそうな表情を浮かべて、ドアを開けようとする。
    「またそうやって逃げるの?逃げてるだけじゃ、なにも変わらない!」
    「違う・・・僕はただ・・・違う、違うんだ!」
    兄は泣きそうになるとドアを開けて出ていった。兄はどうやら何かから逃げているようだ。死?現実?感情?僕は必死に考える。
    ****
    景色が変わり、交差点。車からは煙が上がり、道路には血溜まりができていた。信号は赤になり、歩行者用の信号機は点滅している。周りには人集りが出来ており、救急車やパトカーが何台も止まっている。辺りは騒然としていた。事故が起きたのはつい先程のことだった。バイクに乗った青年が車とぶつかって転倒してしまった。事故の拍子にヘルメットが青年から外れ、顔が見えていた。僕と同じ顔。青年は頭を強く打っており、血を流していた。僕は呆然と立ち尽くしている。けれど見逃さなかった。事故の瞬間、青年から何か青白い光が飛び出した。それは地面に吸い込まれるように消えていった。その光景は写真のように鮮明に残る。そして青年は病院に運ばれ、今の僕が出来上がっていくまでの過程がどんどんと早送りされていく。僕はその映像にただ立ち尽くすしかなかった。僕の記憶が次々と蘇っていく。なんでこんなことを忘れてへらへらと笑っていられたのか、不思議で堪らない。僕はようやく思い出すことができたのだ。
    「ああ、やっぱり。君は僕だったんだね」
    人影が現れる。影が晴れると喪服を着た僕が表れた。『それ』は僕。抜け落ちた記憶から生まれた感情の塊。
    「僕に何か用かな?」
    僕が『それ』にそう問いかけると、影から出てきた彼は何も言わずに僕を見た。
    「・・・」
    「君は僕の感情だ。そうだよね?」
    僕は彼にそう尋ねる。彼は何も答えない。無言のまま僕を見据えている。しばらく沈黙が続いた後、不意に口を開いた。
    「ようやく思い出した。産まれてからの全てを」
    「記憶を失ってからのことも繋げ」
    「「僕という存在がどういうものかを」」
    二人同時に言葉を発した。一人は笑顔で、もう一人は少しの嫌悪感を交えた表情。それが僕にはどうもおかしくて笑ってしまう。
    「あははっ!まさか僕という存在がここまで不完全なものだとは思わなかったよ!」
    彼はその発言に首を傾げる。僕は続けて話す。
    「魂の欠落が起こした記憶喪失。感情とは魂の一部に過ぎず、肉体とは魂の器。だが、肉体を失えば魂は存在することができない」
    「肉体がなければ、記憶を思い出すこともない」
    彼は僕の話を聞くと小さく頷く。彼も分かっているのだろう。自分の不完全さを。だから僕は彼を認めることにした。
    「そうだ、君は感情だ」
    そして僕もまた僕なのだ。感情がなければ僕は存在しないし、感情がない。正の感情があっても、負の感情が無ければ成り立たない。二つに分かれたからこそ、一つに戻らなければならない。
    「肉体があってこその魂、肉体があってこその記憶。でも、僕はあの出来事があって二つに分かれた。だから君と僕は不完全な存在なんだ。君の存在は僕には必要で僕も君の存在が必要だ」
    僕は彼に手を差しだす。
    「麻里の元に帰ろうか、君も麻里に会いたかったんでしょ?」
    彼は僕の手を取ると影に沈んでいく。
    「ああ、麻里に会いたいな」
    僕は彼と手を繫いで妹の元へ歩いて行く。妹は僕のことをずっと待っていてくれたようだ。早く会いに行かなければ・・・。


































































    「お兄ちゃんが・・・」
    影溜まりの前で麻里は心配していた。俺の目の前で影に呑まれた暁人。あの怪物は何か暁人に目的があったのだろう。そう考えていると、影から泡沫が浮かび上がってきた。
    「お兄ちゃん!」
    泡沫は暁人を抱えていた。影から身体が飛び出す。気を失っているが、目立った外傷もないようだ。髪を見ると白かった前髪が黒く戻っていた。
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