「まぁまぁ」
「どうしたの愛?」
「むー」
「フフッ、相変わらず愛はママのことが好きなんだね」
「うんしゅき!」
暁人に抱きつく愛。見た目は麻里と同じくらいなのだが12月の末に産まれたばかりで、少しずつ言葉を覚え始めているところだ。
「パパのことも好き?」
「ぱぁぱもしゅきー!」
愛と遊んでいる時の暁人は本当に幸せそうだ。それは見ているだけでも分かった。
「ぱぁぱぁ」
「どうした?うわっ!」
「えへへっ」
呼ばれたと思ったらいきなり抱きついてきた愛に俺は戸惑いながらも、しっかりと抱きとめる。
「パパは愛のことが大好きなんだよ~」
「ぱぁぱだいしゅき!」
「俺も愛が大好きだよ」
「しゅき~!」
愛が俺に抱きついてからというもの、暁人も愛にメロメロだ。
「はぁ・・・娘と旦那が可愛すぎる」
完全に親バカになってしまったようだ。まぁ分からなくもないが。
「ん~!」
「どうした?愛」
「ぱぁぱ、たか~い」
俺に抱きついていた愛は、たかいたかいしてほしいとお願いを始めた。それを断る理由があるだろうか。いやない。
「ほれ」
「きゃははっ!」
高校生くらいの体格なので愛はそれなりに重いが、それは幸せな重さだと俺は感じる。その前に自分の身体がある意味改造されているので、楽々と持ち上げていた。
「やっぱり娘と旦那が可愛すぎる・・・」
このセリフ、今日だけで何度聞いたことか・・・。まぁ俺も似たようなことを考えているので人のことは言えないのだが。
「ぱーぱ!」
「ん?どうした愛?」
「ちゅ~」
「っ!?」
いきなりキスをされた俺は驚きつつ、嬉しいと思ってしまった。
「愛ちゃん?パパにいきなりキスはダメだぞー?」
「やー!」
「嫌なのか・・・パパ悲しいぞ」
と口では言っているが、内心ではすごく喜んでいる自分がいる。
「愛、ママにもしてくれるかな?」
暁人は愛に手招きをする。
「うん!」
とてとて、という擬音が似合いそうなハイハイで暁人のところに行く愛。そしてそのまま頬にキスをした。
「可愛いなぁ」
頬を押さえてニヤける暁人。まぁその気持ちは分からなくもない。俺が愛にキスされたら同じようになると思うし。
「だっこー!」
そう言って俺の腕を引っ張った愛を、俺は再び抱きあげた。
「きゃっきゃ!」
愛は楽しそうにしている。その笑顔が俺たちにとって一番幸せなことだと感じた。
「ぱぁぱぁ・・・」
「どうした?」
愛の目蓋が閉じかけている。まだ産まれたばかりで体力があまりないのか、かなり眠たいのだろう。
「眠いか?」
「ねむい・・・」
「寝るか?」
「うん・・・」
俺の腕の中ですぐに眠りについた愛。暁人はスマホを取り出すと愛の寝顔を収める。
「ふふっ、可愛い」
「だな」
暁人と俺は愛が寝落ちした直後に、そう呟いた。
「んぅ・・・」
軽く身動ぎして、落としそうになるがすぐに持ち直す。
「えへへ・・・ぱぁぱ・・・」
夢の中で俺と遊んでいる夢でも見ているのだろうか、寝言で俺のことを呼ぶ愛。その寝顔は幸せに溢れているように感じた。
****
「蕎麦か?」
「そうだよ」
キッチンで仕込んでいる暁人に声をかける。コンロには鍋が火にかけられ、蕎麦が茹でられている。
「だって今日大晦日だし」
「えぇ?マジか?」
デジタルの置き時計を見ると曜日の欄には12月31日と表示されている。
「マジか」
「大マジ。あ、蕎麦の固さこれでいい?」
箸で蕎麦を摘まむと爪を使って短い長さにして俺に渡す。
「あぁ、サンキュ」
俺はそれを受け取って食べる。
「こっちの鍋はなんだ?」
コンロには大きい鍋とその隣に小さい鍋があった。
「愛の分」
暁人は笑顔で答える。蕎麦が茹で上がったようで、暁人は火を止めた。丼を用意て、そこに茹で上がった蕎麦を入れる。
「愛起こしてくる」
「はーい」
俺は寝室に入っていった。ドアを開けるとスヤスヤと寝ている愛がいたので優しく声をかける。
「愛?そろそろ起きてくれ」
「んんぅ・・・」
愛らしい声を出して俺の方を見る愛は目を擦りながら起きた。
「ぱぁぱ・・・」
「ご飯ができたぞ」
「ん~」
目を軽く擦る愛を俺は抱き上げるとリビングに戻る。
「もうすぐできるからな」
俺は愛を抱えたまま、テーブルの前に座る。
「できたよ~」
お盆に蕎麦の入った丼を乗せて暁人が運んできた。愛の分はピンクの可愛らしい器に入れられている。
「おう、いただきます」
「いただきましゅ!」
愛を隣に座らせてから蕎麦を食べる。ちょうどいい温かさで俺は気持ちよく食べ進めていた。
「あー・・・むっ」
蕎麦を見ると食べやすいように細かく刻まれているが、それよりも愛が自分でフォークを使って食べていることに驚いた。
「驚いた?KKがいない間に練習させたんだ」
「なるほどな・・・でもすげぇな愛は。上手にフォークを使えてるぞ」
「えへへっ」
少し照れ臭そうに笑う愛に俺は頭を撫でる。
「ぱぁぱ、もっとぉ!」
俺に頭を撫でられるのが好きな愛はもっと撫でろと要求してくる。
「はいはい」
俺は苦笑しながらも、求められるままに頭を撫でた。
「ふふっ・・・こんな光景を見るのが僕の夢だったんだよね」
暁人は俺たちを見て微笑みながら蕎麦を食べる。
「そうか・・・」
「ぱぁぱぁ?」
「ん?どうした?」
「だっこー!」
愛は俺に手を伸ばして抱っこをせがむ。俺は体を持ち上げて、膝の上に座らせた。
「えへへ~」
満足気に笑う愛の頭を優しく撫でると、また嬉しそうに笑った。そしてそんな光景を暁人が羨ましそうに見ていることには気づいているが、今は愛を甘やかす方を優先する。
「ほんと幸せだなぁ・・・」
蕎麦を食べながら幸せそうに呟く暁人を見て俺も嬉しくなるのだった。