「なんでこっち来んだよ」
凛子が家にやって来てから、絵梨佳に続いてエドやデイルまで遊びに来ていた。
「だって暁人さん地縛霊なんだから」
絵梨佳が言うには暁人は地縛霊のため家から一歩もでることでが出来ないため、代わりに来てやろうという算段だ。
「暁人さんって勉強教えられる?」
「どうだろう、10年くらい前の知識だから通用するかな・・・」
「10年じゃそんな変わらないだろ」
「だってその時死んだから」
「歳は?」
「22」
「若いな、となると生きてたら30は越えてたか」
「KKは?」
「40越えた」
「絵梨佳ちゃんは?」
「私まだ16」
絵梨佳も俺に続いて歳を明かす。
「僕も生きてたら仲間がいたのかな・・・」
暁人が窓際で顔に影を落としながら呟く。
「お前だって生きてたら家庭を持ってたはずだよ」
暁人の肩をポンと叩くと、少し悲しい笑顔を見せた。俺も家庭を持っていた頃を思い出して沈んだ気持ちになってしまう。
「「はぁ~」」
二人してため息をついてしまった。あの時の幸せはもう・・・。
****
「おいしい?」
「おいしい!」
暁人の作った肉野菜炒めに絵梨佳が満足気な表情を浮かべている。
「そりゃ良かった、おかわりもあるからね」
「ありがとうございまーす」
暁人がキッチンに戻って食事の片付けをしている。絵梨佳も手伝おうと席を立ちかけたが、それを俺が制した。
「やっぱり生きてるっていいよね・・・」
ぼそりと呟いた暁人の言葉は沈んでいた。
「・・・俺もそう思うよ」
俺が独り言のように返すと、絵梨佳が席を立って俺に声をかけてきた。
「暁人さん元気だして、これからいっぱい楽しい思い出作ればいいんだから」
「そうだね・・・」
絵梨佳がお昼を食べ終えて帰ったところ、俺と暁人はリビングでくつろいでいた。
「暁人、生前になんかあったのか?」
「・・・なんでそう思うの?」
「お前みたいな若いやつが地縛霊になっているのが気になってな」
「・・・」
暁人は首に巻いている白いスカーフに顔を埋める。暁人はいつもスカーフや手拭いで首を隠していて、前に少し触れただけで泣いてしまった。
「一服していいか?」
「・・・いいよ」
俺は踞る暁人の隣で煙草を取り出すと紫煙を漂わせた。
****
ある日、俺はあるものを買いに外へ出かけていた。暁人に遅くなると言ったが意外に早く済んだので帰ってきたときは驚かれた。
「KKおかえり、買いたいものあった?」
「これだ」
暁人にスマホを渡すと、暁人はそれをまじまじと見つめる。
「これって・・・何?」
「ガッ!」
暁人はスマホを知らなかったし、俺は転けた。
「スマホだよ」
「スマホ?・・・僕ガラケーしか使わなかった」
「お前が生きていた頃に流行り始めたんだが」
「知らなかった」
「・・・とにかく、連絡用に」
「これどうやって使うの?」
「あーもう」
暁人にスマホの使い方を教えるが、教え終わる頃には立場が逆転していた。
「とりあえずメールと電話さえ覚えてればいい、俺が出かけているときに何かあったら連絡してくれ」
「ありがとう」
すると俺のスマホに着信が入り、画面を開くと
〈今日の晩御飯何する?〉
「本人が目の前にいるんだから喋れ」
初めてのメールがこれとは如何に。とりあえず俺は暁人の目の前で返信した。
〈なんでもいい〉