Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kotobuki_enst

    文字ばっかり。絵はTwitterの方にあげます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 47

    kotobuki_enst

    ☆quiet follow

    凪あん。いちゃいちゃはしてないけどべたべたはしてる。お互いの普通や適切が違った位置にあると寂しかったり混乱したりなんか色々大変そうだね。

    ##凪あん

    距離感「……これは、どう?」

     ぎりぎり触れ合わないくらいの距離だった。近すぎて目のピントが合わず、彼の面持ちはよく分からない。発せられた言葉が吐息となって私の口元にかかる、その感覚だけはよくわかった。

    「駄目、です」

     そう言ってから、私の息もまた同じように彼の顔に吹きかかっているということに気が付いてたまらなく恥ずかしくなる。

    「どうして? 触れてはいないよ」
    「近すぎます。これはさすがに、普通の距離感じゃないです」

     そうなんだ。そう呟いて、彼——乱凪砂さんはその端正な顔を遠ざけた。適切な距離まで離れてようやく、止めていた呼吸を再開する。いくら粒ぞろいのアイドルたちに囲まれて過ごしているといっても、こんな鼻先が触れ合ってしまいそうなほど距離を詰められた経験はほとんどなかった。心音がいつもより大きく頭に響くのが耳障りだ。
     普通の距離感とは何だろう。彼のその問いには私も答えを出せないでいた。男女の親密さについて注意を受けるのは、私も同じだったから。手を繋ぐこともハグをすることも、今まで当然のように重ねてきたコミュニケーションはここでは非常識と捉えられてしまう行為だった。可愛い後輩に親しい友人、尊敬する先輩。たとえ互いに恋愛感情がなくとも、親愛を抱く人と触れ合うことは安心をもたらしてくれるのだけれど、『普通』はそれを許してくれないらしい。先日私のこんがらがった髪の毛を梳いて整えてくれた彼も同じことを注意されたのだという。

    「……たとえ相手と接触を果たしていなくても、顔同士を近づけるのは駄目なんだね。キスを連想させるからかな」

     それならば試してみようと提案したのは彼の方からだった。夢ノ咲は距離感バグってますもんねぇというのは彼のユニットの後輩の言葉。同じ学校の先輩という立場を持たない彼ならば一人の異性として、適切な距離感を計るためのものさしになるのではと思い了承した。

    「乱さんは人の顔が近くにあるのが恥ずかしかったり嫌だったりはしないんですか?」
    「……あまり、ないかな。日和くんはいつも私の話を聞くときはこんなふうに耳を近付けてくれるから」

     唐突に、そういえば昨年にもTrickstarのみんなと同じようなことがあったなと思い出した。あれは確か北斗くんだった。私と顔を合わせるために私の頭を鷲掴んで顔を近付けて、キスしそうだとスバルくんと真くんにからかわれていた。
     あの頃ならきっとキスだってできた。今はもう、その気持ちを愛だと認めてくれる人はいないのだろうけど。

    「……体を近付けるのが駄目なら、触れることもきっと駄目なんだろうね。君の髪に触れたことを茨に怒られてしまったように」

     そう言いながらも、彼は私の顔の横に垂れる髪の一房を指先ですくい上げ、擽るような動きで指通りを楽しんだ。最近は身だしなみや美容に一家言ある先輩方が揃って海外へ行ってしまったこともありヘアケアが疎かになってしまっている自覚があるので、あまりじっくり見られるのは恥ずかしい。

    「七種くんに怒られますよ」
    「……そうだね。でも、今は茨も見ていないから」

     手始めに吐息のかかるほどの距離を試してしまったので、もう試すことはないように思えた。アイドルとプロデューサーとして、年頃の男女として、ひとの体に触れたり近付いたりすべきではないのだ、きっと。それはとても寂しいけれど、彼らを守るためでもある。
     いまだ飽きずに私の髪を撫でる彼を咎めるように彼の右手に手を伸ばす。それに気付いたらしい彼の手は素早くするりと髪から離れていったけれど、今度はその手でまるで猫にそうするように私の喉元を擽りだした。ずいぶんと楽しそうに、切れ目の目元がさらに細められる。

    「これも駄目です。完全に駄目です」
    「……駄目?」

     指先がおとがいを無でるのがなんともこそばゆかった。一歩下がろうとした私を彼は目ざとく察し、空いている片手を腰に回されゆるく阻まれる。

    「……さっき君は私に、嫌ではないかと聞いたよね。あんずさんは? 私に触れられるのが嫌だと、不快だと感じることはある?」
    「嫌、では、ないですけど」
    「……ふぅん、あんずさんが嫌がっていなくても駄目なのはどうして?」
    「七種くんに怒られるからで」
    「茨はここにはいないよ。さっきも言ったね」

     喉を撫でさする彼の手が、だんだん上へと移っていく。首から顎下へ、顎から頬へ、頬から耳へ。ぞわり、得体の知れない何かが背筋から脳天へ駆けていった。

    「だ、駄目です、乱さん」
    「……なぜ? 私も納得できる理由が欲しいな」
    「ら、乱さん」

     親指で頬のかたちをなぞる彼の右手を、腰を抱く力を強める彼の左手を非難するようにそれぞれの手に自分の手を重ねる。痛くない程度に力を込めて、離れるべきだと言外に伝える。彼はいつの間にかまた近い位置に来ていた。脚はほとんど密着し、彼の顔も睫毛の本数を数えられるくらいには近い。彼はなぜか、楽しそうに優しく笑っていた。

    「駄目、や、嫌です」
    「……嫌? 他の子とはこれくらいに密着しているところを見たことがあるけれど。これは君を不快にさせる行為?」
    「嫌、嫌です。私乱さんとは、こんな」
    「……そう。私だから嫌なんだね」

     巻き付けられた彼の左手がするりと離れていった。頬を撫でていた右手も動きが止まる。咄嗟に彼から一歩分の距離を置いた。
     彼を傷付ける言葉を選んでしまったようだった。が、反省はしても後悔はしていない。あそこで止まれなかったら、どうなっていたのだろうか。また、背中を何かが駆け抜けた。

    「ごめんなさい。乱さんのことが嫌いなわけではないんですけど……」

     恥ずかしいとも、怒られそうとも違う気持ちだった。少しだけ怖かった。
     安心感だけを与えてくれると思っていた人との触れ合いが、不安を煽るようなものでもあるだなんて知りたくなかった。人一人分空いた距離だけが大きな安心感を与えてくれた。小さく息を吐いて、いつの間にか早まっていた心拍をどうにか落ち着かせる。
     この部屋に監視カメラは付いていただろうか。万一、七種くんにでも見られていたら面倒臭そうである。どんな弁解をすればいいか、彼は口裏を合わせてくれるだろうか——。私の思考が完全に言い訳モードに移行してから、彼の両手は伸びてきた。

    「……不思議だね。君に触れている間、私はとても幸福だったのだけれど。今の君は、とても辛そう」

     人一人分の安心感が、不意をついて奪われる。

    「……私だけが、普通に適応できないのかな」

     「駄目」と「嫌」とどちらを言えばいいのだろうか。そんな一瞬の勘考が仇となり、口腔から意味を成す言葉を発する前にぴったりと距離を詰められた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺👏👏👏😍🙏💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    kotobuki_enst

    DONE人魚茨あんのBSS。映像だったらPG12くらいになってそうな程度の痛い描写があります。
    全然筆が進まなくてヒィヒィ言いながらどうにか捏ね回しました。耐えられなくなったら下げます。スランプかなと思ったけれどカニはスラスラ書けたから困難に対して成す術なく敗北する茨が解釈違いだっただけかもしれない。この茨は人生で物事が上手くいかなかったの初めてなのかもしれないね。
    不可逆 凪いだその様を好んでいた。口数は少なく、その顔が表情を形作ることは滅多にない。ただ静かに自分の後ろを追い、命じたことは従順にこなし、時たまに綻ぶ海底と同じ温度の瞳を愛しく思っていた。名実ともに自分のものであるはずだった。命尽きるまでこの女が傍らにいるのだと、信じて疑わなかった。





     机の上にぽつねんと置かれた、藻のこんもりと盛られた木製のボウルを見て思わず舌打ちが漏れる。
     研究に必要な草や藻の類を収集してくるのは彼女の役目だ。今日も朝早くに数種類を採取してくるように指示を出していたが、指示された作業だけをこなせば自分の仕事は終わりだろうとでも言いたげな態度はいただけない。それが終われば雑務やら何やら頼みたいことも教え込みたいことも尽きないのだから、自分の所へ戻って次は何をするべきかと伺って然るべきだろう。
    5561

    kotobuki_enst

    DONE膝枕する英あん。眠れないとき、眠る気になれないときに眠りにつくのが少しだけ楽しく思えるようなおまじないの話です。まあ英智はそう簡単に眠ったりはしないんですが。ちょっとセンチメンタルなので合いそうな方だけどうぞ。


    「あんずの膝は俺の膝なんだけど」
    「凛月くんだけの膝ではないようだよ」
    「あんずの膝の一番の上客は俺だよ」
    「凛月くんのためを想って起きてあげたんだけどなあ」
    眠れないときのおまじない ほんの一瞬、持ってきた鞄から企画書を取り出そうと背を向けていた。振り返った時にはつい先ほどまでそこに立っていた人の姿はなく、けたたましい警告音が鳴り響いていた。

    「天祥院先輩」

     先輩は消えてなどはいなかった。専用の大きなデスクの向こう側で片膝をついてしゃがみ込んでいた。左手はシャツの胸元をきつく握りしめている。おそらくは発作だ。先輩のこの姿を目にするのは初めてではないけれど、長らく見ていなかった光景だった。
     鞄を放って慌てて駆け寄り目線を合わせる。呼吸が荒い。腕に巻いたスマートウォッチのような体調管理機に表示された数値がぐんぐんと下がっている。右手は床についた私の腕を握り締め、ギリギリと容赦のない力が込められた。
    2294