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    kmmr_ota

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    GWT / K暁 / エンディング後の話(書ききれるといいな)

    ##GWT

    チープ・スリル(仮題)- 3 暁人は人の勢いに押されながら、渋谷駅の山手線ホームへ降り立った。帰宅ラッシュに沸く駅構内をすり抜けて、改札を出て街に踏み出す。
     調査対象の家からアジトのある渋谷まではそう遠い距離ではなかったが、電車に乗っているうちに日は暮れてしまった。外はもうすっかり暗い。秋は深まり、夜は日々、足早に訪れる。いつもマレビトたちが闊歩していたスクランブル交差点は、たくさんの人であふれかえっていた。俯いて手元のスマートフォンを見つめている人、何人もの友人と連れ立った若者、サラリーマン、外国人観光客がなにかの群れのように動く人々を動画に撮る姿も見えた。
     この中に、あのとき救った誰かがいるかもしれないな。
     信号待ちをしながら、暁人はぼんやりと、周りを目線だけで見渡した。
     それと、救えなかった人たちが遺して行った、大切な人も。

     あの夜、暁人とKKは渋谷を駆けずり回り、渋谷にいたほとんどの人々を救うことができた。しかし、すべてが元どおりにとはいかなかった。
     後悔を囚人のように引きずって、霧立つ森に伸びる石段を登りきったとき、暁人の目の前には混乱に満ちた渋谷の街が広がっていた。
     人に顔がある。
     その光景を見た瞬間、暁人はとっさにそう思った。交差点に立ちすくむ人々は、みな困惑の表情を浮かべていたが、生気をたたえた人間の表情が、見渡す限りあちこちにあった。
     みんな生きてる。
     暁人は膝から崩れ落ちそうになった。よかった。暁人は麻里を助けたくて、それだけ見つめて、なんとかしがみついてここまで走ってきた。けれど、街に浮かぶ幽霊たちの囁き声が聞こえるたびに、その命の声は、すこしずつ重みになって、暁人に降り積もっていた。
     僕にも、確かに守れたものがあった。
     その安堵は、同時に体の芯にしびれるような疲労を呼び覚ました。つかれた。脳が揺れる。とにかく、いまは眠りたい。全てを忘れて、深く、深く。
    「おい、暁人?」
     KKの心配と困惑が混じった声が響いて、ボヤけた頭で暁人は大丈夫、と返した。声はひどく掠れて、虚勢であることはわかりきっていた。情けないところばっかりだな、となんだか暁人は笑えてきた。自分がみじめに思えてきて、笑うしかなかった。
     ふらふらの暁人を尻目に、人々の混乱のボルテージは上がっていった。あちこちに残る事故の跡、車両の混乱。霧があふれて人が消えていった記憶、なにより、それに己が飲み込まれた記憶。恐怖と安堵、啜り泣く声が響く中で、暁人だけがぼんやりと取り残されていた。
     そこからどうやって自室に戻ったものだか、正直、暁人は覚えていない。自宅の場所を問われた記憶がぼんやりあるので、KKが代わりに連れて行ってくれたのだろう。泥のように眠り、眠り、眠って、起きた時に付けたテレビのニュースで、暁人は帰らぬ人々の存在を知った。
     人々の肉体を消失させた霧は時間差で渋谷にあふれた。そのため、発生した交通の混乱で事故に巻き込まれ、亡くなった人がいた。その人たちは戻らなかった、そういうことらしかった。テレビが報道する被害者の名前には、何人かの見知った名前もあった。八雲凛子、絵梨佳、伊月麻里。KKはだまってニュースを見ていたが、ちなみにオレの名前もあるぞ、とそっけなく口を挟んだ。
     つまり、救えた人がいた中で、救えなかった人もいた。それだけの話だった。
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    kmmr_ota

    PROGRESSGWT / K暁 / エンディング後の話(書ききれるといいな)
    チープ・スリル(仮題)- 8 さまざまなマレビトと切った張ったの戦いを繰り広げてきた暁人でも、その門前に立ったときにはさすがに尻込みした。両手をいっぱいに広げても三人ぐらいは並べそうだ。高くもモダンなつくりの塀と木々で、屋敷の全容は外から把握できない。
    「どこまで続いてるんだろう」
     からだを乗り出して塀のさきを覗こうとした暁人の右手が、パントマイムみたいにぐい、と引っ張られた。KKの声がぼそりと呟いた。
    「やめとけ、知らんほうがいいこともある」
    「……それもそうだね」
     ひっぱられるままに任せて、暁人はもういちど身体を門の前に据えなおした。駅からここまでの道のりに立ち並ぶ家のなかでも、飛び抜けて立派な豪邸が本日の目的地である。
     あたりまえではあるが、東京に住まう妖怪たちについて、世間は認知していない。最後の関係者である娘にアポを取るにしても、どのように話を持っていくべきかと暁人は悩んだ。が、ええいままよ、と電話を掛けてみれば、あっけないくらいに電話のアポイントは快諾された。暁人が身分を名乗り、事情説明が隣家の主人と座敷わらしにまでおよんだ途端、あっけらかんと言われたのだ。
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