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    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。
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    zeppei27

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    企画2本目、うさりさんよりいただいたご指名の龍馬で、『匂いを嗅ぐ』です。龍馬は湯屋に行かないのでなんというか……濃そうだな、などと具体的に想像してしまいました。香水をつけていることもあり、変化を楽しめる相手だと思います。
     リクエストありがとうございました!

    #RONIN
    #小説
    novel
    #隠し刀
    #龍主龍

    聞香 千葉道場の帰り道は常に足取りが重い。それなりに鍛えている方だが、疲労は蓄積するものなのだと隠し刀は己の限界を実感していた。所詮は人の身である。男谷道場も講武館も、秘密の忍者屋敷もすいすいとこなしたところで、回を重ねれば疲れるのも道理だ。
     が、千葉道場は中でも格別であった。理由の一つは毎度千葉佐那が突撃してくることで、一度は勝負しないと承知してくれない。そうでもなければ、「私に会いに来てくださったのではないですか」などとしおらしい物言いをされるので弱ってしまう。健気な少女を健全に支えたつもりが、妙な逆ねじを食わされている形だ。
     佐那だけならばまだ良い。性懲りもなく絡んでくる清河八郎もまあ、どうにかなる。問題は最後の一つで、佐那が坂本龍馬と自分との手合わせを観たいとせがむところにあった。彼女は元々龍馬と浅からぬ因縁があり、ずるい男は逃げ回るばかりで年貢を納めようとしない。その癖、隠し刀の太刀筋が観たいだのなんだの言いながら道場までついてくる。佐那は龍馬と手合わせできないのであれば、二人が戦う様を観たいと譲歩してくれるというのが一連の流れだ。
     ややこしくも煩わしいが、実際のところ隠し刀としても龍馬に年貢を納めてもらっては困る立場である。佐那には口が裂けても内情を漏らすことはできない。あるいはひょっとすると賢い彼女は何かに気づいて、自分たち二人を手合わせさせたがっているのかもしれなかった。僅かながらの良心の痛みから、ついで楽しみもあって龍馬と手合わせをする。夢中になるうちに死に物狂いの一歩手前まできて、ああもう今日は無理だと二人して大の字になるのだ。いい加減己らの体力を鑑みよ、と記憶の中の研師が叱責する。
    「今日もしょうまっことやりきったのう」
    「やりすぎだ」
    のんびりと言う龍馬の顔は、夕空よりも澄み渡って穏やかである。満足しきったと書かれた表情に、先ほどの手合わせでの張り詰めた様子は少しも伺えない。
    「短銃は使わんかったき、手加減はできちょろうが」
    「道場で持ち出すものではないだろう」
    誰ぞに当たりでもしたらば事だ。冗談とわかりつつも真面目に反論すると、龍馬がにししっとだらしのない笑い声をあげた。余裕があって何よりである。まともに取り合うだけ骨折り損だ。
     麦酒を飲んで、帰りがけに湯屋に寄ろう。否、逆の順序の方がほろ酔いを楽しめるかもしれない。などと今夜の算段をつけていると、ふわりと良い香りが漂って隠し刀は足を止めた。
    「どうしたかえ?」
    「少し待ってくれ」
    香りの元を辿るべく鼻を動かせれば、すわ剣呑な事態かと龍馬が身を強張らせる。香りは聊か複雑なようだ。マシュー・ペリーが昔贈ってくれた上物のウヰスキーにも似た甘み、苦み、海、鉄錆、最後に香るのは少々の埃っぽさと油っけ、到底良い取り合わせには思われないのだが、混じり合った結果はなんとも興味深い。
    「んー」
    香りを探って一歩踏み出す。と、にわかに香りが強くなり、隠し刀は迷わず根源に顔を突っ込んだ。
    「わ!おまん、何するがよ!」
    「少し黙ってくれ」
    狙い違わず、香りの元は大胆に開いた龍馬の胸元であった。もじゃもじゃと生えた体毛がくすぐったい。うろたえる龍馬を他所に首筋や背中も確認し、間違いないと隠し刀はうなずいた。
    「……お前、良い匂いだな。美味しそうだ」
    「それは本気の目じゃな。やめえ!儂は食べ物ではないぜよ」
    「舐めても良いか?」
    これだけ良い匂いがするのだ、食べたらば文句なく咀嚼できる自信がある。されども龍馬の抗議はもっともで、見るからに慌てた男はああだのううんだの言って顔を真っ赤に死、とうとう絞り出すようにして打開策を提案した。
    「わかった!こいはきっところんぜよ」
    「ころん?」
    「西洋じゃあ、身だしなみとして香りをつけゆう。横濱にいた頃、商人から買うたがじゃ。帰ったらおまんにも分けてやるき、今は勘弁せえ」
    「ふむ」
    香りをつけた、というのであれば一理ある。鰻のかば焼きの美味しさは、何よりタレの匂いに負うところが大きい。
    「つまり、お前は鰻だな」
    「なんの話じゃ!」
    わいのわいのとやり合いながら、どうにも腹が減って仕方がない。江戸は名物、鰻のかば焼き、これを食べぬ手はないだろう。龍馬の腕を引っ張ると、隠し刀は勝海舟に紹介された名店へと誘った。

    ***

     散々な目に遭ってしまった。湯屋に行くのをさぼり、ころん任せで乗り切ろうとした矢先にすんすん匂いを嗅がれる羽目になるとは、故郷で乙女姉さんが龍馬の不衛生さを怒っているのかもしれない。
     生業柄、匂いに敏感な隠し刀の判断は信頼がおける。いつぞや、うっすらとしか漂わない火薬の匂いから、蔵に潜む敵を文字通り嗅ぎ当てた手腕は見事なものだった。美味しいかどうかはさておき、悪い意味でとらえられなかっただけ不幸中の幸だろうか。
     鰻屋でも鰻と自分とを交互に嗅がれて閉口し、珍しくも湯屋に直行しての帰宅と相成った。湯屋の後では気にならなかったのか、何も言われなかったのでやはり、と心持沈んだのは秘事である。
    「昨夜話したころんちゅうんは、こいじゃ。これからは、儂を嗅がんでええろう」
    「ありがとう」
    早速翌日、目当てのものを探していそいそと長屋に向かう己の姿を、龍馬は我ながら滑稽だと苦笑した。早起きの隠し刀は驚きもせずに迎えると、小瓶を受け取り破顔する。初めて見る表情で、また一つ人間味を増した相手に龍馬は胸がきゅんとした。
     隠し刀は慎重な手つきで小瓶の蓋を取り、はたはたと手で煽って香りを浅く、ついで深く吸い込む。まるで毒物を扱うかのようだ。胸が大きく膨らみ、ゆるゆるとしぼむ。さて正解かどうか。常にない緊張と共に待つ時間は、恐らく数秒のことだろうが、数時間は過ごしたように感じられる。どうだ、どうだ―
    「違う。これではない」
    「なんじゃと?」
    にべもなく否定するなり、隠し刀は瓶の蓋を閉めてこちらに襲い掛かって来た。完全な不意打ちになすすべもなく、再び昨日の醜態が繰り返される。胸元で深く息を吸われ、吐かれる。何が起きるかわかっているだけに、昨日以上に恥ずかしかった。恐らく自分の顔は耳まで真っ赤に染まっていよう。
     頼むから、今は誰もこの長屋を訊ねないでほしい。仲の良さを見せつけるのは大歓迎であっても、これは話が別だ。格段の羞恥心を味わう拷問を経て、隠し刀はようやっと顔を上げた。
    「わかったぞ、龍馬。やはりお前が美味しそうだ」
    「……頼むき、もっと説明してくれ」
    「承った」
    さて専門家の説明によると、隠し刀が『美味しい』と感じる匂いの元は二つから成り立っている。一つはころん、ウヰスキーにも似た酩酊感は良いと気に入った風であった。今一つは、よりにもよって―
    「龍馬。お前の汗だ」
    「な」
    なんちゅうことを言いゆうが!もはや悲鳴に似た叫びは、声にさえならなかった。ぶわっと体が熱を持つ。途端隠し刀が機は今とばかりにとびかかって、またぞろすうはあしてくるのだから、たまったものではない。一体何が悪かったのか。己が美味しいばかりにか?
    「諦めろ。美味しいのはお前だけだ」
    「おんし、ほりゃあ殺し文句ろう」
    自分の完敗だった。全身から力を抜くと、もう相手の好きにさせるに任せる。ついで、龍馬は相手の匂いをすんすんと嗅いだ。普段こねくり回してる薬の匂い、丁子油のほんのりとした甘く上品な香り、それにその先には、と踏み入って相手の気持ちに得心が行く。
     確かにこれは美味しそうだ。深く息を吸うと、龍馬は恥も外聞もなく相手の肩口に顔を埋めた。


    〆.
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    zeppei27

    DONE企画2本目、うさりさんよりいただいたご指名の龍馬で、『匂いを嗅ぐ』です。龍馬は湯屋に行かないのでなんというか……濃そうだな、などと具体的に想像してしまいました。香水をつけていることもあり、変化を楽しめる相手だと思います。
     リクエストありがとうございました!
    聞香 千葉道場の帰り道は常に足取りが重い。それなりに鍛えている方だが、疲労は蓄積するものなのだと隠し刀は己の限界を実感していた。所詮は人の身である。男谷道場も講武館も、秘密の忍者屋敷もすいすいとこなしたところで、回を重ねれば疲れるのも道理だ。
     が、千葉道場は中でも格別であった。理由の一つは毎度千葉佐那が突撃してくることで、一度は勝負しないと承知してくれない。そうでもなければ、「私に会いに来てくださったのではないですか」などとしおらしい物言いをされるので弱ってしまう。健気な少女を健全に支えたつもりが、妙な逆ねじを食わされている形だ。
     佐那だけならばまだ良い。性懲りもなく絡んでくる清河八郎もまあ、どうにかなる。問題は最後の一つで、佐那が坂本龍馬と自分との手合わせを観たいとせがむところにあった。彼女は元々龍馬と浅からぬ因縁があり、ずるい男は逃げ回るばかりで年貢を納めようとしない。その癖、隠し刀の太刀筋が観たいだのなんだの言いながら道場までついてくる。佐那は龍馬と手合わせできないのであれば、二人が戦う様を観たいと譲歩してくれるというのが一連の流れだ。
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    zeppei27

    DONE企画1本目、ハレさんよりいただいたご指名の桂さんで、『ネクタイいじり』です。洋装がある人に当たったピッタリ具合にニコニコしました。靴紐結びも良い~ですが、命の危険性があるネクタイが一番好きです。蝶ネクタイ以外も色々おしゃれを楽しむ姿を……見たいよ!
     ネクタイが前からではなく後ろからしているのも込みで趣味です。
     リクエストありがとうございました!
    戯れ 朝の支度は煩わしい。新政府が立ち上がってからというもの、ただでさえ目まぐるしい職務の始まりに、桂小五郎もとい木戸孝允は今日も翻弄されていた。顔を洗って寝間着を脱ぐ。ここまでは宜しい。
     しかし、幼少期から慣れ親しんだ旧時代を置いてしまうと、途端に心もとなくなる。シャツ、靴下止めに靴下、ズボン、ズボン吊り、ベスト、ああ全くどうしてこんなにも身に着けるものが多いのだろう。小道具まで揃えると煩わしさは頂点に達する。
    「おはよう。どうだ、順調か」
    「おはよう。わかるだろう?恥ずかしながらこの体たらくだ」
    するりと入り込んだ声に自室の戸口を見れば、苦楽を共にした隠し刀が顔を覗かせていた。昨晩まで同じ褥に入って暴れまわったというのに、方や前途多難、方や完璧に身なりを整えているとはどういうことだろう。思えば情人は、奇兵隊の影響を受けて出会って早々に洋装に切り替えていた。おまけに手先がひどく器用で、小五郎はしばしば髪結いなども手伝ってもらったものである。
    3118

    zeppei27

    DONEなんとなく続きの主福で、単品でも読めます。ちょっと横浜の遠くまで、紅葉狩りデートをする二人のお話です。全く季節外れですが、どうしても書きたかったので!一緒にクエストで出かけたい人生でした……

    >前作(R18)https://poipiku.com/271957/10379583.html
    秋遠からじ 朝の空気が一段と冷えるようになって、香りからも冬の訪れが近いことをひしひしと感じさせる。晩秋も終わりに近づき、あれほど横浜の街を賑わせていた色とりどりの木々は葉を落とし、寒々とした木肌をなす術もなく晒していた。落ち葉をかく人々だけがただ忙しい。そうして掃き清められた道にいずれ冬が訪れ、雪が全てを覆うだろう。貸布団屋に夏布団を返しに行く道すがら、隠し刀は世の移ろいを新鮮な面持ちで眺めて目を見張った。
    「秋が、終わるんだな」
    至極当然の自然の摂理である。これまでも幾度もの春を、夏を、そして秋やこれから来る冬を延々繰り返し眺めていた。季節は人間がどうこうするものでもなく、ただただ流れてゆく川にも似ている。せいぜい農作物やこんな布団の交換の目安くらいでしか見ておらず、花見の楽しみさえ我関せずであった隠し刀だが、横浜で迎える初めての秋は格別に去り難く、また引き止めたい心地にさせていた。
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    zeppei27

    DONE企画2本目、うさりさんよりいただいたご指名の龍馬で、『匂いを嗅ぐ』です。龍馬は湯屋に行かないのでなんというか……濃そうだな、などと具体的に想像してしまいました。香水をつけていることもあり、変化を楽しめる相手だと思います。
     リクエストありがとうございました!
    聞香 千葉道場の帰り道は常に足取りが重い。それなりに鍛えている方だが、疲労は蓄積するものなのだと隠し刀は己の限界を実感していた。所詮は人の身である。男谷道場も講武館も、秘密の忍者屋敷もすいすいとこなしたところで、回を重ねれば疲れるのも道理だ。
     が、千葉道場は中でも格別であった。理由の一つは毎度千葉佐那が突撃してくることで、一度は勝負しないと承知してくれない。そうでもなければ、「私に会いに来てくださったのではないですか」などとしおらしい物言いをされるので弱ってしまう。健気な少女を健全に支えたつもりが、妙な逆ねじを食わされている形だ。
     佐那だけならばまだ良い。性懲りもなく絡んでくる清河八郎もまあ、どうにかなる。問題は最後の一つで、佐那が坂本龍馬と自分との手合わせを観たいとせがむところにあった。彼女は元々龍馬と浅からぬ因縁があり、ずるい男は逃げ回るばかりで年貢を納めようとしない。その癖、隠し刀の太刀筋が観たいだのなんだの言いながら道場までついてくる。佐那は龍馬と手合わせできないのであれば、二人が戦う様を観たいと譲歩してくれるというのが一連の流れだ。
    3110

    zeppei27

    DONE何となく続きの主福で、付き合い始めたものの進展せずもだもだする諭吉と、観察者アーネスト・サトウの友情(?)話です。お互いに相手をずるいと思いつつ、つい許してしまうような関係性は微笑ましい。単品でも多分読めるはず!

    前作>
    https://poipiku.com/271957/10313215.html
    帰宅 比翼という鳥は、一羽では飛べない生き物だという。生まれつき、一つの目と一つの翼しか持たず、その片割れとなる相手とぴたりと寄り添って初めて飛べるのだ。無論伝説上の生き物であるのだから現実にはあり得ないものの、対となる相手がいなければどうにも生きることさえ立ち行かないという現象は起こりうる。
     かつての自分であれば鼻で笑ってしまうような想いに、福沢諭吉は今日もむぐむぐと唇を運動させた。ぐっと力を入れていなければ、ついついだらしのない表情を浮かべてしまう。見る人が見れば、自分が誰かを待ちわびていることが手に取るようにわかるに違いない。
     隠し刀と恋をする(そう、自分はけじめをつけたのだ!)ようになって以来、諭吉は一日千秋という言葉の意味を身を以て知った。滅多矢鱈に忙しい相手は、約束なくしては会うことの叶わぬ身である。彼の住まいに誘われたことはあるものの、家主は方々に出掛けてばかりで待ちわびる時間が一層辛くなるだけであった。
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    zeppei27

    DONERONIN主福、前作の何となく続きです。無茶な人助けばかりする隠し刀の姿を見たらば、普通は心配になってしまうのでは?理性的に面倒を避けようとする諭吉の理解を超えた行動なんだろうなあと思うと、ちょっとだけ申し訳なくなります。冷静な人がメチャクチャになってしまう姿は良い。
    前作>
    https://poipiku.com/271957/10302464.html
    名付けたならば まだ熱を持っているような気がする。鏡台の前で髪を整えながら、福沢諭吉は努めて上の空でいようと懸命な努力を続けていた。普段であれば真正面から鏡の中の自分に向き合うところが、今日はどうにも難しい。否、この数日ほどはずっと同じ煩悶を繰り返しては鎮めていた。毎日見てそらで思い出せるような自分の顔など、今更何を感じよう。形ばかりの気合を入れてちら、と鏡を見てう、と思わず呻き声が出た。
    「いつもと同じ、のはずなんですけれどもね」
    どうしてこうも面映さが沸々と胸の中を満たしてゆくものか。ちらりと一瞬見ただけで、自分に向けられた眼差しの熱さまで思い起こされて頬が上気する。数奇な出会いを経た友人かつ一教子に過ぎないはずの隠し刀が、戯れともつかぬ誘いかけで自分の顎に触れた。太く節くれだった指先は戸惑う諭吉の唇をこじ開け――狼藉はそこまでだった。悪戯げな囁きを残して、全ては何事もなかったかのように日常に舞い戻っている。
    5259

    zeppei27

    DONE何となく続きの主福で、清い添い寝を終えた朝に二人で湯屋にお出かけするお話です。単独でも読めます!
     好奇心が旺盛な人間は、純粋な気持ちで夢中になっているうちに地雷を踏むことがままあるでしょうが、踏んで爆発する様もまた良い眺めだと思います。

    前作>
    https://poipiku.com/271957/10317103.html
    もみづる色 情人と添い遂げた後の朝とは、一体どんなものだろうか。遥か昔の後朝の文に遡らなくとも、それは特別なひとときに違いない。理性の人である福沢諭吉も同様で、好きになってしまった人と付き合うようになってからというもの、あれやこれやと幾度となく想像を巡らせてきた。寄り添い合うようにして行儀良く寝たまま起きて笑い合うだだろうか?それとも、決して隙を見せることのない隠し刀のあどけない寝顔を見ることが叶うだろうか。貪られるのか貪るのか、彼我の境目を失うように溶け合ったとしたらば離れがたく寂しいものかもしれない。
     では現実はどうであったかというと、諭吉は窮屈な体をうんと伸ばしてゆるゆると目を覚ました。はたと瞳を開き、光を捉えた瞬間頭をよぎったのは、すわ寝坊したろうかという不吉な予感だった。味噌汁のふわりとした香りが空きっ腹をくすぐる。見覚えのない部屋だ。己の身を確認すれば、シャツと下穿きだけという半端な格好である。普段は米国で入手した寝巻を身につけているのだが、よそ行きのままということは、ここは出先なのだろう。それにしたって中途半端だ――
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    zeppei27

    DONEなんとなく続きの主福で、単品でも読めます。ちょっと横浜の遠くまで、紅葉狩りデートをする二人のお話です。全く季節外れですが、どうしても書きたかったので!一緒にクエストで出かけたい人生でした……

    >前作(R18)https://poipiku.com/271957/10379583.html
    秋遠からじ 朝の空気が一段と冷えるようになって、香りからも冬の訪れが近いことをひしひしと感じさせる。晩秋も終わりに近づき、あれほど横浜の街を賑わせていた色とりどりの木々は葉を落とし、寒々とした木肌をなす術もなく晒していた。落ち葉をかく人々だけがただ忙しい。そうして掃き清められた道にいずれ冬が訪れ、雪が全てを覆うだろう。貸布団屋に夏布団を返しに行く道すがら、隠し刀は世の移ろいを新鮮な面持ちで眺めて目を見張った。
    「秋が、終わるんだな」
    至極当然の自然の摂理である。これまでも幾度もの春を、夏を、そして秋やこれから来る冬を延々繰り返し眺めていた。季節は人間がどうこうするものでもなく、ただただ流れてゆく川にも似ている。せいぜい農作物やこんな布団の交換の目安くらいでしか見ておらず、花見の楽しみさえ我関せずであった隠し刀だが、横浜で迎える初めての秋は格別に去り難く、また引き止めたい心地にさせていた。
    9597

    zeppei27

    DONE企画1本目、ハレさんよりいただいたご指名の桂さんで、『ネクタイいじり』です。洋装がある人に当たったピッタリ具合にニコニコしました。靴紐結びも良い~ですが、命の危険性があるネクタイが一番好きです。蝶ネクタイ以外も色々おしゃれを楽しむ姿を……見たいよ!
     ネクタイが前からではなく後ろからしているのも込みで趣味です。
     リクエストありがとうございました!
    戯れ 朝の支度は煩わしい。新政府が立ち上がってからというもの、ただでさえ目まぐるしい職務の始まりに、桂小五郎もとい木戸孝允は今日も翻弄されていた。顔を洗って寝間着を脱ぐ。ここまでは宜しい。
     しかし、幼少期から慣れ親しんだ旧時代を置いてしまうと、途端に心もとなくなる。シャツ、靴下止めに靴下、ズボン、ズボン吊り、ベスト、ああ全くどうしてこんなにも身に着けるものが多いのだろう。小道具まで揃えると煩わしさは頂点に達する。
    「おはよう。どうだ、順調か」
    「おはよう。わかるだろう?恥ずかしながらこの体たらくだ」
    するりと入り込んだ声に自室の戸口を見れば、苦楽を共にした隠し刀が顔を覗かせていた。昨晩まで同じ褥に入って暴れまわったというのに、方や前途多難、方や完璧に身なりを整えているとはどういうことだろう。思えば情人は、奇兵隊の影響を受けて出会って早々に洋装に切り替えていた。おまけに手先がひどく器用で、小五郎はしばしば髪結いなども手伝ってもらったものである。
    3118

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