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    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。
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    何となく続いている主福の現パロ、VD話です。本に書下ろしで書いていた現パロ時空ですが、アシスタント×大学教授という前提だけわかっていれば無問題!単品で読める、抜け目ない男と可愛い男、そして美味しいおやつのお話です。

    #主福
    #RONIN
    #隠し刀
    #小説
    novel

    熱くて甘い 二月も半ば過ぎれば春遠からじ、と口ずさんでみたくもなる。暦の上では翌月は春だ。桜も段々と蕾が膨らみ、学び舎では去る者来る者が民族移動の如く入れ替わる。しかし、自然は人間が作り出した線引きなど意に介さない。ぴゅう、と一段と強く吹き付けた寒風に骨を震わせると、福沢諭吉は未だ冬が君臨していることを痛感した。
     つい昨日までは、常夏を思わせる温かな国にいたためか、毎年慣れていることだろうに今年は一段と寒いなどと思ってしまう。今回の出張は学会ではなく、シンガポールに新設した分校の開会式に出席するよう依頼を受けてのものだった。大学は入学試験の真っただ中で講義はなく、青息吐息で卒業論文に取り組む在校生たちに二日三日は休みを与えても良いだろうとのありがたいお言葉である。
     公式に他人の費用で旅行をするようなものだ。あれこれ人と社交をしたり、饗応を受けるのは面倒だったが、異国の風土を感じることは好きなので帳消しになる。ここまでは良い。だが、遠方の出張であれば伴えるはずのアシスタントは同行不可能、というのが残念でならなかった。大人げないと解りつつも、アシスタント兼同棲する恋人でもある隠し刀に嘆いたらば、くっ、と小さく笑われたものである。
    「気に入ったなら、今度の休みに出掛ければ良い」
    他人のスケジュールに振り回されないで済むぞ、と悪魔のささやきを付け加える隠し刀はどこまでも余裕の構えを崩さず、これまた口惜しい。
    「たっぷり遊んで、あなたに観光案内してさしあげますよ」
    「それは楽しみだ。会えない間、お前が旅をする様子を想像して過ごそう」
    少し寂しげな相手の言葉に、諭吉ははたと冷静さを取り戻して表情を和らげた。どうしようもないことに駄々をこねこそしないものの、相手も残念に思っているならばそれで十分だ。寧ろ、離れているからこその楽しみも生まれるかもしれない。
     互いに優しく折り合って、出かけて戻るまでは本当に一瞬のことだった。出かける前にあんなにももだもだとしたくだらぬ遣り取りをしたのは茶番である。南国の太陽は熱く、人は忙しなく、蟹を中心とした魚介は美味で、アジアの東西が混じり合った文化は興味深い。分刻みで立てられたスケジュールは奇跡的に滞りなく終わり、諭吉は自分がベルトコンベアに乗っていたのではないかと首を傾げるほどに完璧な仕立てだった。一部に自分の恋人が噛んでいるのは間違いあるまい。半ば敗北した気分で、隠し刀に土産のマーライオン柄のTシャツを渡せば大変喜ばれた。この男は着飾ればそれなりに耳目を集めるだろうに、全くの無頓着なのである。早速昨夜から着始めた恋人を、諭吉は己の失敗で顔をしかめて眺めた。
     さて、そんな非日常の数日間を終えての出勤は緩やかに始まった。事務作業をこなすために一足先に出た隠し刀を見送り、諭吉はゼミ生に伝えた通りの時間に出勤した。今年は入学試験の担当から外れているため、ゼミ生の面倒だけで良いからである。諭吉のゼミの学生たちは熱心だが、早朝から押し寄せてこようという輩は幸いにしていない。ならば、下手に刺激をしないようゆるりと顔を出すに限る。ある種、時間に縛られない職業の特権と言えるだろう。
    「おはようございます」
    「おはよう、諭吉」
    研究室の扉を開けば、出迎える恋人の声と共に、甘い香りがなだれ込む。おや、と変化に気づき、諭吉は上着を脱ぎながら考えを整理した。常であれば、隠し刀が入れるのはコーヒーだ。それもハワイのコナコーヒーがお好みとかで、酸味よりも甘みを強く感じられる種類を選ぶ。
     しかし、今日に至っては完全に『甘い』。どうしたことかと考えながら、無意識に定位置に座ると、目の前に答えが提示された。
    「ココアですか。珍しいですね」
    「今日は寒いからな。コーヒーの方が良かったか?」
    「いえ、いただきます。嬉しいな、さっきは本当に風が強くて!校門からここまでがひどく遠く感じられましたよ」
    おまけに光熱費をケチっているため、廊下は冷え切っている。先に人が入って準備をしてくれるありがたさを、諭吉はしみじみと感じ入りつつココアを口にした。香りは甘さだけを感じていたが、口に含めば苦みや、みずみずしいフルーツを思わせる爽やかさが踊り出す。意外にも甘さは控えめだった。体を温める飲み物は南国と無縁のはずが、何故だか昨日まで訪れていた遠方を思い出させた。
    「美味しいです。もっと甘ったるいものかと思っていましたが、繊細な味わいなんですね」
    「べた褒めだな。作った甲斐がある」
    「……ひょっとして、既製品ではないのですか?まさか」
    器用だとは知っていたが、まさか手軽に作れるココアを手作りしたというのか。唖然として返せば、隠し刀は我が意を得たりと深く頷いた。
    「日はずれたんだが、その……恋人らしいことをしたいと思ったんだ」
    「あ」
    照れた視線の行き着く先、壁に掛けられたカレンダーに目をやって諭吉はようやく答えに辿り着いた。ヴァレンタイン・デー。自分が南国に出掛けていた間、この国は今年も愛を語らっていたらしい。異国から伝えられた祭事は、日本の商魂たくましい人々の手によってチョコレートの催事へと変化している。右も左もチョコレートで埋まり、我先にと買い求めて配る人々でひしめき合う熱狂の日だ。まさか伝えた先が混沌に満ちる羽目になるとは、異国の人々も想像だにしなかっただろう。南国でも一応行われたのだろうが、さしたる賑わいではなかったので、諭吉は完全に看過していた。
    「すみません、恋人と過ごすのは初めてでしたから。恥ずかしいな……ああもう!来月は覚悟してくださいね」
    「心しておく」
    にやりと笑った隠し刀は、ティッシュを一枚取って躊躇わずに諭吉の口元をぬぐった。どうやらこぼしていたらしい。
    「軽食にクッキーもあるぞ。食べるか?たくさん作ったんだ」
    「いただきます」
    流れるように受け取りながらも、諭吉の頭はまたもや疑念に渦巻いていた。ココアの件は解決した。が、お茶請けを大量に作る意図は何だろう?この時期に大学で隠し刀の周囲にいるのは職員か、はたまたゼミ生たちである。労いの意味で作るにしては、必ず出そろうわけでなし、無駄が出ることを考慮すれば出来合いのものが望ましい。
     出された皿に乗った焼き立てらしいクッキーはまだほかほかと湯気を上げていて、柔らかい。つまり、今日他人に与えるために厨房を使ってまで用意したのだ。そんな風に隠し刀が他人に心を砕くからには、何かのっぴきならぬ事情があるに違いない。寧ろ、ついつい羨んでしまう自分自身を納得させるためにも、そうであってほしかった。まだ、今抱くのは嫉妬ではない。もう十分すぎるほど受けているにも拘らず、彼に情をかけてほしいと子供のような羨望を抱いている、ただそれだけだ。
    「学生から、大学関係者に金銭や物品を渡してはいけない規則があるだろう。それでも、忘れたり事情があったりで渡そうとする人間はいる」
    「そんな話もありましたね」
    論文の締め切りを伸ばしてほしい、単位を落とさぬよう考慮してほしい、あるいは本気で好意を告げようとするなど理由は枚挙にいとまがない。たかだか菓子一つで揺らぐと思ったらば大間違いなのだが、頼む方は必死で、藁にも縋る思いで迫ってくる。故に、諭吉は毎年この時期だけはできるだけ出勤しないで済むように調整していたのだった。断ると心に決めていても、断ること自体は気分が良くない。態度で示して、相手が解ってくれればそれが一番だった。
    「大丈夫だ、全員断っておいた。ただ、しこりが残るかもしれないから、今日はクッキーを焼く日だと伝えたんだ。そうすれば、繋がりは残るだろう?」
    既製品にしない理由は、金銭の価値をつけられないようにするためだ。なるほど随分考え抜かれている。規則通りに従いはするが、望めば関係性は維持できるのだと相手に逃げを与えるのは上手い手と言える。この手の根回しの類が面倒、もとい無駄としか感じられずに放置していた諭吉ではやろうとも思わぬ対抗手段だった。
    「諭吉は人気だと知っていたが、それでも多かったな」
    さらりと続けられた一言に甘い期待を抱き、諭吉は黙ってクッキーを齧った。コーヒーが練り込まれた生地は、一見チョコレートに似ているが、そのほろ苦い味わいで現実を突きつける。もう一枚はココナッツミルクが仕込まれているらしく、二つを交互に食べると丁度いい塩梅だった。
    「恋人が人気なのは誇らしいはずなのに、正直なところあまり面白くなくて……諭吉があの場に居なくて良かったと思ったんだ。私はおかしいのかもしれないな」
    「僕は嬉しいですよ」
    淡々とした恋人が、独占欲をむき出しにするのは珍しい。相手だけではないことを示すべく、諭吉はちらりと流し目をくれてやった。
    「第一、あなただって人からもらっているのではありませんか?」
    「事務職員の誼だ」
    「いくつです」
    「五……いや、九だったか?今年は教授たちからももらったな」
    絶句である。職員同士の物品のやりとりは禁じられていない。故に、完全に自由であるゆえに断りにくい。面倒見がよく、あちこちで他の職員を助けていることは知っていたが、想像以上に守備範囲は広いようだった。
    「恋人がいることは公言しているから、お歳暮代わりだろう。そちらには同じ金額のものを贈るようにしている」
    「あなたって人は、つくづくひどい」
    そこまで気に掛けられて、うっかり一縷の望みを抱く人間が出やしないだろうか。断ることができる相手には断っているらしい抜け目のなさも恐ろしい。
    「……やっぱり、誇らしくなんて思えませんよ。どうせあなたのことだ、律儀に食べるんでしょう」
    「ああ、昔は一人だったからな。今は伊藤たちに分けている」
    仲良くつるむ友人連中の中に、甘いもの好きが幾人かいるらしい。彼らは彼らで他人からもらうことも多いだろうに、小躍りしながら食べるというのだ。
    「甘いのは良いが、食べ過ぎるのは体に毒だ」
    「僕が言いたいのは、そういうことではないんですよ。解って言っているでしょう」
    「そうかもしれないな」
    来月を楽しみにしている、と片目を瞑って去る恋人は、どこからどう見ても遊び慣れていた。人付き合いでは数段上の手練手管に歯噛みしつつ、ままならなさを抱いてクッキーを齧る。
     冷えたクッキーが、ばきりと大きな音を立てて折れた。

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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。数年間の別離を経て、江戸で再会する隠し刀と諭吉。以前とは異なってしまった互いが、もう一度一緒に前を向くお話です。遊郭の諭吉はなんで振り返れないんですか?

    >前作:ハレノヒ
    https://poipiku.com/271957/11274517.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    答え 今年も春は鬱陶しいほどに浮かれていた。だんだんと陽が熟していくのだが、見せかけばかりでちっとも中身が伴わない。自分の中での季節は死んでしまったのだ、と隠し刀は長屋の庭に咲く蒲公英に虚な瞳を向けた。季節を感じ取れるようになったのはつい数年前だと言うのに、人並みの感覚を理解した端から既に呪わしく感じている。いっそ人間ではなく木石であれば、どんなに気が楽だったろう。
     それもこれも、縁のもつれ、自分の思い通りにならぬ執着に端を発する。三年前、たったの三年前に、隠し刀は恋に落ちた。相手は自分のような血腥い人生からは丸切り程遠い、福沢諭吉である。幕府の官吏であり、西洋というまだ見ぬ世界への強い憧れを抱く、明るい未来を宿した人だった。身綺麗で清廉潔白なようで、酒と煙草が大好物だし、愚痴もこぼす、子供っぽい甘えや悪戯っけを浴びているうちに深みに嵌ったと言って良い。彼と過ごした時間に一切恥はなく、また彼と一緒に歩んでいきたいともがく自分自身は好きだった。
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    zeppei27

    DONE何となく続いている主福の現パロです。本に書下ろしで書いていた現パロ時空ですが、アシスタント×大学教授という前提だけわかっていれば無問題!単品で読める、ホワイトデーに贈る『覚悟』のお話です。
    前作VD話の続きでもあります。
    >熱くて甘い(前作)
    https://poipiku.com/271957/11413399.html
    心尽くし 日々は変わりなく過ぎていた。大学と自宅を行き来し、時に仕事で遠方に足を伸ばし、また時に行楽に赴く。時代と場所が異なるだけで、隠し刀と福沢諭吉が交わす言葉も心もあの頃のままである。暮らし向きに関して強いて変化を言うならば、共に暮らすようになってからは、言葉なくして相通じる折々の楽しみが随分増えた。例えば、大学の研究室で黙って差し出されるコーヒーであるとか、少し肌寒いと感じられる日に棚の手前に置かれた冬用の肌着だとか、生活のちょっとした心配りである。雨の長い暗い日に、黙って隣に並んでくれることから得られる安心感はかけがえのないものだ。
     隠し刀にとって、元来言葉を操ることは難しい。教え込まれた技は無骨なものであったし、道具に口は不要だ。舌が短いため、ややもすると舌足らずな印象を与えてしまう。考え考え紡いだところで、心を表す気の利いた物言いはろくろく思いつきやしない。言葉を発することが不得手であっても別段、生きていくには困らなかった。だから良いんだ、と放っておいたというのに、人生は怠惰を良しとしないらしい。運命に放り出されて浪人となった、成り行き任せの行路では舌がくたくたに疲れるほどに使い、頭が茹だる程に回転させる必要があった。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。前作を読んだ方がより楽しめるかもしれません。遅刻しましたが、明けましておめでとう、そして誕生日おめでとう~!会えなくなってしまった隠し刀が、諭吉の誕生日を祝う短いお話です。

    >前作:岐路
    https://poipiku.com/271957/11198248.html

    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ro
    ハレノヒ 正月を迎えた江戸は、今や一面雪景色である。銀白色が陽光を跳ね返して眩しく、子供らが面白がってザクザクと踏み、かつまた往来であることを気にもせず雪合戦に興じるものだからひどく喧しい。しかしそれがどんどんと降り積もる量が多くなってきたとなれば、正月を祝ってばかりもいられない。交通量の多い道道では、つるりと滑れば大事故に繋がる可能性が高い。
     自然、雪国ほどの大袈裟なものではないが、毎朝毎夕に雪かきをしては路肩にどんと積み上げるのが日課に組み込まれるというもので、木村芥舟の家に住み込んでいた福沢諭吉も免れることは不可能だ。寧ろ家中で一番の頼れる若手として期待され、庭に積もった雪をせっせと外に捨てる任務を命じられていた。これも米国に渡るため、芥舟の従者として咸臨丸に乗るためだと思えば安い。実際、快く引き受けた諭吉の態度は好意的に受け止められている。今日はもう雪よ降ってくれるなと願いながら庭の縁側で休んでいると、老女中がそっと茶を差し入れてくれた。
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    zeppei27

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     リクエストありがとうございました!
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    zeppei27

    DONE企画2本目、うさりさんよりいただいたご指名の龍馬で、『匂いを嗅ぐ』です。龍馬は湯屋に行かないのでなんというか……濃そうだな、などと具体的に想像してしまいました。香水をつけていることもあり、変化を楽しめる相手だと思います。
     リクエストありがとうございました!
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     佐那だけならばまだ良い。性懲りもなく絡んでくる清河八郎もまあ、どうにかなる。問題は最後の一つで、佐那が坂本龍馬と自分との手合わせを観たいとせがむところにあった。彼女は元々龍馬と浅からぬ因縁があり、ずるい男は逃げ回るばかりで年貢を納めようとしない。その癖、隠し刀の太刀筋が観たいだのなんだの言いながら道場までついてくる。佐那は龍馬と手合わせできないのであれば、二人が戦う様を観たいと譲歩してくれるというのが一連の流れだ。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。諭吉が隠し刀の爪を切る話。意味があるようでないような、尤もなようで馬鹿馬鹿しいささやかな読み合いです。相手の爪を切る動作って、ちょっと良いですね……

    >前作:黄金時間
    https://poipiku.com/271957/11170821.html
    >まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    鹿爪 冬は、朝だという。かの清少納言の言は、数百年経った今でも尚十分通じる感覚だろう。福沢諭吉は湯屋の二階で窓の隙間から、そっと町が活気付いてゆく様を眺めていた。きりりと引き締まった冷たい空気に起こされ、その清涼さに浸った後、少しでも暖を取ろうとする一連の朝課に趣を感じられる。霜柱は先日踏んだ――情人である隠し刀とぱり、さく、ざく、と子供のように音の違いを楽しんで辺り一面を蹂躙した。雪は恐らく、そう遠くないうちにお目にかかるだろう。
     諭吉にとっての冬の朝の楽しみとは、朝湯に入ることだった。寒さで目覚め、冷えた体をゆるりと温める。朝湯は生まれたてのお湯が瑞々しく、体の隅々まで染み通って活きが良い。一息つくどころか何十年も若返るかのような心地にさせてくれる。特に、隠し刀が常連である湯屋は湯だけでなく様々な心尽くしがあるため、過ごしやすい。例えば今も、半ば専用の部屋のようなものが用意され、隠し刀と諭吉は二人してだらけている。
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