恋愛小説読んでるグレナツナツはルーシィから本を借りた。その本は、今国中で人気の恋愛小説らしい。
ナツは本を読むのは苦手だ。
しかし、どうしても気になって借りてしまった。
その理由は、主人公の相手の男性が、グレイに似ているからだ。
「うーん……やっぱり似てるなぁ……」
ナツはその本を何度も読み返した。
ナツはグレイのことが好きだ。所謂片思い中というやつで。
(そういえば俺って今まで誰かを好きになった事がないんだよな)
だからこの気持ちがはっきりと何なのかよく分からない。
ただ胸の奥の方が暖かくて心地よい感じがするだけだ。
この本では、ヒロインと幼なじみの男性が恋人同士となるまでの道のりの物語となっている。
読み進めていると、甘い展開になったのか、男性がヒロインに壁ドンなるものをした。
『お前が好きなんだ』
ドキッ! 心臓が大きく跳ねる音がした。
顔も熱いし、ドキドキして息苦しい気がする。
でも嫌じゃない……。むしろ嬉しい?いや違うか。何だろうこれ。
その後もページを進める度に主人公がヒロインに対して色々していた。そしてついにキスシーンまできた。
『好きだよ』『私も!』というやり取りの後、唇を重ねた2人を見て、また心拍数が上がったような感覚に陥った。
こんなことをグレイと出来たら……
なんて考えてみたけど恥ずかしくて無理だと思えた。
そもそも俺は男だし、女でもないんだぞ!?︎そんなこと出来るわけないじゃないか!!︎……どうせグレイは、可愛い女の子が好きに決まっている。
それにしても、本当に似ている。
例えば髪の色なんか、烏の濡れ羽色のような所がまさにグレイだ。あと目つきが悪い所も同じだ。
性格に関しては少し違うところもあるけれど、そこはご愛敬ということで許してほしい。
それからしばらく読んでいるうちに、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
目が覚めると外は既に暗くなっていた。
時計を見ると夜の11時を指している。
手に持ったままだった小説を見る。
「……いいなぁ。」
そう1人呟いた。
これはまるで自分達の事みたいだと思った。
だけどそれはあり得ないことだ。だって相手は同性なのだから。
自分は女ではないし、彼もそうだ。
でももし自分が女性だったとしたら、彼と恋仲になれていただろうか。……きっとなれないだろう。
彼は優しくて格好良い。あんな裸野郎だけど、実は顔がいいと人気がある。
対して自分は喧嘩ばかりしている不良野郎だ。
仮に自分が女であっても彼に釣り合うはずが無い。せいぜい喧嘩友達が関の山だ。
そもそも彼が自分を好いてくれる理由がよくわからない。
でも、彼のことは大好きだ。
ナツは自分の胸に手を当てて考えた。
自分はこの気持ちをなんと呼ぶのだろうか。
翌日、ナツはギルドへの道を歩く。
昨日借りた本の主人公のセリフを思い出しながら、自分の気持ちを確認するように言葉にしてみる。
すると何故だか胸の奥がポカポカした。
この感情が何なのかはわからない。
でも悪くはないと思う。
その光景を見ているある人物がいた。
それはグレイだ。
「あいつ……なに喋ってるんだ?」
多分独り言なのだろう。聞いてしまったのは悪いと思っているが、ナツらしくない言葉なのが余計に気になる。
ナツは確か……『私は彼がこんなに好きなのに』と言っていた。
……どこかで聞いたことがある気がする。
どこで聞いたか……
そうだ、思い出した。ルーシィが本のセリフなのよって話していたんだ。その本は恋愛ものどったはず。ナツもそういうの読むのか……
……ナツもそういうの好きなのか?
……俺がこの本のセリフを覚えたり、シチュエーションを真似たりしたら。
ナツは振り向いてくれるだろうか。
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その日以来、俺はその本を買い、ひたすら読み込んだ。
セリフ、仕草、その他諸々頭に叩き込む。
これでちょっとでもナツが俺を意識してくれるなら……!ーーー
「おい、グレイ!」
「あ"!?︎んだよ、クソ火竜!!」
クエストからの帰り道。
いつものように喧嘩腰に返事をする。
…いやいや!このままではいけない!
幸いにも今いるのは帰り道、夕焼けに染まっている。これはあの恋愛ものの小説と同じシチュエーションだ。
よし、やるぞ!
俺はナツを後ろから抱きしめた。
そして耳元で囁く。
「俺、お前のことが、好きなんだけど。」
心臓がバクバクしてうるさい。
しかし、肝心の相手は何も言わず、ただ黙って固まっている。「……えっと、ナツさん……?」
恐る恐る声をかけると、ようやく我に帰ったようで、顔を真っ赤にした。
そして、
「……っ!ばかやろぉおお!!︎」
と叫んで、その場から走り去ってしまった。
俺は呆然と立ち尽くした。
……思ったより、脈アリかもしれない。俺はそう確信してガッツポーズをしたのだった。
end