夕方学校から帰ってきて昼寝をしようとすると、一羽の鳥が窓を叩いた。よく見るとそれは正守の式神だった。
最近では携帯に直接連絡をくれることがほとんどだったので、式神が来るのは珍しい。携帯で連絡が取れないようなところにいて、急ぎの用事かなにかだろうか?窓を開けると、鳥の形をした式神はすっと入ってきて良守の目の前で1枚の紙切れに戻った。伝言も何もなくもとに戻った式神を見て首をかしげる。正守は何のために送ってきたのだろうか。足元に落ちた紙切れを拾い上げる。間違いなく正守のものだ。不思議に思ってしげしげと見つめていると、裏側にメモのようなものが書かれているのに気づいた。
「14106 分かったら連絡して」
やはりなにか至急のメッセージだろうか。暗号が解けずに助けを求めているならば急いで解読しなければならないに違いない。
昼寝を諦め机に向かう。目の前には正守から送られてきたメッセージ。にらめっこしていてもちっとも分からない。いつの間にかウトウトと寝てしまって、はっと起きる。
「こんなん考えてたってわかんねぇや。夜に時音に聞いてみよう」
切羽詰まった状態かもしれないというのはすっかりと忘れ、考えるのをやめて昼寝をすべく布団に潜りこんだ。
夜の烏森。
正守から届いたメッセージを懐に忍ばせて学校へと急ぐ。すでに時音は来ていたようだった。
「相変わらず眠そうね」
「ちょっと秘密の暗号を解いてて」
「は?何言ってるの?」
「あ、そうだ!時音一緒に考えてくれねえか?」
「なんか面白そうね。いいわ、一緒に考えてあげる」
時音も乗り気になってくれたので、良守は天穴を使って地面に文字を書いていく。
「14106?」
「そう、これだけ送られてきて分かったら教えて欲しいって」
「誰から?」
「えっと…」
なんとなく正守からとは言ってはいけないような気がした。
「それは…言えねぇ…」
「そう。それじゃ仕方ないわね。とりあえず解いていきましょ。数字だけで何かを表しているってことよね?うーん」
数学が得意な時音にもわからないのか真剣になって考えてくれる。でも、そんな時に限って妖はやってくるわけで。
「来たわね。これはいったん置いといて早めに片付けるわよ」
そういうやいなや時音は駆け出していく。こういう時の時音は素早い。それに遅れまいと良守も慌ててついていく。仕事は仕事。きっちりやることを手早く終えるとまた元の場所に戻ってきて2人で考え込む。
しばらくすると、時音が何かを思い出したように声を上げた。
「もしかして!?」
「え?時音わかったの?」
「いや、でもそんなわけないか…」
「わかったなら教えてよ」
「これって誰からもらったの?その相手次第で答えがわかるかもだけど」
「ほんと!?いや、でも相手は…えっと…ゴニョゴニョ」
「誰?」
「やっぱり言えない」
「ふーん」
時音の視線が突き刺さって痛い。
「あ、っと…ま、さもり」
あまりの視線の痛さに最後は聞き取れるかどうかの小声になってしまったが、もらった相手を思わず明かしてしまった。
「はぁぁぁやっぱり。もうあんたたち勝手にしなよ」
完全にあきれた声で時音に言われた。一応、時音は正守と良守が付き合っていることは知っているが、それに関することなんだろうか。
「どういうこと?」
「私をあなたたちの惚気に巻き込まないでちょうだい。あぁ真剣に考えたのがバカバカしい」
「時音、そんなぁ」
泣きそうになりながら眉尻を下げていうと、時音は逆にそれを見て噴き出す。
「ふふっ。っていうのは冗談だけど。これは良守が解読しなきゃ意味ないかもね。今日はもう妖も来なそうだし、自分で答えを出しな。ちょうどご本人も来たみたいだし?」
「え?」
「やあ時音ちゃん、と良守」
「俺をついでみたいに言うな!」
「正守さんこんばんは。このバカ、全然わからないみたいですよ。こんな周りくどいことしないでストレートに言わないと伝わらないですよ」
「あぁ?!バカって言うな!」
「はははっ。巻き込んじゃってごめんね。まさかこんなこと時音ちゃんに聞くなんて思ってなくて悪かった。これからきっちり答えを教えるから」
「ほんともう勘弁してくださいね。私は先に帰るのでごゆっくり。あ、でもほどほどにしてくださいね」
時音は手を振りながら去っていく。
「ありがとう。気を付けてね」
「あ、時音!俺を置いてくなよ」
「良守。俺より時音ちゃんのほうがいいのか?」
「そういうことじゃねし」
「それなら」
そういうと、正守は良守を小脇に抱えて結界を作ると空へと昇っていった。
残された一人と2匹は半ばあきれた顔で上空に向かった二人を見送った。
空の上まで来ると、正守は結界を作りそこに二人して座る。当然、良守は正守の腕の中だ。
「なんであんなの送って来たんだ?」
「たまには手紙もいいかなと思って」
「わけわかんないこと書いた手紙なんて意味ねーし。おかげで時音にもバカにされた」
「どうせ、まだわかんないんだろ?」
「お前が答え教えてくれるんじゃないのか?」
「ほんとわかんない?」
「うん」
「あいしてる」
「いきなりなんだよ。答えはぐらかすなよ」
「だから、答えは『あいしてる』だ」
「へ?」
思ってもみなかった答えに素っ頓狂な声が出る。
「なんであの数字がそうなるんだよ?」
「1はアルファベットの『I(アイ)』、4は『シ』、10はテンで『テ』、6は『ル』だろ。まあ6は無理やりだな。面白いからどうなるかと思って送ってみたんだけど」
「なにそれ?」
「昔の恋人同士の暗号なんだってさ。お前なら分かってくれるかなって」
正守が後ろからぎゅっと抱きしめる。
「そんなの絶対わからない。なんで時音はわかったんだろう」
「さすが女子高生だからじゃない?」
「そうなのかな。じゃあさ、俺からも送ってもいい?」
「ん?」
「手のひら貸して。これから文字書くから当ててみて。見るなよ?」
正守の手を掴むと、手のひらに文字を書き始める。
『ス』
『キ』
分かりやすいその二文字に正守は心がぎゅっとなる。
「分かった?」
振り返った良守は自分がしたことが恥ずかしかくなったのか少しはにかみながら照れている。そのあまりの可愛さにそのまま口づける。
「うん。ありがと。嬉しすぎてこのままここでお前を食べてしまいたいくらいだ」
「なに、その変態なおっさんみたいな発言」
「そんな可愛いお前を前にして平常心保っている方が無理だろ。ってことで、手紙mp内容を体でわからせてやるから」
「もうそれがおっさんなんだって!」
そのまま良守を抱きかかえると結界を伝って家に戻り、防音結界が張られた良守の部屋で家族には秘密の時間が明け方近くまで流れていた。
※終わらせ方が無理やりなのはすみませんw