隣り合わせ 手の、影。
それがどうしようもなく、怖い。
その影は僕の手が作り出したもの。
必死に伸ばした、手は、何も掴めない。
それが、怖くて──サイレンのように泣いたのは、いつだったか。
「──サギョウ!」
呼ばれて──
色を取り戻す視界、映るのは眩しい金色、混濁する思考、その中で一番に理解したのは温もりで、それが伝わってくるのは、てのひら。
「無事だな⁉︎」
色を失っていたのは、僕の視界だけじゃない、この人の顔も、だ。
すぐには声が出なくて、だけどその青白い素肌をこれ以上は見たくなくて、代わりに掴まれた──掴んでもらえた、手に、力を込めた。
「──よし!」
張り詰めた目尻が少し、だけだけど、ゆるんだ。
ああ良かった、泣かせずに、済んだ。
僕も笑った、と、思う。
あまり覚えて、いないけれど。
「……すみません」
と僕はようやく言った。
「……っ、お前の落ち度ではない、今回は相手が数枚上手だっただけで──」
「違う」
僕は、先輩の言葉を遮った。
「あなたに、心配をかけた、ことを、謝りたい」
遅れて、今更、身体中あちこち痛くなってきた、ってことは、まぁ、いいことなんだろうな、ある意味。
周囲は事態の収束のために大童、僕のか細い声なんて聞こえていやしない。
だから、告げた、今にも泣きそうな、恋人に。
「──分かった、気にしなくていい」
見えなくなった金色、だけどそれは僕の視界がどうにかなったからじゃない。
その相貌を囲む瞼が細まったせいだ。
ああ本当に、良かった、何もかもが。
安堵の中いつまでも消えなかったのは繋いだ手の熱。
僕がもう、あのときのように泣かずに済んでいるのは大人になったからか、それとも──
伸ばした手を、掴んでくれる人が、いるからか。