Knights of Night③ 早計だった、俺はてっきり、目の前にいるのはサギョウの姿をした何かだと思い込んでいた、だが──
「なんっなんだよお前! 誰だよ 突然人の身体を勝手に使いやがって!」
「何じゃ騒がしい、少々拝借しておるだけじゃろう」
「騒ぎもするわ! まずは持ち主の僕と話すのが筋だろって! あといちいちその鼻につく動作やめろ自分がしてると思ったら動かない身体中に鳥肌が立つわ!」
今、目の前で繰り広げられている会話は全て、サギョウが、ひとりでしている。口調と声量からも明白だが、交互に変わる目の色で視覚的にもはっきりと、あの身体の中にはふたりいるのだな、というのが見てとれた。
だが身体的動作はサギョウではない何かに主導権があるのだろう、声以外の表情や仕草は見慣れないものだ。片足に重心を置き、腰をくねらせ、指先までぴんとのばしてやれやれと手のひらを天に向ける姿は──サギョウ曰くの鼻につく動作なのだろう──確かに多大な違和感がある。
「おお、それもそうじゃな、ならば改めて請う。ぬしの身体を借りるぞ、礼を言う。ふむこれで良いな? ならば今後邪魔はせんように、朕は其方のダンピールに用があるのでな」
「雑ぅー 雑すぎるぅぅー ダメだ埒があかない! 先輩! こいつ僕ごとVRCにぶち込みましょう!」
「ぶいあーるしー、とは、なんじゃ?」
「人間に対して悪さを働いた吸血鬼を収容するところだよ! それ以外のこともしてるけど!」
「ほぅ……? それは困る、が、無意味でもあるな」
「はぁ」
「朕はすぐにでもぬしの身体から出て行ける、また仮に、このまま囚われたとて朕が沈黙を貫けばぬしの狂言と思われて何にもならんであろうよ」
「うがー! ほんとムカつくー」
「……一旦、落ち着けサギョウ」
ここで俺はようやく口を挟んだ。
見慣れた目の色をしていたその人物は、一度ぐっ、と声を詰まらせてから、瞳を赤く変えた。
「まず──サギョウの中にいるという、サギョウではない者に聞く、お前は吸血鬼で間違いないか?」
「うむ、ぬしが感じたとおりじゃ」
「ならば今、お前がサギョウに──その身体の持ち主にしていることは、何だ?」
「……そうじゃな──精神支配、脳操作、など、各々使い手によって名付けは異なろうが、催眠の一種じゃ」
「それによるその身体への影響は?」
「短時間であれば問題無かろうと朕は考えておる」
「考えて、いる?」
曖昧な言い方に弛みかけていた気を改めた。
「……朕にも分かりかねるのだ、何しろ、このようなことをするのは初めてであるからな」
すっと細まった目、相手の空気が変わった。俺も刀の柄を握り直した。
「……順を追って話せ、内容によっては貴様の望みとやらを叶えてやらんこともない」
「先輩」
「まだ黙っていろ、サギョウ」
得体の知れない吸血鬼の要求を呑むと俺が言い出したのが何らかの気に障ったのだろう、文字通り目の色を変えたサギョウに静止を告げるのは居た堪れなかったがこちらとて譲歩の姿勢は崩せない。
サギョウのその身を、質に取られていると考えれば。