禁則事項② 来る応援がサギョウだとは思っていなかった、だが来たときには顔が見られて嬉しいと、この場にそぐわないと自覚しながらそれでも安堵した。
こいつが来てくれたのならきっと大丈夫だと。
暫くして収束した現場、それはいつにも増して多くの弾数を放った、他でもないサギョウのお陰でもある。
せめて一言、非番であっても駆けつけてくれた労いをしたいと走ったのは隊長の元。きっとサギョウもそこにいるからと、踏んで。
予想は当たり、ふたりはいた。
だが。
はっきりと視界に捉える前に感じたのは香ばしい匂い。
例えば焼き立てのパンの様な。
もしくは焼く直前の、パン生地。
ああこれは、アルコールだと気付いて直後、遠目に見たサギョウの、目元。
そこは仄かに赤くなっていた。そうまるで
少し泣いた後の様に。
どうしたのだろう。
考えている間にサギョウは二、三言、隊長と言葉を交わし、銃を預けて背を向けた。帰るのだろう。非番なのだから当然だ。
「隊長」
頭よりも先に言葉が出ていた。
「直帰します」
退勤時間はとっくに過ぎているとはいえ身につけているのは制服、本来ならば許されないが隊長は何も言わずに了承してくれた。
頭を下げて追ったのは若草色の髪。
一度も振り向かないそこへ近付くにつれ先に感じた匂いは強くなる。
「送る」
告げてもサギョウは振り向かない。
「相当酔っているだろう」
責めるつもりはない、非番の日に多少羽目を外したとしても、それでも駆けつけてくれて、そして助けてくれた、それをどうたしなめろと言うのか。俺はただ──
その、赤く腫れた目尻と、何かを引っ掛けた様に擦れている、口元から微かに滲む血の跡に、心がざわつくだけなの、に。
「すみません」
どうして謝る? どうして俺と目を合わせない? どうして──
「俺は──」
どうしてそんなに、つらそうな、顔を、しているんだ?
「お前の体調を、案じている」
思い切り掴んで、半ば無理矢理に振り向かせてしまった顔。
謝るより早く、怯える様な、顔が、そして震える瞳が、目に映ってしまったものだから─
俺は、言葉を、失ってしまった。