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    オサハタ

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    オサハタ

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    愛している、と彼は言った。

    #半サギョ

    Nightmare 目の前に横たわる骸に、外傷があったのかどうかは憶えていない。
     暗い路地裏、雑に転がるその身体。
     呼びかけはしなかった、呼んだところでもう聞こえないと、何故だか感覚で理解していたから。
     傍に屈んで、触れた頬に弾力はなく、冷たい。
     そんなにも長くこんな場所に独りにして済まないと、声に出さず謝った。
     薄く開いたままの瞼、乾いて、知っているよりも色の薄くなっている虹彩。
     それでも真っ直ぐに覗き込めば己が映るから、まるでまだ、俺を、見てくれているように思えてしまうから、そのままに、して、おきたくて。
     そこでようやく名前を口にした。
     だが、その後は、続かなかった。
     ありがとう?
     さようなら?
     ごめん?
     浮かぶどれもが相応しく、ないような、気がして。
     名前を、名前だけを、音にして、何度目かでようやく、俺は──

    「     」

     その、最後の言葉。
     それは声に──現実に発していた、と、気付いたのは、目覚めて少し、経ってから。
     見慣れた部屋の風景が、少し違って見えるのは俺が泣いているから。
     滲んで、いるから。
     起こした身体、いつもの布団、そして──隣の寝台、には、いつものように、穏やかに眠って、いる、はずの恋人。
     眠っている、眠っている?
     本当にそうか?
     鮮明に浮かぶのは、数瞬前に見た夢の中の骸。
     思考の停止、それに反して跳ねた身体、乗った寝台。
     恋人の頬に触れるのと、
    「……っぅおあっ⁉︎」
    突然の事態に狼狽した声が聞こえたのはほぼ同時だった。
    「ぇあ? なにぃ……? 急なよびだし、とか? ありました、ぁ……?」
    薄く開いた瞼に抱く既視感、だがその奥の虹彩は瑞々しく、濃い色で、そして呂律のまわり切っていない声がひとつひとつ上がるたび、触れた頬は温かい弾力でもって俺の手を押し返してくる。
     生きている。
     間違いなく、生きて、ここにいる。
     涙がぼたぼたと落ちた。
     恋人の頬に、俺の手に。
    「へ⁉︎ あ⁉︎ なに⁉︎ 先輩なんで泣いて──」
    「ごめん」
    大きく見開かれた目に掠れた一言だけを返し頸に埋めた顔。それでも雫がとめどなく溢れてしまうのは、悲しみを遥かに超えた先の絶望と、上がり続ける熱を持った今の安堵との大き過ぎる差異に感情が追い付いていないせいだろう。
     じわじわと濡れていくのは互いの皮膚と、そして恋人の髪。鮮やかな緑色がいつも以上に優しく見える。
     いまだ混乱しているだろう、それでも問いで追わずただ背にそっと手を置いてくれている掛け替えの無い存在に、俺は何を言うべきか。
     この事態に至った理由の説明は勿論として、だがまずは宙に浮いたままの言葉を、気持ちを、伝えたい。

    「     」

     行き場なく漂っていたそれは、戸惑いの混じった、それでいてあたたかく血の通った最高の笑みで以って受け入れられた。
     




    「……あー……きっと先輩がそんな夢を見た原因は、僕にありますねぇ……」
    暫くして、ようやく落ち着いて、ことの経緯を話した俺に恋人は呟いた。
     俺はそれを否定した。
    「でもさ、僕がゴビーにした話のせいじゃないです? あのとき先輩もいて、聞いてたんだし」
    尚も続いた言葉にも、俺はかぶりを振った。


     昨日この部屋に入ったとき、恋人は共に暮らしている吸血牛蒡に何やら淡々と語りかけていた。
     その組み合わせの者たちにしては珍しく神妙で、真剣で、そして深刻な空気を纏いながら。
     何事かと気になりはした。だが恐らくは当人たちにのみ関わる内容なのだろう。ならば、少なくともこの場合に於いては無関係であろう自分が口を挟むべきではないと納得し、ちらりと向けられたふたつの視線に軽い頷きのみを返して俺は静観を決めた。
     聞くとはなしに聞こえた内容から察するに、どうやら吸血牛蒡が何も告げぬまま外出をし、その先で面倒に巻き込まれ、姿が見えないと気付いてすぐ探しに出ていた恋人がその場を見つけ出さなければ無事では済まなかった可能性があったようだ。
     それならばこの重たい雰囲気も止む無しか、と無意識に眉根を寄せてしまっていた俺の耳に飛び込んだのは、背筋が凍る恋人の一言。
    「僕だって、いつどうなるか分からないんだよ」
    それは種族に関係なく、万人に言えるもの。
     分かっている、つもりだった。
     だが改めて言葉にされて、俺は鼓動が止まる錯覚を覚えた。
    「それは皆同じだろうけど、僕らは特に仕事柄危険は多いし何より普通に過ごしていたって君より遥かに早く死んでしまう。いつそうなるか分からないから、そうなったときでも、君が例え独りでも生きていけるように、今のうちに遭わずに済む危機は避けられるようになって欲しいんだ」
    それは説教などではなく懇願に近いもの。
    「黙って出て行かないで、とか、夜道でも出来るだけ明るくて人気の多い場所を選んで歩いて、とか、いつもいつも言うのは、しつこいと思っているかも知れないけどそういう考えがあるからなんだよ」
    そして、部屋に満ちる沈黙。
     少しの間をおいてから、俯いていた吸血牛蒡は大きな瞳を上げた。
     細長い脚の一本を差し出しながら、発したのは謝罪と理解の旨。
     それを受けて恋人は
    「分かってくれたなら良かった」
    と微笑みながら吸血牛蒡を抱き上げた。
    「お待たせしちゃってすみません」
    と向けられた苦笑に、気にしなくていいと応えたものの──俺の思考は、少し前から固まったまま動かせずにいた。

     いつどうなるか、分からない。

     そのとおり、そのとおりなんだ。
     当たり前、それなのに、忘れてしまっていたような気がする。
     だから、俺は、こんなにも恐ろしいのだと自覚した。
     ならばこれまでの安穏を省み、そうしながら今後は決して忘れまいと、そしてそうならぬようより一層努めるべきだと、己を律した。



     そうして見たのが、あの夢だ。

     全ては俺の甘さが故。
     足りない覚悟が招いた結果。
     夢でよかった、そして夢でもこれほどに辛いと知られたのは更によかった、お陰で、これで、本当に腹が据わった。

     途中から半ば独り言のように言葉を連ねた俺に、恋人は言った。
    「格好いい」
    それを受けて、俺は自嘲気味に笑って聞いた。恐い夢を見て泣いて縋るのが? と。
     すると恋人は、
    「違う」
    と、鋭く、俺に残っていた靄を切り裂いてから
    「泣きっぱなしじゃあ終わらないところが、ですよ」
    その瞳に俺を真っ直ぐに映しながら、こちらの左胸を拳で軽く叩いた。
     瞬間、止まっていた鼓動が動き出したような錯覚。

     生きている。
     俺もまた、間違いなく、生きて、ここにいる。

     願わくば、ではない。
     互いの力で創り上げるのだ、永遠にも引けを取らぬ程、長く長く共に過ごす刻を。
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