暗号「極秘の作戦に参加します、これ以上は言えません」
ああそうか、分かった、と返事をした。
「行ってきます」
じゃあな、と見送った。
その後、俺の元に帰ってきたのは、揃いの指輪だけだった。
肉片と血の海にこれだけが残っていたと知らされた。
俺は、礼を言って受け取ったそれを、小指にはめた。
それから数ヶ月後。
鳴らないはずの番号から、電話が、きた。
『お待たせしました、あなたの出番です』
俺は、俺の向かうべき場所だけを聞いた。
そして作戦は終了した。
全て、立案者の思惑通りに。
「ごめんなさい」
と、帰宅するなり頭を下げた恋人に
俺は初めて、抱えていた怒りと、悲しみと、そして、安堵を、ぶつけた。
違う、俺が、今お前に言って欲しい言葉はそうではない、と。
恋人は口付けながらようやく、言って、くれた。
「ただいま」
と。
そうだ、俺は待っていたんだ、行ってきますと、お前が言ったから、帰ってくるのだろうと。
口付けに応えながら、そして小指から外した指輪を恋人の、在るべき場所の、薬指に、通しながら
おかえり
と、ようやく、言えた。