窓辺の謎 まぁ、大方終わったか。筆を持つ指先に限界を感じ、一旦休憩と窓の外をふと眺めれば視界を黒い線が横切った。
「あれは……」
空中を円形が動いているが、質感は墨の様だ。恐らくこの不可思議な現象を起こせるのは馬岱殿の妖筆だろう。鍛錬でもしているのかと竹簡に再び移そうとした視線を、留めざるを得ない瞬間が訪れる。
「ん……?」
何と言えば良いか解らないが、墨で描かれた虎が何時もの虎では無い。いや、虎なのかどうか。次に横切ってきたものも生物ではありそうだが、鳥なのだろうか。
明らかに普段の、写実的に見事な動物を描く馬岱殿の描き方では無かった。次々と現れる謎めいた墨の蠢きに、戸惑いを隠せない。
しかし、何故だろう。
「ふ……っ」
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