決して大きくはないアトリエ。だけど三ツ谷は気にいっていた。部屋の真ん中、机の上。広がるデザイン案に、天窓からの光が差し込む。春の麗らかな陽気は穏やかで、はらはらと桃色が空を彩る。
「へえ、いいじゃん」
「当然だろ」
「じゃ、さっさと本題移るか〜」
セフレである灰谷が仕事を依頼してきたのは、前回会った時のことだった。ベッドの上、火照った身体が冷めきらぬうちに、「三ツ谷ってウェディングドレス作れんの?」と言われたのだった。
『へぇ、結婚すんのか』たぶん、そう返した。今となってはあまり覚えていない。そのときになって、初めて気がついた。セフレのはずの灰谷のことを、三ツ谷はいつしか好きになっていた。
恋心の自覚は、失恋と同時だった。
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