現実は厳しい。三ツ谷は求人掲載誌を見ながら、ひとり唸っていた。高校生でも可能なアルバイトはどれも最低賃金ギリギリで、これでは高校を卒業するまでに目標金額は貯まりそうにない。
真夏の太陽に晒されたうなじから、汗が伝い落ちる。その間にも、ぐるぐると脳内を数字が回っていく。あれやこれやと考え出したらキリがない。三ツ谷自身の専門学校に関する諸々の費用はもちろん、妹ルナとマナの学費、さらには少しでも家にお金を入れて母親を楽させたい気持ちもある。
とにもかくにも、三ツ谷には今お金が必要だった。
パッポー、パッポー。目の前の信号が青になり、人並みが縦横無尽に泳いでいく。周りよりワンテンポ遅れて歩き出した三ツ谷は、しかし交差点の真ん中で足を止めた。目の前に広がる光景はまるでモーセの海割り、ならぬ灰谷蘭の人割り。
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