目は口ほどに物を言う 深津は結構、分かりやすいと思う。だが、この事を話すと大抵は「……そうか?」と首を傾げるのだ。
三年間チームメイトとして寝食を共にしている奴らは、「まあ、分かりやすい時もある」と頷くので、(逆に何故、分からないのか)と不思議に思うくらいだ。
破顔した表情はしないが、口角が上がって楽しんでいる事は分かるし、何より目線が物語っている。
諺の『目は口ほどに物を言う』は深津にピッタリだと思うと河田に話したら、呆れながら「おめ、辞書で意味調べでみれ」と辞書を渡しながら言うではないか。
辞書を受け取り、薄い紙をペラペラと捲る。お目当てのページを開くと辞書特有の小さい字で【情をこめた目つきは、口で話す以上に強く相手の心を捉える】と書いてあった。
「分がったが?」
「……ああ、…うん」
「何が分かったピョン?」
「うわっ!」
気まずくなり、河田から視線を逸らすと、後ろから声をかけられる。驚いて思わず肩が跳ねたが、深津はお構い無しに松本に顔を近づけながら、開いてる辞書に目を向ける。
「調べ物ピョン?」
「目は口ほどに物を言う……の意味を調べてた」
誤魔化せばいいものを、正直に答えてしまう自分はなんて馬鹿なんだと思いつつ、河田に辞書を返していると、深津がポツリと「視線に感情が籠るのは、どうしても抑えられないピョン。好きなんだからしょうがないピョン」と恥ずかしげも無く言う。
「松本、おめが一番近ぐで見でれば、そりゃあ分がるべ」
ダメ押しとばかりに言われた言葉に、顔が火照ったのは言うまでもない。河田は呆れたようにふたりを見て、馬に蹴られたくないと言って席を立つ。
決まった相手、松本が近くに居る時は分かりやすいのだから、それなりに近くにいる河田・野辺・一之倉たちが、【深津は松本に対して親愛以上の情を持っている】と認識するのは当然だろう。
無自覚で惚気けられた腹いせに、今日の夕飯はおかずを献上してもらおうと考えなから、河田は後ろ手で手を振り、去っていくのだった。
おわり