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    sasa98617179

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    sasa98617179

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    一旦上げておきたいおにショタもどき炭善の導入編

    初めまして、ずっと待ってた  ぼくの名前
              二年三組 ***たんじろう
     ぼくの名前は***たんじろうです。たんじろうというのは、お父さんとお母さんが大すきなお話に出てくる人と同じ名前です。ぼくのかみの毛と目の色がお話のたんじろうとそっくり同じで、一目見てきめたと言っていました。
     お話のたんじろうはわるいやつにあやつられたり、しゃっきんをしていたりして、かっこよくないです。ぼくはあんなふうにならないようにします。でも、かわいい妹がいるのはうらやましいなと思いました。ぼくも弟か妹がほしいので、クリスマスにサンタさんへ手がみを書きました。
     ぼくはお兄ちゃんになるのが楽しみです。

    ***

     カレンダーをめくると真っ青な空が目に飛び込んできた。青い空で色とりどりの家々が立ち並ぶという外国の風景を切り取った写真にこれから訪れる夏への期待をくすぐられ、口元がゆるむのを堪えきれない。ニヤつく口元を手で隠し、七月十日からの十日間を指でなぞる。この期間は俺にとって特別な時期だった。
     毎年七月、中旬ごろの何でもない日に小包が届く。宛先は俺。差出人は物心のつかない頃に一度だけ会ったことのある人だ。
     小包にはいつも手紙とポプリ、それからちょっとした贈り物が入っている。最初の年にはオルゴール。次の年は絵本。その次はぬいぐるみ。毎年一つずつ増える贈り物は居間の飾り棚や本棚、俺のベッドの枕元に並べられ、十五になった今でも折に触れてねじを巻いてページをめくり、フカフカの頭を撫でている。ポプリもビンに詰め直し、長持ちするようにきちんと手入れして、特別なときに香りを楽しむようにしている。つまり、小包は俺の宝物だった。
     贈り物は毎年違うけれど、手紙に書かれている文面は毎年ほとんど変わらない。一年を無事に過ごした祝いの言葉とたわいもないひとことが書かれている。ただ、去年の手紙には初めて「また会おう」だなんて書かれていた。俺はそれを真に受けて、この一年密かにお小遣いを切り詰めてその人に会いに行くためのお金を貯め、何を伝えようかと考えながら眠る日々を送っていた。
     その人は俺の住むところから県を三つもまたいだ先に住んでいて、去年までの俺はそこに行くことができなかった。県境を越えたところに遊びに行くのは高校生になってから、そう両親と約束していたからだ。でも、俺はこの春ついに高校へ進学した。お金もちゃんと貯めているから、往復の交通費はもちろん、許可さえもらえれば安いホテルに泊まるくらいのことはできる。
     あの人のところへ行く方法も図書館のパソコンでちゃんと調べたんだ。早朝に出発する高速バスに乗って三時間かければあの人の住む県に着く。そこから路線バスを乗り継いで、あの人の住む場所の最寄りのバス停で降りるころにはお昼を回っているだろう。帰りのバスの時間を考えると、あの人と会えるのは二時間がいいところだけど、最初はそれで十分だ。
     俺は今年、あの人の手紙に返事を書くことにした。もちろん今までも返事は書いていたけれど、今年はあの人のところに遊びに行っていいかと、そう尋ねることにしたのだ。

     ――毎年お祝いをありがとうございます。あなたからの贈り物は俺の宝物です。ずっと、あなたと会ってお話がしたいと思っていました。この夏、お訪ねしてもいいでしょうか。お返事お待ちしています。

     進学を機に買ってもらったスマートフォンの電話番号とメールアドレス、メッセージアプリのIDも書き添えると決めている。俺は、あの人とのつながりを一つでも増やしたかった。かなりお年を召されているはずだけど、インタビュー記事を読む限り新しいものは好きそうな人だとも思うから、スマートフォンも使いこなしているかもしれない。
     あの人について、俺が知っていることは少ない。名前と住所、あの人が書いた本、くれた手紙、雑誌の記事を切り抜いたスクラップブック、それらから得られるカケラを拾い集めるくらいなものだ。手紙以外はあの人のファンを自認する両親が集めたもので、それに感謝とともになんとも言えない引っかかりを覚えている。
     かの人は十年ほど前に公から姿を消し、スクラップブックに貼られた記事も増えなくなった。
     あの人と俺との間にある幾重もの隔たりがもどかしくてたまらない。
     でも、あの人に会って話ができたなら、このモヤモヤした気持ちも解消できるに違いない。

    ***

     七月十日。小包は来ない。
     七月十四日。まだ来ない。
     七月十九日。来ない。

     七月二十日。終業式の日。俺は走って家に帰った。
     郵便受けを確かめてみたけれど、チラシやダイレクトメールしか届いていない。落胆し、そうだと思い顔を上げた。我が家は書店を営んでおり、店舗と家が一体になっている。もしかしたら店の方で受け取っているかもしれない。一縷の望みをかけて店に駆け込み母に尋ねると、母は平積みの本を整理する手を止めて俺を見上げた。どこか困っているようで、俺は内心首を傾げる。そんなに変なことを聞いたかな。俺があの小包を毎年楽しみにしていることなんて、両親は把握しているのに。
     母は言った。
    「我妻先生は十年前にお亡くなりになっているのよ」
     音が言葉になり、耳を通って頭に届く。おなくなりになっている。言葉の意味が心にしみる。胸が詰まり、息ができない。
    「いっしょにお葬式にも行ったの、覚えてないかしら。あなたはまだ小さかったから」
     立ち上がり、背をさすってくれる母に何の言葉も返すことができない。お葬式なんて覚えてない。それに去年まで小包も届いていたじゃないか。視線を彷徨わせると、とあるコーナーが目に入る。両親が敬愛してやまない作家の本を集めたコーナー。そこには俺が生まれて間もない頃にこの店で開催したサイン会の風景や、作家先生の嬉しそうな笑顔が飾られている。あの顔を、写真じゃなくて直接見られると思っていたのに。
    「炭治郎、大丈夫?」
     声を出すと泣いてしまいそうで、俺はどうにか顎を引いて頷いた。母はそんな俺の頭を撫でると、カウンターの父に声をかけ、俺の手を引いて家に戻った。リビングのソファに座らされた俺がひくつく喉を宥めているうちに母は洗面所から俺の大好きなタオルを出してくれた。
     ――この大きなタオルもあの人からの贈り物だ。ふわふわで、洗えば洗うほどしっくりと肌に馴染んだ。贈られたころは風呂上がりにマントのように羽織って家中を走り回ったものだ。
     タオルを見下ろすと、見慣れた布地にポトポトと水滴が落ちる。俺の涙だった。
     鼻の奥がツンとする。うまく息ができない。ひぐ、と喉がふるえ、たまらずタオルを顔に押し当てた。
     近所の子どもたちが遊ぶ声がガラス越しに聞こえる。涙を拭って窓の外を見上げると、青い空に白い雲がもくもく立ち昇っている。すばらしい初夏の風景はすぐそばにあるのに、ひどく遠いもののように思えた。
     ――あの人はもう、ずっと前にいなくなっていた。小包も手紙も、もう来ることはない。それが悲しくて寂しくてたまらなかった。
     どうして、と思う。どうして俺をおいていくんだ。
     ずるい、ひどい、さみしい、あいたい、おいていかないで。
     ぐちゃぐちゃの気持ちは涙と声になってボロボロとあふれた。高校生にもなってわんわんと泣く俺を、母はそっとしておいてくれた。
     日が暮れて店を閉めた父が帰ってきても涙は止まらなかった。俺は泣きながらごはんを食べて、お風呂に入って、眠った。

    ***

     男は布団に横になり、多くの人に取り囲まれていた。みな男を知る人たちで、みな泣いていた。男の手を握っている誰かの向こうに、懐かしい人たちが彼を迎えにきているのが見えた。そちらに行かなければいけない。でも、あと少しだけ、男にはやりたいことがある。
     萎びた体を必死に動かし、いとおしい匂いのするほうへ顔を向ける。ほんの少ししか動かなかったけれど、見たいものは視界に入った。美しい稲穂色をたたえた大好きな人。ぽろぽろと静かに、金色の髪の人が泣いている。
     ――いやだ、あんまりだ、さみしい、つれてって。
     そんな匂いで(匂いってなんだ)泣くその人の涙をすくいたいけれど、男は手を持ち上げることができない。声をかけようにも、唇は震えるばかりだ。
     ――ごめんな、幸せだった、ありがとう、また会えるよ。
     男は声の代わりに、鼓動に思いを込めた。彼なら心音にのせたことばを聞き届けてくれると知っていた。琥珀の瞳と視線が絡む。睨むような、恨むような、縋るような視線。
     これでよし。
     男は最後の息を吐き、暗闇に身を委ねる。不安など何もない。ただ、再会が待ち遠しかった。

    「なんてことをしたんだ!」
     満足げに眠る男に向かって思わず叫んだ。あんな思いを残したら、あの人は待つほかないじゃないか。いつまでともしれない時間、どんな気持ちだったのか。想像もつかない。
    「お前はばかだ! お前の勝手であの人を縛って、何がうれしいんだ!」
    「何がと言われれば、善逸が俺を受け入れてくれたことがうれしいよ」
     不意に声がした。隣を見ると、見知らぬ男が立っている。歳のころは俺と同じくらいだろうか。赤みがかった色の髪と瞳を持ち、学生服にも似た服の上から市松模様の羽織を身につけていた。
     彼は片手に一冊の本を持ち、パラパラとページをめくっている。
    「不思議な縁の結ばれ方もあるものだなあ」そう呟く男の声はやわらかい。
    「善逸の書いた本が出版されて、それを好いてくれる人たちがいて、その人たちの間に愛が生まれ、その結晶に俺だったものが宿るとは」
     楽しげに語る彼は一目たりとも見たことのない男だが、布団で横たわる男にひどく似ていた。
    「しかしこの本がこうも長く読み継がれるとは。いい編集さんに出会えたんだな。善逸らしい情念はだいぶまろやかになっているけれど、うん、これはこれで悪くない」
    「すまない」とうとう堪えきれなくなり、俺は男に声をかけた。
    「なんだ?」
    「君は誰だ。どこかで、会っただろうか」
    「会ったことはないな。――初めまして、***炭治郎。俺は竈門炭治郎。いわゆる、お前の前世というやつだ」
     突拍子もないことを言われた。理性と常識はそう訴えるが、俺の心は竈門炭治郎なる男が本当のことを語っているのだと声高に叫んでいる。竈門炭治郎といえば、善逸伝の登場人物だ。俺も家にある善逸伝を読んだことがあるから知っている。でも、目の前の男は本の中の竈門炭治郎とはどこか違った。ありていに言えば、そう、書物の中にいる炭治郎よりも強かに見える。
    「あれはお前か。……お前はわかってああ伝えたんだな」
    「もちろんだとも。俺ほど善逸を理解している人間は、少なくともあの時は存在しなかったろうな」
     ドヤ顔でそう豪語する竈門炭治郎に「ひどい男だ」と言葉をぶつければ、彼は困ったように首をかしげた。
    「そんな顔で言われても説得力はないな」
    「どんな顔だ」
    「うらやましいと書いてある顔だよ」
     そう言われた俺は咄嗟に背を向け、己の顔をぐしゃぐしゃに揉みほぐす。うらやましいだなんて、そんなこと。
     二の句を継げない俺を気にするでもなく、竈門炭治郎は「あれは俺の最後の思い出なんだ」とはにかんだ。
    「……どうして、それを俺に見せるんだ」
     この思い出は竈門炭治郎の大切な、誰にも見せたくない思い出に違いなかった。だってあんなにも遠慮なくわがままを言って、甘えて、困らせて、そしてそれを受け入れてもらえているのだ。大切でないわけがない。
     それをいくら来世の自分とはいえ、他人に見せるなんて。
    「うん」
     パタンと本を閉じ、竈門炭治郎は俺に向き直った。
    「お前があんまり泣くものだから。そんなに泣かなくてもいいんだと伝えたくてな。それに、お前が泣くのは俺にもいくらか咎がある」
    「どういうことだ」
    「俺はお前の前世だと言っただろう。生まれかわりはあるんだ。だから大丈夫、お前もお前の善逸にちゃんと会えるよ。手紙にもまた会おうと書いてあっただろう?」
     竈門炭治郎は目を伏せた。
    「俺は、善逸をずいぶん長く待たせてしまった。俺が思っていたよりもずっと長くな。でも、善逸はちゃんと待っててくれたんだ。だから今度は俺が待つ。そういう順番なんだと思う。――実際に待たされるのはお前だから、申し訳ないと思っているよ。ごめんな。でも、どうか辛抱してくれないか」
     言葉を咀嚼し、目の前の男に頭突きの一発くらいは許されるだろうかと考えて、俺は善逸伝の記述を思い出した。薪を割りまな板の代わりすらこなす額に正面から当たりに行くほど愚かにはなれない。それに、次にあの人に会うのは俺なのだ。そう思えば我慢できる。
     竈門炭治郎。お前はいつかどこかで、あの人から蹴りの一発でももらえばいい。
     代わりに俺はこう尋ねた。
    「待っていれば、俺はあの人に会えるのか」
    「必ず会える。俺が、――俺たちが、善逸と会えないわけがない」
     赤い瞳が俺を捉える。迷いなく言い切った竈門炭治郎に、俺は頷いた。そうか、俺とあの人の縁はそういうものなのか。
    「それならいいんだ。いくらでも待つよ。お前も申し訳ないだなんて思わないでくれ。お前があの人との縁を離さないでいてくれらからこそ、俺とあの人との縁も繋がったのだろうから」
     男はほっとしたように口元をゆるめた。
    「ありがとう」穏やかな声が響く。「そう言ってもらえると、気が楽になる」
     竈門炭治郎、心配はいらないよ。お前には妹弟がいただろうけれど、俺は違う。一人っ子で両親は共働きだ。一人でいるのには、お前より慣れている。だから寂しくても大丈夫だ。目が覚めてこのことを忘れてしまっても、俺はちゃんと生きていける。
     胸に空いた隙間が埋まった気がして、俺はそっと胸をさすった。
    「安心してくれ。この夢を忘れてしまっても、お前の心の奥底にはちゃんと残るから」
     そう言った竈門炭治郎の姿が霞んでいくのに気づき、俺は慌ててその羽織を掴もうと手を伸ばす。
    「いつか会えると俺たちの魂はわかってる。そのことがお前を支えてくれるよ」
     ――待ってくれ、まだ聞きたいことがあるんだ。
     遠ざかる声と姿。竈門炭治郎に向かって伸ばした手は何も掴めず、呼びかけた声は音にならなかった。けれど竈門炭治郎は「なんだ」と首を傾げた。そうする気配がした。
     ――お前はほんとうに、借金を抱えて夜逃げしたのか?
     カラカラと笑い声が響く。
    「作ってないよ。俺はちゃんと貯金するほうなんだ」
     それを最後に、今度こそ竈門炭治郎はかき消えた。

    ***

     翌日、俺は去年届いたあの人からの手紙を読み返していた。去年の贈り物は古びた銀色の釦だった。コルクボードに飾ったそれを指先で撫でながら、一筆箋に書かれた文字を読み返す。
     ――お前のゆく先にたくさんの幸せがあることを願ってる。また会おう。
     筆で書かれた文字を目でたどり、最後までたどり着いてまた先頭に戻る。十年前に書かれたそれは、贈り物といっしょに一年にひとつずつ届くよう手配されていたと、今朝父から聞いた。
    「サイン会に来た我妻先生はお前を一目見て炭治郎と呼んでいたよ。すごくすごく嬉しそうでなあ、会わせてくれてありがとうって、何度も言っていたよ」
     そうねと頷く母は懐かしそうに微笑んでいた。俺が一歳にもならないころの出来事だから覚えていないのは仕方がないが、ずるいなあと思わずにはいられない。
     過去を変えることはできないが、これからできることは何かあるだろうかと考えて、俺は昼休憩に戻ってきた母に尋ねた。
    「我妻先生のお墓にあいさつがしたいんだ。どこにあるか知ってる?」
    「あら、そうなの?」
     不思議そうに首をかしげた母はとある山の麓にある墓地を教えてくれた。スマートフォンで経路を調べたところ、あの人に会うために貯めたお金があれば問題なく行ける場所だ。管理している方に連絡し、墓参りの許可を得る。
    「俺も近頃はなかなか行けなくなっていましたから。善逸さん、喜びますよ」
     電話した管理人さんに「炭治郎さん、よろしくお願いしますね」と言われ、俺は迷わず「はい!」と叫んだ。

    ***

     墓を掃除して花を生け、お線香をあげる。そうして手を合わせ、物言わぬ墓石に向かって思うままに語りかけるが、締める言葉はいつも同じだ。
     ――あなたは今、どこにいますか。
     最初にここを訪れてから、そろそろ十年になるが、俺はまだあの人に会えないままだ。

     大学卒業後、俺は両親が営む書店で働きはじめた。
     この書店が好きだという気持ちが動機の大半を占めているけれど、その芯にはあの人と出会った場所を守りたいという想いがある。
     また会おう。そう書かれた手紙を何度も読み返し、あの人から贈られたものに触れて焦れる心を宥める日々は苦しくもあり楽しくもあった。
     いつか会えるあの人に誇れるようにと生きてきた。そうあれと望まれたように、健康に気を使い、季節を楽しみ、ひとときを愛おしむ。ささやかな幸せも望外の喜びも、全身で味わって心に刻み込んだ。そして年に数度のお墓参りであの人に報告するのだ。
     ――俺は幸せでいます。でも、あなたがいたらもっともっと幸せです。あなたは今、どこにいますか。

     墓参りを済ませ、最寄りのバス停でぼんやりバスを待っていた。一時間に一本しかないバスが来るまであと二十分もある。ぽかぽかとあたたかい陽射しに、早起きした体が眠気を訴えてくる。眠たい、でも我慢だ。寝たら起きられないぞ。心地よさに陥落しそうになりながらどうにか抗戦していたつもりの俺は、何かが足にぶつかった衝撃でハッと目が覚めた。
     なんだなんだ、犬猫か!? おそるおそる足元を見ると揺れる琥珀と目が合う。黒い髪と琥珀の瞳を持つ小さな子どもが、俺の足にしがみついていた。思考がまとまらない俺を無視して、腕はその子を抱え膝に乗せる。その子は驚いたように目を丸くして、それからくしゃくしゃの顔で笑う。
     青天の霹靂だった。
    「きみは、」
     ようやく絞り出した声は震えていて、情けなさに泣きたくなる。この日をずっと待ち望んでいたのに、俺はちっとも心構えができていなかったらしい。
    「おれね、ぜんいつ!」
     善逸と名乗った子はにこーっと笑ってぎゅうと抱きついてきた。その小さな体を抱きしめ返し、俺は深く息を吸う。
    「俺は炭治郎だ。……初めまして、ずっと前から大好きだよ」

    ***

     孤児だった善逸を家族に迎え入れるまでの数ヶ月はあっという間に過ぎ去った。

     善逸の手を引いて家に帰ると、両親が「おかえり」と迎え入れてくれる。モジモジして俺の足に隠れる善逸の背中をそっと押すと、赤らんだ顔をちょこんとのぞかせ、小さな口を開いた。
    「た、ただいまぁ」

     全くまったく、出会ったときからずっと、俺の心臓はこの子に握りつぶされ続けている。
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