【喧嘩できないみずいこのお世話を焼くあらむらのお話】
「イコさんに怒られへんねん、俺」
テーブルに突っ伏す男が発した独り言のような嘆きに、荒船は眉を寄せた。付き合いの長さはそれなり。出身校の同級生というわけではないが、不思議と縁がある。少なからず遠慮はいらない相手だ。
「はあ?」
「腹立つこともあるし注意もする。せやけど喧嘩にならん」
「平和でいいだろ」
もとより配慮はできるが遠慮がないと評される性格の荒船である。恋人との予定が流れたタイミングで狙ったように声を掛けられ、久方ぶりに顔を突き合わせたと思えば酒のつまみにこの吐露。気を回してやる所以はない。
「昨日、女にくっつかれとるとこ見てもよう喧嘩にならんかった」
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