秘密の話 この世の中には秘密だからいいものというのが、確かにある。
例えば、誰と誰がどういう関係だとか。
そういうものは秘密だから、余計に何かを搔き立てたりするのだ。
「…………うわ」
思わず、声を漏らしたのは見てしまったからだ。
家庭教師であるところの鍾離と、自分の妹の蛍がキスをしていたのである。
確かにすぐに部屋へ戻ってこないとは伝えたものの、だからといってまさか、そんな関係だったとは思いもよらなかった。それに――声を漏らしたことで、どう考えても鍾離には気づかれてしまった気がする。
とはいえ、なかったことにするしかないだろう。
二人の接触が終わってから、少し経って空は部屋の中に入った。部屋の中ではなんとも言えない空気が漂っている。
その空気には、先ほどの二人を見ていなければ、喧嘩でもしたのかと思ってしまうようなよそよそしさがあった。空は蛍に話しかける。
「ごめん、どこまで進んだのか教えてくれるか?」
「あ、うん。えっと、このページの……」
蛍が教えてくれるのを聞いていると何やら視線を感じ、空は顔を上げた。
ひ、と声が出なかったのは褒めてほしい。こちらを見ている鍾離の瞳が黄金色に輝いていたのである。
何も言わないまま、こちらを見ていた鍾離は暫くすると視線を下げた。心臓が妙に早く脈打って、正直、少しだけ居心地が悪い。
だが、空は一つ息を吐くと鍾離をにらみ返した。その行動に彼は驚いたようで目を瞬かせ、肩を竦める。
そんなやりとりをしている間に説明を終えたらしい蛍は、空を見上げた。
「聞いてた?」
「そこそこ」
「それは聞いてないってことじゃない? もう……」
呆れる蛍はため息をつき――ふと、彼女のスマートフォンが着信を受けて震え始める。ちらりとそれをみた蛍は、電話に出てくるねと二人に告げて部屋を後にした。
残された鍾離と空はしばしの無言の後、鍾離の方が先に口を開く。
「頼みがある」
「なに?」
「誰にも言わないでくれ」
その声は言葉の弱弱しさの割に覇気があって、ずいぶんと本気であることがうかがえる。空は肩を竦めた。
「蛍のためだから、そのつもり」