ばら色に染まる「薔薇の香りがする……?」
静かな光が差し込む学院廊下。
すれ違いざま、すんと鼻を効かせた桃李にどきりとした。一彩は落ち着かない気持ちで口を開く。
「——たぶん、僕のハンドクリームだよ。買ってみたんだ」
「えっ、一彩の? ……ちょっと意外。薔薇の花が好きだったの?」
「特別好きな花というわけではなかったよ。けど、ユニットのみんなで出かけたときにマヨイ先輩と花を見て回って……」
四人で訪れたフラワーパーク。
流れでマヨイと二人きりの道行きになり、花々を巡って、赤や白の蔓薔薇のアーチが連続するトンネルを歩いた。秋晴れの下で鮮やかに咲く美しい薔薇に、芳醇な香り。そして隣を歩くマヨイのおだやかな声色。——秋の日差しのような、やさしい記憶だ。
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