「ツカサくん? 入るよ……っ!」
天幕の中の簡易ベッドの上。
足を投げ出し、上体は起こした状態の彼は、目からポロポロと涙を流していた。
「あっルイか。すまん、ちょっとだけ待ってくれ。何とかするから」
目元を強く擦って涙を止めようとする腕を手で制す。
「僕しかいないから大丈夫だよ。……傷、痛むのかい?」
カーキ色の毛布に隠れて見えない脚の方に目をやる。
後から知ったけど、どうやら散弾銃のような武器で撃たれたようで、出来た銃創は五個ほど。
おまけに貫通していないものもあったらしい。
そのまましばらく軍を指揮していたというのだから、悪化して傷んでもおかしくはないだろう。
でも、彼は涙を零しながら僕の質問に対して首をふるふると振った。
「いまは、まだ麻酔が効いてる。痛くはない」
「じゃあどうして……」
「不甲斐ないんだ」
僕の言葉に被せるようにツカサくんは俯きながら呟いた。
「不甲斐ないんだ。オレは、あの中で最も消えては行けない人間だったのに。誰だってあそこで死ぬべきではないが、オレがいるかいないかで死ぬ仲間たちの数は変わる」
落ちる涙が、毛布の色を丸く変える。
「重傷で退場。それだけは、それだけは避けなければならなかったんだ。まだ、一撃で死んだ方がましだったかもしれない」
「そんなことっ!」
君だけにはそんな命を粗末にするようなことを言って欲しくなかった。
ツカサくんはこちらを見て、優しいな、ルイは。と呟くと、どこか遠くを見るように前を向いた。
「なぁルイ。例えば100人の兵士が敵陣に乗り込んだとする。そのうち50人が足を怪我して生きてはいるが戦線に戻れなくなるのと、50人が死んでしまうのと、この先追加の兵士たちが来るとして、敵を落とせるのはどちらだと思う?」
急な質問に頭が真っ白になったけど、少し考え込んでから僕は答えた。
「……怪我をする方、かな。死んでしまうよりは遥かにいい」
「そうだな、その方がいい。でも今の質問は『敵を落とせるのはどちらか』だ。この場合だと、50人が死ぬほうがいいんだ」
「どうしてだい?」
「仲間が殺されたとなると、仇を討たなければ、と士気が上がる。でも殺されきれないで苦しむ怪我人ばかりだと、自分もああなるのではないかと恐怖が増す。よって士気が下がることがある。……オレは指揮官として、脚を撃たれ、重傷により撤退。なんてことは避けなければいけなかったんだ!」
バンッ! と自分の寝ているベッドを彼は拳で叩いた。
「この傷じゃあ、また戦線に戻れるかどうか分からない。それどころかまた歩けるかどうかすら分からないんだ!! こんな、こんなことで終わらせてはダメなのに……!」
あぁ、そうか。
僕は何となく彼の涙の理由を悟った。
彼は自分が指揮官としての役割を果たしきれなかったことに不甲斐なさを感じている。
でも、それと同時に、自分の怪我の後遺症の恐怖とも戦っているんだ。
「ツカサくん……」
「オレがもっと、もっと強ければよかったんだ。こんな怪我を負うきっかけすら作れないほど強く」
彼の目から流れる涙は止まらない。
でも、僕も彼も、その涙を止める方法はわからない。
僕はただ、彼の背をゆっくりと擦りながら、彼の体温が少しづつ上がっていることを感じていることしか出来なったかった。