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    UsaUsa_mitumaki

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    角うさぎの名前について

    角うさぎにまつわるエトセトラ②精霊には面白い特性がある。精霊は自然と共に生き、自然と共に消滅する生物だ。彼らは万物の大きな流れに沿って生きている。彼らには群れ、という概念こそないものの基本的には、精霊が発生しやすいところでコミュニティを形成してるんだ。昔の実験でね、その精霊のコミュニティにいる子を1匹を誘導して、その子に人間の肉を混ぜた、鹿肉の餌を食べさせたんだ。あぁ、その子自身には特になんの問題はなかった。しかし、その子をコミュニティに戻したときに異変が起きた。同じコミュニティにいた精霊たちが、突然帰ってきたその子を攻撃し始めたんだ。これは面白い発見だったよ。彼らは人間の肉を食べた同族を仲間として認めないんだ。結局仲間から攻撃された精霊は、1匹で生きることを余儀なくされたのさ。つまり……

    「………つまりこのうさぎちゃん……アルミ…アルミニウム……?はもう群れに戻れないってこと?」
    「アルミラージだ。まぁ端的に言えば、そういうことだ。おそらく彼らに取っては自然界から離れすぎてる人間は不浄のもの、という認識なんだろう」
    花の香りと煙が満ちた部屋でオルと呼ばれた青年は、そんなぁと小さくつぶやきながら腕の中にいる角ウサギを見る。包帯を巻かれた体を起こして、んく、んくと音を立ててスポイトから、虫などを潰した流動食を食べる様はなんともかわいらしく、それでいて痛々しい。
    「で、でも、人間の肉を食べたって決まったわけじゃ……!」
    「それはないね。この子の体はもちろん、分泌液、排泄物まで人間の匂いがするからな」
    悪あがきをするオルに目の前の魔女、紫煙はピシャリととどめを刺す。今度こそ青年は残念そうに肩を落とした。
    「まぁ、そもそも自然に還す前にオークションで売るから関係ない話だ」
    「……俺はそれにも納得してないからね、紫煙」
    「それなら君が落札すればいい。できればの話だけどね」
    「ぐぬぬぬ……!」
    アルミラージの角、1カラットで300万という高値で取引されてるのだ。そんなアルミラージがやや弱っているとはいえ丸々1匹となったら一体いくらになるのか、そもそも市場で出回ったことがないから目安すらわからないのだ。億を超えるのではないかと、サーカス団の中でもまことしやかに囁かれている。そんな値段を二十歳にもなっていない若造がポンとだせるものではない。オルは悔しそうに唇を尖らせることしかできなかった。
    「あ、そういえば一つオルに頼みたいことがあった」
    「………なに」
    「その子の商品名を考えておくんだ」
    「その言い方嫌いだ」
    紫煙の発言にオルはぷいっとそっぽを向く。しかし、紫煙はそんなオルを無視して話を続けた
    「君の『オランジェット』だって、商品名だけど?……大事な仕事だよ。名前は商品の第一印象を決める」
    諭すように語りかけてくる紫煙を、次はオルが無視してアルミラージに餌をあげていく。が、スポイトは何も吸い上げずに、音だけを鳴らした。……膝の上の角うさぎはケプッと小さくゲップをしている。食器を片付けようと立ち上がるオルに、紫煙はため息まじりに語りかける。
    「それに商品が今後付き合っていく大切な名前だ。それを決められる権利は君にある。金になりそうな名前にしておくれ」
    「いいこと言ってたのに、最後で台無しだよ。紫煙のバカ。守銭奴」
    「はいはい、相変わらず罵倒のボキャブラリーが少ないね。太陽の光に当たることも生命力を増やす行動だ。名前を考えるついでに散歩にでもいってくるといい」
    そう言うと紫煙はオルの手から食器を預かり、そこら辺に放り投げる。食器は床にぶつかる直前で蝶へと変わり、消えてしまった。
    「あ、そうだ、くれぐれも外でアルミラージのことは話してはいけないよ。奪われてしまうからね」
    一応見えないように魔法をかけておこう、と紫煙がシーシャを吸って、オルの腕に収まっている角うさぎに煙を吹きかける。そうすると額にある宝石が消えて、普通のうさぎになった。
    「………ありがと」
    「どういたしまして、楽しい旅を」
    不貞腐れつつも礼を言ってから出かけるオルを見送り、紫煙は楽しげに煙を吐いた。


    「……商品って言うなーーーーーー」
    そんな叫びが小さなアクセサリー屋に響く。オルはサーカスのテントを出て、ゆっくり散歩しながら風に当たって冷静になろうと努めたが、いかんせん紫煙の言い方に納得できずに、このモヤモヤを誰かに吐き出したくて、このアクセサリー屋にたどり着いた。
    「それで今日はすごく不満げな顔で来たんだね。んー、難しい話だねぇ」
    そういって作業机に突っ伏すオルの前に、温かいココアを置いたのはこのアクセサリー屋の店長であるトカゲの獣人、イチカである。かわいい物好きであるイチカのお店は、自作のアクセサリーたちがきれいにされどたくさん飾ってあり、陽の光が入りやすいためかキラキラとお店全体が優しい光で包まれているため、落ち着く空間でありオルはとても気に入っている。イチカ自身もとても優しく、突然やってきたオルと角うさぎを嫌な顔一つせずに受け入れてくれた。
    「それでこの子がそのうさぎちゃん?とっても大人しいねぇ」
    ニコニコとイチカが見つめているのは、テーブル上で大人しくサンキャッチャーを見ているうさぎ。嫌がったり暴れたりせずにじっと陽の光を浴びている。
    「うぅ、たしかにオークションに出る以上商品だけどさ、一応こちらも心ある生き物なので、物扱いされるのは不服と申しますか、不愉快といいますか!それ以上にこれを紫煙に直接言えない俺が憎い……!弱虫……!ばか!」
    「う〜〜ん、そんなに自分を責めなくていいと思うけど…」
    そう言いながら、イチカはよしよしとオルの頭を撫でる。オルはそれを嫌がることなく受け入れて、光を浴びて丸まり始めたうさぎを見つめる。
    「この子はひどい仕打ちを受けてきたんだ。これ以上、そんな目にあってほしくない……。でも、お金を持ってる人たちが全員いい人なんて保証もない。また、また、前と同じことをされちゃうかも……」
    オルは不安を素直に吐き出してみる。イチカは頭を撫でながら、そうだねぇ…と相づちをうつ。
    「それならさ、余計に名付けは大切じゃない?」
    イチカが優しく問いかけてくる。オルは頭にハテナを浮かべながら、視線をイチカに向ける
    「ほら、名前はその子を表す大事なものだし、大体は親から子にあげる願いのこもったプレゼントでしょ?オルくんはこのうさちゃんにあげることができるんだよ。このうさちゃんにどんな風になってほしい?どんな生活をしてほしい?」
    想像してごらん?とイチカに言われ、オルはまた目線をうさぎに戻すせば、ぷぅぷぅと小さな寝息が聞こえてくる。
    「………穏やかに生きてほしい。もし可能なら、家族みたいな優しい人たちに囲まれて、愛されて生きてほしい」
    「……うん、素敵な願いだと思うよ」
    そう言うとイチカは立ち上がり、お店の奥へと引っ込んでいく。が、すぐに戻ってきた。その手には何冊かの本。
    「これはね、花言葉とか石言葉とかが描いてある本だよ。名付けの参考になると思うから、貸してあげるね」
    そういって可愛らしい紙袋にしまってこちらに持ってくるイチカ。オルはそれを受け取り大事そうに抱きしめる。
    「ありがとう、イチカさん…」
    「どういたしまして!素敵な名前をつけてあげてね!」

    お礼を告げたオルは急いでサーカス団の元へ戻り、自身に割り当てられたテントでイチカから借りた本を読み漁ってみた。しかし、活字を読みなれていないオルは途中でうつらうつらと船を漕ぎ始め、気がついたら外はすっかり夜になっていた。
    「オル?起きているの?」
    そんな声がテントの外から聞こえる。オルは慌てて起き上がり、テントから出るとそこには育ての親であるミミィが立っていた。
    「……寝てた」
    「あらあら、ふふっ、そうみたいね。よだれがついてるわよ」
    ミミィの手には今日の夕食であろうか、お盆の上にスープとサラダとパン。そして角うさぎ用の流動食がおいてある。
    「ありがとう、ごめん、ミミィ」
    「大丈夫よ。それで?うさちゃんの名前は決まりそう?」
    「んーーー、悩んでるとこ」
    「そう、難しいわよね」
    ミミィは懐かしいわーと言って、オルを優しく見つめている。オルはふいに頭に浮かんだ疑問を口に出す。
    「俺の名前はミミィがつけたんだよね。由来とか、あるの?」
    恐る恐るといった声音になったことにオル自身が気づいた。ミミィも感づいたのだろう。いつもよりずっと優しい声で応える。
    「あなたの髪色がきれいなオレンジ色だったの。それでオレンジの花言葉を調べたら「愛らしさ」って書いてあってね。たくさんの人に愛されますようにって、オレンジってつけようと思ってたの」
    ミミィはそっとオルの髪を撫でて、言葉を続けた
    「でもすでにオレンジって子がいたから、じゃあ貴方の瞳がチョコレート色だし、オランジェットにしよう!ってなってね。それに、ふふ、しかもね」
    ミミィは面白そうに笑っている。なんだろうと首を傾げているオルを見てさらにクスクス笑いだした。
    「紫煙が『略がオル(金色<か…金になりそうな名前だ…』とかいうもんだから、満場一致でその名前になったのよ」
    「また、あの人は……」
    楽しそうに話すミミィに対して、オルは呆れたようにつぶやく。しかしミミィは叱るわけでもなく話し出す
    「でもその略で全然いいなって思ったの」
    「……なんで?」
    「だって、あなたは私にとっては黄金と同じくらい、いえそれ以上の一番の宝物だもの」
    そう笑うミミィは昔から見てきた母の顔のそれであり、オルの胸にとても温かいものが広がってきた。
    「ありがとう、ミミィ」
    「どういたしまして、可愛い子。頑張りすぎないでね?」
    ミミィから食事を受け取り、テント内に戻れば角うさぎがテーブルの上にちょこんと座っている。
    「ごめんね、お腹空いたよね。今あげるから…」
    そう言って、テーブルにお盆を置く。少し視線を上げると、うたた寝しながら読んでた本が開きっぱなしだったことに気づいた。
    「借り物だから、一回片付けとこ」
    そう思ってオルが開いたページに栞をはさもうと、本を見るとそこに書いてある金属が目についた。
    「……これだ!」
    思わず大きな声が出てしまい、角うさぎがビクリと体を震わせる。オルはそれにすぐに気づき、落ち着かせるようにそっと角うさぎを撫でる。
    「ご、ごめんね、君の名前が思いついたんだ。響きもきれいだから、君も気に入ってくれるといいけど」
    そう言うと角うさぎがこちらをちらりと見た。なんて名前?とでも聞いているかのようだ。オルはドキドキしながら、祈るように名前を告げる
    「アリアネル。どうかこの名前が君を悪いものから守ってくれますように、そして素敵な縁を結びますように」
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    Replies from the creator

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    gohan_oic_chan

    PAST行マリ
    卒業後同棲設定
    なんか色々最悪です
    証明 朝日を浴びた埃がチカチカと光りながら喜ぶように宙に舞うさまを、彼はじっと見つめていた。朝、目が覚めてから暫くの間、掛け布団の端を掴み、抱きしめるような体勢のまま動かずに、アラームが鳴り始めるのを待っていた。
     ティリリリ、ティリリリ、と弱弱しい音と共に、スマートホンが振動し始める。ゆっくりと手だけを布団の中から伸ばし、アラームを止める。何度か吸って吐いてを繰り返してから、俄かに体を起こす。よしっ、と勢いをつけて発した声は掠れており、埃の隙間を縫うように霧散していった。
     廊下に出る。シンクの中に溜まった食器の中、割りばしや冷凍食品も入り混じっているのを見つけると、つまみあげ、近くに落ちていたビニール袋に入れていく。それからトースターの中で黒くなったまま放置されていた食パンを、軽く手を洗ってから取り出して、直接口に咥えた。リビングに入ると、ウォーターサーバーが三台と、開いた形跡のない数社分の新聞紙、それから積み上げられたままの洗濯物に囲まれたまま、電気もつけずに彼女はペンを走らせていた。小さく折り曲げられた背が、猫を思わせるしなやかな曲線を描いていた。
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