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    UsaUsa_mitumaki

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    暑い夏だってエクランドゥは営業しております

    カブリさん、お借りしてます

    耳まで赤いのは暑さのせい日差しが刺すような暑さになってきた夏のとある昼下がり。アンダーネオトーキョーにあるケーキ屋「エクランドゥ」にて、店主のプラリネは困惑していた。

    「(あの方…入ってこないのかしら……)」

    エクランドゥの出入り口の前で、オロオロと行ったり来たりを繰り返す男性にプラリネは声をかけるべきか否かを悩んでいた。
    普段接客をやってくれているチェリベリーとクレアの二人は、今お客さんがいないからお昼休憩に入ってもらい、二人は近くにできたカフェに行くと出かけてしまった。プラリネ一人で対応できなくもないが、もし、不審者や強盗といった場合でプラリネが勝てなかった場合二人の身が危なくなってしまう。

    「(でももし、お客さんで、お店に入りにくいとしたら…?)」

    エクランドゥはプラリネの趣味で木目調の落ち着いた雰囲気がありながらも、可愛らしく装飾されたお店だ。男性一人となると中々入りにくいのかもしれない。しかも外はジリジリと暑く、アイスだってあっという間に溶けてしまうくらいだ。

    「…………よし」

    プラリネは意を決して、エクランドゥの扉を開ける。すると扉の前にいた人物の肩がビクッと飛び上がった。

    「あら、あなたは…」
    「こ、こここんにちは……」

    そこにいたのは何日か前に大量にケーキを買っていった、エルフの青年だった。その時はチェリベリーが接客していたが、大量のケーキを包むのを手伝ったため彼を見たことがあった。困ったように手を彷徨わせていたのを妙に覚えている。

    「いらっしゃいませ。また来て下さったんですね」
    「お、ぼえてくれてたんですか?」
    「あんなにたくさんのケーキを買われたんですから、よく覚えていますよ。よかったら中どうぞ」

    そう中へ案内すると、彼は視線を少し彷徨わせてぐっと目をつむったと思ったら、キリッとした顔で店に入ってくる。

    「(そんなに緊張してたのかしら…)」

    整った顔立ちに長い耳、キラキラと輝く髪色。そんな彼は外の暑さのせいかダラダラと汗をかいて、服の袖で乱雑に拭っていた。

    「いまお客様がいないから、どうぞごゆっくり選んでね」
    「あ、ありがとうございます」

    そう言って、背の高い青年は焼き菓子コーナーに足を運ぶ。うーんと真剣に悩むさまはなんだか微笑ましい。

    「(誰かへの手土産かしら。あ、そうだ)」

    プラリネはそそくさと厨房へと戻り、ドリンク用の冷蔵庫からサイダーとグレープフルーツのシロップを取り出す。ルビーとホワイトのグレープフルーツを氷砂糖とりんご酢でつけた特製のシロップは、爽やかな、けれど甘い香りを漂わせて、夏らしさを演出している。
    氷を入れて冷やしたグラスに果肉入りシロップと入れ、サイダーを注げばパチパチと軽やかな音が響く。最後にストローをさして、ぐるっとひとまわしすると氷が涼やかな音を鳴らす。
    完成したドリンクをトレイに乗せて、店頭へと戻れば、青年はケーキのショーケースの前でうーんうーんとしゃがみながら悩んでる。

    「あの、もしよかったらだけど、これ試飲してください」

    しゃがんでもなおやや目線が上の青年に近寄り声を掛ければ、青年は目を見開いて口をパクパクさせている。

    「あ、いや、今日は暑いから喉乾いてないかなと思って…。おせっかいだったらごめんなさいね」

    プラリネが申し訳なさそうに謝ると、青年は首を横にブンブンと振って、嬉しそうに礼を口にする。

    「ありがとうございます。すごく喉乾いてて」
    「あら、それならよかった。よかったら椅子も持ってくるからそちらに座って休んでくださいな」

    青年がグラスに入ったドリンクを飲みだしてから、気づいたプラリネは照れ隠しのようにカウンターの奥から、人が座るサイズの椅子を少し引きずりながら持ってくる。
    青年はもてなしに慣れてないのか、ペコペコと申し訳なさそうにお辞儀をしながら椅子に座ったのをみて、プラリネはほっと一息をつく。

    「普段、お客様とこうやってお茶する機会なんて、めったにないから嬉しいわ。暑い中来てくださりありがとうございます」
    「いえ!こちらこそ、新作のドリンクが飲めて嬉しいです……これ、すごく美味しいです…」

    そう言って青年はへにゃりと優しそうに笑う。大人っぽくきれいな顔立ちから、幼い子どものように笑う青年に、プラリネはむず痒い気持ちになる。

    「(俳優さんやアイドルにキャーキャーしてる子達って、こういう気持ちなのかしら)」

    頭をなでたい衝動をぐっと抑えて、青年の前に自分用の椅子を置いてプラリネも座った。彼と同じサイズの椅子はプラリネはやや大きく、足が地につかずプラプラと揺れてしまう。

    「ッ……!」
    「え、大丈夫?むせたかしら?」
    「……だいじょうぶです」

    ハンカチを差し出すと、青年はそれを拒否し、一度咳払いをして、恥ずかしさを誤魔化すためか話題を変えてきた。

    「そ、そういえば、こないだのお菓子、すごく美味しかったです。俺はプリンを食べたんですけど、それも濃厚で……えと、職場の上司たちも美味しいと好評でした……」
    「まぁ!」

    そんな嬉しいことを言われて思わず声が大きくなってしまう。しまった!と思い熱くなり緩む頬を隠しながら、プラリネはお礼を告げる

    「そう言ってもらえて嬉しいわ。最近ここでお店を開けたけれど、お客様に気に入ってもらえなかったらどうしようって不安に思っていたの。ありがとうございます」
    「い、いえ、その、プラリネさんのお菓子は本当に美味しいので、すぐにお客さんがつくと思いますよ」
    「ふふ、優しいのね。みんなに美味しいって言ってもらえるように頑張ります。もしかして今日もその職場へのお土産かしら?」

    嬉しさのあまりについつい早口になってしまうプラリネからの問いに、目の前の青年は少しモゴモゴと口を動かして、小さく「い、いいえ」と答えた。

    「えと、また貴女のお菓子が食べたくて……その、じ、じぶんように買いに来ました…!」
    「嬉しいわ。それでわざわざこんな暑い日に来てくれるなんて、甘いものがお好きなのね。」

    笑顔でそう問うプラリネに、目の前の青年はほんの少ししょんぼりして「……はい」と答えたが、その表情にプラリネは気が付かずに、おすすめのお菓子を案内する。
    それらの説明を聞いて、青年はうーんとまた悩みだし、重々しく口を開いた。

    「ぷ、プラリネさんは、その、どれが一番おすすめですか……」
    「え?」

    真剣な表情で聞いてくる青年に、次はプラリネ自身がうーんと悩む。

    「やっぱり、ケーキかしら。季節のフルーツも使っているし、日持ちはしないけれど自分のご褒美用と考えたら特別感もありますから」
    「じ、じゃあ、ショーケースにあるケーキを一つずつ下さい!」
    「え?そんなに??」
    「ぜ、全部食べてみたいので!」

    勇ましくもそう告げる青年に、「そんなに甘いものが好きなのか」とびっくりしつつも、お持ち帰りの準備をするためにプラリネはカウンターへと戻る。
    せっせと箱を用意して、ケーキをトレイにそぉ〜っと移して、確認してもらって……とプラリネが作業している間、青年はジッとプラリネを見ていることに気がついたが、その表情は子どもがケーキを買っていくときのキラキラとした表情だったため、思わずくすりと笑ってしまう

    「あ、え?」
    「…失礼しました。それではこちらがケーキとなります。保冷剤も入っておりますので、1時間ほどは持つと思いますがお早めにお召しがりください」

    そう言ってケーキの入ったきれいな箱をそっと手渡す。青年は嬉しそうにはにかんでお礼を言ってきた。

    「ありがとうございます」
    「こちらこそ、またいらしてくだ…」
    「カブリ、です…」
    「え?」

    お礼を言おうとしたら、相手の言葉と重なる。はて?と思って顔を上げると、耳まで赤くなった青年がもう一度言った。

    「俺、カブリって言います。ま、また来ますから!」
    「………はい、またいらしてください。カブリさん」

    そう言って青年、カブリはペコリとお辞儀をして駆け足で飛び出していったのを、プラリネは微笑ましく見送った。
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