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    UsaUsa_mitumaki

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    パパボスの味と欣怡がコンビニ飯を愛するきっかけになったあれそれの話

    イカれた奴に情なんて意味がないコトコトと鍋の中でスープが踊り、ジュージューとフライパンの中では油とひき肉の合唱が聞こえる。そんな音楽が聞こえるキッチンに、料理をする40代ほどの女とその周りをウロウロする幼い子どもが、暖かな夕日に照らされていた。
    「ね、ね、鈴玉(リンユー)、まだ?」
    「まだですよ、欣怡お嬢様。もう少しお待ちください」
    「待ちきれないわ。だって鈴玉の手作りハンバーグなんだもの」
    少し興奮した様子で無邪気に笑う欣怡に、鈴玉と呼ばれた女は困ったように笑う。学校から持ち帰ってきた本を見せながら、「ハンバーグって手作りできるのね!私、鈴玉のハンバーグ食べたい!」と言われたときは驚いたものだ。そんな大したものではないとは伝えたはずなのに、目の前の子どもは随分と嬉しそうに鼻歌を歌ってる。
    「それに今日はパパも黒翅おじ様も帰ってくるんだもの。すごく楽しみ!」
    「たしかに久々ですものね。ボスもひと仕事終わったのでしょうか」
    「ふふっパパも忙しいものね!今日はなんのお話してくれるのかしら!人体の神秘?爆弾の作り方かしら!それとも……」
    「アイツ、ろくな事を話してないな……」
    楽しそうに語る欣怡の言葉を遮るように、するりと白銀の髪を揺らした女(実際は男でもあるらしいが)がキッチンに入ってくる。最近、ボスが「捕まえた」と言って連れてきた彼女は、やれやれといった様子でため息をついた。赤い瞳と目が合い一瞬心臓が跳ねる。
    「ボスに対しての口がなっていませんよ、空燕」
    「相変わらず真面目だな小娘」
    「鈴玉よ、空燕」
    「知ってるよおチビ」
    「チビじゃないわ」
    頬をぷくっとふくらませる欣怡に、はいはいと適当に返事をする空燕。彼女が来てからいつもやるそのやり取りだ。だからなんてことはない。いつも通りだ。
    「空燕。せっかくだからお風呂の用意をおねがいします」
    「雑事を我に任せるとは……」
    「あなたが何者であろうと、雑事は新参者の仕事です」
    「空燕のしんざんものー。パパに言っちゃうよー」
    「やかましい。それだけはやめろ」
    はぁやれやれといった様子で、空燕はキッチンから離れる。その後ろを「こないだのお水の魔法みせて〜」と欣怡がついていき、キッチンには鈴玉一人となる。
    「(大丈夫、大丈夫よ。いつものこと。誰にもバレてない)」
    見透かすような空燕の赤い瞳に驚いただけだ。表情には出ていない。彼女は意外と脳天気な人だ。これから鈴玉がやることに気づきもしないだろう。
    「(そう、いつも通りよ。完璧にやってみせる)」
    そう心の中で言って聞かせて、鈴玉は早鐘を打つ心臓をなだめるのだ。

    彼らが帰ってきたのはそれから1時間ほど経ってからだった。屋敷の前に黒い車が止まり、開いたドアから男が出てくる。
    「パパ!おかえりなさい!」
    玄関で父親を待っていた欣怡は、車の音が聞こえるとパタパタと駆け出し、父親である俊熙の足元に抱きつく。俊熙はいつもの穏やかな表情で、欣怡の頭を優しくなでた。
    「ただいま欣怡。いい子にしてたかい?」
    「うん!」
    そういって欣怡を抱き上げる様はまさにやさしい父親という感じである。彼がマフィアのボスであっても、人なのだと思わされる。
    「ボス、おかえりなさいませ」
    「ただいま。いつもご苦労様」
    やさしく笑い、一介の部下にも丁寧な労いの言葉を伝えてくる俊熙。欣怡を抱き上げたまま、屋敷に戻る俊熙を見送り、車のドアを閉める前に運転席の方から声をかけられる。
    「鈴玉、お疲れ様です。僕は車を置いてきます。しばらく俊熙を頼みます」
    「黒翅様お疲れ様です。承知しました」
    ドアを閉めれば、ゆっくりと車が動き出す。一礼をした後に、すぐさま屋敷に足を運び、玄関の鍵を閉め、チェーンロックをかける。これで時間を稼げるだろう。
    やさしく香る料理の匂い。「鈴玉、お食事運び終わったわ!食べてもいい?」とキッチンに繋がってる応接間から顔を出して笑う幼子を見て、小さく深呼吸をして笑顔を作る。
    「えぇ、もちろんです、欣怡お嬢様」
    応接間では、あの親子が向き合って食事をしているのだろう。何から手を付けるだろうか。おそらく彼女はスープを飲んでから、リクエストしていたハンバーグから手を付けるだろう。
    鈴玉はキッチンで2つのコップにお茶を注ぎ、お盆に乗せ、応接間に行く。手前に欣怡、奥側に俊熙がいる。楽しげな声が部屋に響いているが、ふと欣怡の目から赤い液体が流れ出る。
    「あれ……?………けほッゴホッ……?ッ!!!?!?」
    欣怡は目を擦り、手を見る。次の瞬間には咳とともに大量の血を吐き出した。それを合図に、鈴玉は俊熙と距離を詰める
    「(愛娘が目の前で死にかけたら、お前のようなやつでも動揺くらいするだろ!)」
    俊熙が動揺している隙に鈴玉は懐に隠したナイフを振り下ろす。……振り下ろそうとした。
    「へぇ……これ、キミがやったんだ?」
    目の前の男が楽しげに笑ってこちらを見ていることに気づくまでは…。その表情に思わず鈴玉の手がビクンッと一瞬硬直する。その瞬間に鈴玉の腹に、足蹴りが命中し身体が飛ぶ。料理がガチャンと音をたてて目の前に落ちてきたのを見て、蹴られた事を理解する。そして欣怡が同じ視点で倒れてるのも見えた。しかし、すぐに顎を蹴られ欣怡の表情まで見えなかった。
    「いやぁ、最近妙にキミから熱烈に見られてるなぁと思ってたから、何かされるかなとは思ったけど。俺自身に毒を盛らないなんて……。まさか、欣怡に恨みでもあった?」
    例えば恋愛的な嫉妬とか?と楽しげに話す俊熙に、腹の底がぐっと熱くなる
    「ちがうッ!誰が…誰がお前なんかに!!夫を見殺しにしたくせに!!!!」
    そう叫ぶと、すぐに男はつまらなそうにため息をついた。
    「なんだ、そんなことか。親の恨みは子に報いてもらうって感じ?欣怡のこと、大切に見てた割には、非情だねぇ」
    そういって視界がぐるぐるして動けない鈴玉の利き腕を何度も踏みつけ、バキッと鈍い音が聞こえる。息ができないほどの強烈な痛みが襲ってくる。そんな鈴玉を無視して、俊熙は蛇鬼でもするかのように、バランスを取りながら、ゆっくりと身体の上を歩いてくる。
    「ちッがう!お前の油断を、誘うためにッ!!それじゃなきゃ、あの子を、子どもを狙うはずがッ!」
    「でも実際はあそこで苦しそうに血を吐いてるよ?」
    ほら、と俊熙が視線を向ければテーブルと椅子の隙間で、真っ青な顔をして喉を抑えた欣怡がそこに居て。思わずヒュッと息をのむ。指先が冷えていく。そもそも、なぜこの男は、自分の子どもがあんなに苦しんでるのに、こんなに楽しそうなのだろうか。すぐに駆け寄らないのだろうか。
    「ッッの、鬼がッ!ひとでなしッ!!」
    「ははっ今更?あぁ、でも俺の分身に手を出したんだから、それ相応な対応しなくちゃなぁ?」
    何にしようかなぁ〜、なんて鼻歌を歌いながら考える俊熙。するとバタバタと足音が聞こえドアを乱暴に開けられた
    「俊熙ッ!だいじょうぶ…お嬢!!?!?」
    青い顔をして欣怡を抱きかかえながら、すぐに医者に電話をする黒翅を見ながら、あぁ、なんだもう来たのか。とつまらなそうに呟く俊熙。足元に転がっている鈴玉の髪を引っ張り、引きずりながら欣怡と黒翅の横を通り過ぎる。
    「じゃ、黒翅後片付けは任せた〜」
    「なッ貴方ねぇ……心配じゃないんですか…」
    「……はぁ、全くどいつもこいつも」
    呆れた様子で黒翅の腕の中で浅く息をする欣怡を見る。鈴玉の髪を掴んでない方の手で、欣怡を優しくなでた。
    「欣怡、平気だな?」
    優しいけれど、有無を言わせない声。子に言うセリフではなく、命令だった。しかし欣怡は意識が薄れながらも、小さく笑い、コクリと頷いた。それを満足気に見つめ「いい子だ」と頭を撫でる。あまりにも歪んでいると、そう考えながら鈴玉の意識は闇へと沈んでいった。
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