追凌になるはずだったもの10年後の世界、金凌は蘭陵内で起きた怪異の確認する為に子弟と共に向かう。だがその手前の町で怪異が退治されたと聞いて眉を顰める。何処の仙師だと問うより先に現れたのは、思追だった。数年前に遊学の許可を得て諸国を巡っている思追と会うのは久しぶりのことだった。
景儀達が心配していたぞ、と強引に誘った食事の席で言えば、仄かに微笑んで、そう、と呟く。穏やかな笑顔は変わらないはずなのに何処か遠い存在に感じて金凌は苛立った。知らない相手と話しているようで不愉快だった。そろそろ気は済んだのかと問うが、未だだと返される。いつになれば戻るのかと問うても、分からないと返される。何が目的なのだと問い詰めれば、やがて途方に暮れたような顔で、それが分からなくなってしまったのだと思追は答えた。
手を離せばすぐに何処かに消えてしまいそうだった思追を掴んだまま金凌は金麟台に戻った。豪奢な己の自室の隣の部屋を突貫で空けさせて最低限必要なものを突っ込み、思追もそこへ突っ込んだ。暫くここに居ろ、ふらふらしていても見つからないならここにとどまって考えていても同じだろうと睨んだ。
それもそうかもしれないね、と微笑んだ思追の笑みはどこか諦めを感じさせた。朝と夜は共に食事を取ることを約束させ、言質を取り、金凌は自らの仕事に戻った。
思追は呆けている様子もなく、街に降りては人助けをし、怪異を退け、微笑んだまま無償で働き続けていた。約束通り朝と夜は金凌と食事を取ったが、あまり重ならない視線に金凌はさらに苛立ちを募らせていった。
続かない