Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    newredwine

    忘羨と曦澄の戯言です

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    newredwine

    ☆quiet follow

    リハビリの一環。続かせたい。

    #曦澄

    【仮題】夜の世界の話①【現代AU曦澄】この間妙な奴に声を掛けられた。その一言に足を止めた江澄は咥えていた棒付きの飴を口から出した。通りすがりの繁華街の裏通りだ、そこで屯しているのは休憩中の夜の蝶か営業用の笑顔を消した黒服くらいのものだ。視線を向ければ知らぬ仲ではない女達と目が合って、その中の一人の口が、あ、と形作った。
    「狂犬だ」
    「その名前で呼ぶなっつってんだろ」
    よその奴らが言い出しただけだ、と吐き捨てて歩み寄る。ごめんねと笑う女達に悪びれるところはない。仕事でなければ表裏の少ない彼女達を江澄も嫌いではなく、だからこそ先程の言葉が気になって眉を寄せた。
    「何だよ、また変な男に付き纏われてるのか」
    「違うよ、ストーカーじゃないって。カッコよかったしお金も持ってそうなのに、変なこと聞いてきたんだよね」
    ジャケットはキルガーでお洒落で似合ってたし、口調も優しかったし、と指折り数えて教えてくれる彼女に顎をしゃくって先を促せば、少し視線を上に逸らして小さく唸った。
    「ええと、確か、最近お困りのことはありませんか、だったかな」
    「宗教勧誘か?」
    「えー、多分違うー、だってトリーバーチの新作がどうしても欲しくて困ってるって言ったら、お客さんにこんなふうに強請るといいですよって教えてくれたし」
    「何だそれ」
    「そしたらほんとに買ってもらえたのー!すごくない?」
    「そりゃ凄いな。で?」
    「それだけ」
    妙なヤツでしょ。顔全体で笑う彼女と、私もそのテク使いたいと笑う周囲の女達に嘆息して、江澄は飴を咥え直した。
    「害がなくて良かったけど、次会っても無視しろよ。余計なことに巻き込まれる可能性があるからな」
    「えー、優しいー」
    「はいはい」
    「好きになっちゃうかもー」
    「そりゃありがたいな。そのリップサービスを駆使してせいぜい身持ち固く男共を翻弄して店に金落としてもらえよ」
    そう告げて歩き出す。お店にもまた顔出してねぇと追いかけてくる声にひらひらと手を振って、江澄はまたぼんやりと表通りから漏れてくるネオンの明かりを眺めた。
    表通りに戻れば車のライトが波のように行き交い、夜の街に繰り出そうとする人々も入り乱れている。居酒屋の呼び込みのバイト達は気安く挨拶を投げかけてくるし、酔っ払いの笑い声があちらこちらから聞こえてくる。
    この賑やかで猥雑な街が江澄の全てを形作った。美しいものも醜いものも全てが詰まったこの街は、今夜も誰のものにもならないまま全ての人を受け入れている。
    だから、江澄はこの街を愛しているのだ。


    江澄が夜の街を庭代わりにして遊び始めたのは義務教育を終える前からだった。両親が夜の街で仕事をしている関係もあって、そこで遊ぶことも、同学年の子供たちよりも早く大人の世界を垣間見ることも多くあった。
    人の出入りも入れ替わりも珍しくはないその世界で、まだ子供である江澄の存在は珍しかったのだろう。男であれ女であれ、揶揄い半分に可愛がられていたように記憶している。ーーその当時に可愛がってくれていた人達の殆どはこの街には残っていない。昼間の仕事を見つけたものもいれば、死んだものもいる。遠く離れた街に移ったものもいる。大抵のものは別れも言わずに消えていった。だから生きているか死んでいるかも分からない。
    それを寂しいと感じることはなかった。それが江澄にとっての『普通』だったからだ。
    ……家族以外で唯一江澄の傍にいたのは、魏無羨という少年だった。父親同士が仕事仲間である関係で二人は家に帰るまで一緒に待たされることが多かった。反発もしたし喧嘩もしたが、暫くすれば二人で悪戯をしたり遊んだり宿題をしたり、そんな他の子供たちと同じような付き合いをするようになっていった。
    義務教育を終え、両親からの厳命で高校に通うことになった江澄は、じゃあ俺も付き合うよと笑って同じ高校に進学した魏無羨とまた行動を共にした。昼は学校で他の生徒とも笑い合い、夜にはネオンの煌めく街中を二人で歩いて遊んだ。補導されかけたことも少なくはないが、そんな奴らに捕まるほど愚かではない。呑まれるんじゃないぞと苦言を呈す顔馴染みの店主の店の隅でほどほどに酒を嗜み、煙草は背が伸びないぞと笑うヘビースモーカーの黒服達から一本恵んでもらって煙を吐き、タダで遊んであげるわよと艶かしく誘ってくる女達のしっとりした指先を躱して、江澄と魏無羨は思春期を過ごした。耳年増でそれなりの経験を積んではいたものの、それでも二人は同級生達と何ら変わらない、至って普通の少年だった。


    あの日までは。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👍👍👍👍👍👍💯💯💯💯💖😍❤💘☺👏🙏💖👏👏👏👏☺☺☺☺👏🙏😍🙏👏🍭🙏👏🙏🙏💖💖💖💖💖💖🙏☺💒😍😍😍🙏📈🅰📈ℹ❣🗼
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    newredwine

    REHABILI
    味覚を失った江澄が藍曦臣とリハビリする話(予定)②辿り着いた先は程々に栄えている様子の店構えで、藍曦臣の後について足を踏み入れた江澄は宿の主人に二階部分の人払いと口止めを命じた。階下は地元の者や商いで訪れた者が多いようで賑わっている。彼らの盛り上がりに水を刺さぬよう、せいぜい飲ませて正当な対価を得ろ、と口端を上げれば、宿の主人もからりと笑って心得たと頷いた。二家の師弟達にもそれぞれの部屋を用意し、酒や肴を並べ、一番奥の角の部屋を藍曦臣と江澄の為に素早く整え、深く一礼する。
    「御用がありましたらお声掛けください、それまでは控えさせていただきます」
    それだけ口にして戸を閉めた主人に、藍曦臣が微笑んだ。
    「物分かりの良い主人だね」
    江澄の吐いた血で汚れた衣を脱ぎ、常よりは軽装を纏っている藍曦臣が見慣れなくて、江澄は視線を逸らせた。卓に並んだ酒と肴は江澄にとって見慣れたものが多かったが、もとより藍氏の滞在を知らされていたからか、そのうちのいくつかは青菜を塩で炒めただけのものやあっさりと煮ただけの野菜が並べられていた。茶の瓶は素朴ではあるが手入れがされていて、配慮も行き届いている。確かに良い店だなと鼻を鳴らしながら江澄が卓の前に座ろうとすると、何故か藍曦臣にそれを制された。
    2924

    related works

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    recommended works