カフェタイム貧乏大学生のオルガ・イツカはバイトを探している。
先日まで働いていた洋食屋が閉店する事が決まったからだ。
人気もある良い店だったが、店主夫妻が高齢の為引退を決めたのだ。
閉店が急に決まったのでオルガは急いで次のバイト先を探さなくてはならなかった。
ゼミで仲の良い友人たちに探していると話していると、会話をを耳にしたチャラついた同級生が話しかけてきた。
「なぁ、オルガ。バイト探してんなら俺がバイトしてる店で働かないか?」
普段関わりのない同級生に話しかけれ、警戒しながらオルガは答えた。
「働いてる店ってどんな店だよ?」
「ホストクラブだよ。ホ・ス・ト。オルガって顔もスタイルもすげぇいいじゃん?ぜってぇ向いてると思うんだよねぇ~。どう?絶対稼げるぜ!」
同級生はオルガの肩を掴み、稼ぎが良くて美味しい思いができるとグダグダと喋り続けた。
上手くいけば高額の時給、客の女性たちからの高額なプレゼントなど、働く事で得られるメリットを並べ立てられてもオルガは全く魅力的感じなかった。
「堅物のオルガがそんなバイトするかよ。どけ!」
オルガがうんざりしていると高校時代からの仲であるユージンが割って入ってきた。
「なぁオルガ、俺のバイト先で一緒に働こうぜ」
「お前のバイト先ってどこだよ」
「ふっふっふ、俺の働いてんのはコーヒーショップだよ」
「……へー、そうなんだ。お前そんな洒落た所でバイトしてたんだな。誘ってくれてわりぃが俺には向いてねぇよ」
水商売と比べれば悪くないバイト先と思ったが、店自体がお洒落で有名だったので自分には合わないとオルガは断った。
「いや、むしろ逆だろ。お前絶対に俺より向いてるから」
「そうか?そもそもユージンはなんでそんな所でバイトしてんだよ」
「へ、あぁ……まぁ、コーヒーショップの店員ってモテるって聞いたらバイトしてる」
少し恥ずかしそうにしがらも正直に理由を答えるユージン。
オルガは大学に入学して以来、ユージンに彼女が居た事のない知っている、が念のために聞いてみた。
「……ほぉ~、でモテてたのか?」
「聞くなよ!でもまぁ、給料いいし、最近人が辞めて困ってんだよぉ~っな?」
「ユージンがそこまで言うなら俺も働いてみるか」
こうしてオルガはユージンの働くコーヒーショップで一緒に働くことになった。
◇
会話や注文をする声、コーヒーを淹れる音、心地よい洋楽。
三日月がコーヒーショップの扉を開けて店内に入ると程よい雑音に包まれた。
店内に入ると同時に恋人であるオルガの姿を探す。
カウンターに何人ものスタッフが働いていてもスラリとした長身のオルガは目立つ。
笑顔で接客しながらコーヒーを淹れる姿に惚れ惚れする。
オルガの働く姿を眺めて居ると、気が付いたオルガ微笑みを返してくれた。
言葉を交わさなくてもお互いが通じ合う瞬間がたまらなく好きだと三日月はいつも思う。
三日月が注文カウンターへ近づくと元々接客していたスタッフから代わり、オルガが迎えてくれた。
「お疲れ様、オルガ。今日も忙しそうだね」
「まぁ日曜だからな。悪いな、もう少しで上がれるからコーヒーでも飲んで待っててくれ」
「うん、わかった。俺こっちのドーナッツも食べたいから、それに合うコーヒ淹れてよ」
「そのドーナッツ結構甘いぜ。一緒に飲むならさっぱりとしたコールドブリューでどうだ?」
「よく分かんいけど、オルガが勧めてくれるならそれで」
「コールドブリューってのは水出しのアイスコーヒだよ。さっぱりして甘いのに合うんだ」
「なんかすっかりコーヒーに詳しくなったね」
「まぁ、仕事だからな。用意するからあっちのカウンターで待っててくれ」
「うん。ありがとう」
三日月が受け取りカウンターで待っているとユージンがアイスコーヒとドーナッツを用意しながら話開けてきた。
「よぉ三日月。お前俺が誘っても全然店に来なかったのに、オルガが居ればしょっちゅう来るんだな」
「別にユージンのバイト先には興味無いから」
「そういう奴だよなお前は!で?この後飯でも行くのか?俺ももうすぐ終わっけど」
三日月は強い瞳でユージンを見つめた。
言葉で表さなくても見つめられるだけで三日月の考えが伝わってきた。
『これからオルガとデートだから邪魔しないで!』
ユージンはやれやれと三日月に向けて手を降った。
「はーお前らはいつでもイッチャイチャだな。そうだと思ったよ。言っただけだ」
ユージンはトレーに温め終わったドーナッツをオーブンから取り出しトレーに乗せた。
差し出したトレーを受け取った三日月はカウンターからサッとが離れ、カウンターがよく見える席を選んで座った。
接客するオルガを眺めながらアイスコーヒー飲みドーナッツを食べる。
オルガ勧めてくれた通り、さっぱりとした水出しコーヒーは甘いドーナッツによく合った。
三日月は幸せな気持ちでオルガのシフトが終わるのを待っていたが、段々とイライラモヤモヤしてきた。
なんかオルガ、声かけられすぎじゃない?
オルガが注文カウンターに立つと男性客に長々と話しかけれていた。
注文や商品に関して説明を求めているのではなく、ナンパほど露骨ではないが明らかにオルガの気を引きたい、狙っているとう雰囲気だ。
チャラ付いたお若い男に馴れ馴れしく話しかけられたり、スーツを着た身なりの良い男が名刺を渡していた。
オルガ本人は特に相手していないようだが恋人が露骨な誘いを受けているのを目撃するのは気分が悪かった。
悶々としているとシフトが終わったオルガが三日月の元へやってきた。
「悪いミカ。待たせたな」
「大丈夫。そんなに待って無いよ」
「なんかあったか?」
「……別に」
「なんだよ。言えよ」
オルガが優しく三日月を見つめる。
自分へだけに向けてくれるオルガの優しさに三日月は弱い。
腹の底で渦巻いていたモヤモヤとイライラが引いていく。
「大丈夫、ほんと何でも無いから」
イラ立ちが落ち着いた三日月が店を出ようとオルガに言おうとした時、見知らぬ人物から声をかけてきた。
「あれ、シフト終わったの?お疲れ様」
三日月がイラッとして振り返ると、先程オルガに声をかけていたスーツの男がニコニコと立っていた。
「えぇ……今、終わったところです」
社交性がお仕事モードのオルガが、愛想よく答える。
シフト終わってプライベートなんだからガン無視でいいのに。
三日月は腹の中で毒づいた。
治まっていたイライラが腹の底から湧き上がってくる。
「これからご飯でも行くの?良かったら一緒に行かない?何でもご馳走するよ」
「いえ、大丈夫です。約束してるんで」
「友達も一緒で大丈夫だよ。どうかな?美味しいお店知ってるんだ。どうかな?」
スーツの男はしつこかった。
オルガは穏便に断ろうとしているがスーツの男は引き下がらない。
イライラが頂点に達した三日月が口を開いた。
「……俺たち友達じゃないんで」
「っえ?」
急に話しかけられ驚くスーツの男に冷たく言い放った。
そして三日月はオルガの肩を引き寄せてると頬にちゅっと優しくキスをした。
「なッ、ミカ……!」
オルガは三日月の予想外の行動に驚いた。
頬にキスされた事が嬉しくて頬を赤らめたが、今いる場所が公共の場所だと表情を引締めた。邪魔を追い払うために頬にキスをする三日月の行動が嬉しくて、オルガはドキドキが止まらなかった。
今まで店内はざわめきながらも、三者のやり取りを見守っていたが一気に沈黙が支配した、
三日月はスーツの男を強く見た。
「俺たちこれからデートだから邪魔しないで」
そしてオルガを手をギュッと握った。
「行こう、オルガ」
三日月は微笑みを向け、オルガの手を引き店を後にした。
二人が過ぎ去った後、店内にざわめきが戻っる。
全てに取り残されたスーツの男だけが時が止まったように立ちすんでいた。
カウンターの中で一連の流れを見ていたスタッフ達はいつもクールに仕事をこなすオルガの意外な一面に衝撃の受けていた。
一人のスタッフが意を決して訪ねた。
「ねぇ、ユージン君。あれって……」
「あいつらあれが通常運転なんで。気にする事ないっす」
二人の無自覚なイチャつきに慣れているユージンは素知らぬ顔で仕事を続けた。
スーツの男が追って来ないとわかっていても、三日月は早く店から離れたかった。
必然的に歩調が早くなる。
「ちょ、ちょっと待てって……ミカ」
オルガの言葉を無視して三日月は変わらず足を進める。
「ったく、次にバイト行くときどんな顔したらいんだか……」
「オルガ嫌だった?」
ピタっと立ち止まり振り返った三日月。
振り返るとうるると瞳を揺らしオルガを見つめた。
見つめられる事に弱いオルガはっう、となり直ぐに全てを許してしまう。
「嫌じゃねぇけど……ああいうのは人前でするもんじゃねぇよ
「わかった。次は二人っきりの時にする。でもさオルガが他の男に声かけられるは嫌だったんだ」
「ミカ……、俺が悪いな」
「オルガ?」
「俺にはミカが居るのに、他の男にスキを見せるのは不誠実だ。これからは注意するよ」
「ありがとう、オルガ」
二人はギュッと手をつなぐと並んで帰路へ着いた。