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    いなほのほ

    @hokahoka_inaho

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    主な生産は🍱⚖️、気まぐれでほか色々。
    大体いつでも気は狂ってる。

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    いなほのほ

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    雨で帰れなくてやむを得ずお泊まりしたあとの、なんでもない朝食のはなし
    そして当たり前のように🍱⚖️
    なお筆者の性癖に則って付き合ってません。

    #ヤスリカ
    ##ヤスリカ

    朝日和の鍋炊きごはん日が登り始める頃に、ふと意識が浮上した。起きたというにはまだ遠く、リカオは碌に目も開けられぬまま枕に顔を擦り付ける。
    窓から季節にそぐわぬほど澄んだ風が吹き込んで、リカオの髪をそよりと混ぜた。昨日の酷い雨は、もう遠くへと去っていったらしい。

    そのまま再び夢の中へ沈みかけたリカオの耳を、囁きとハミングが入り混じるようなやさしい歌声が掠めて、そっと引き留める。

    「…ん……、」

    閉じた瞼の向こう側から流れる慣れ親しんだその音階は、これから目覚めていく街並みに相応しい。無意識に音の方へ目を向ければ、まだぼやけた世界の中で窓辺に佇む影があった。彼の口からちいさく紡がれる歌は、とても優しく心地よく部屋のなかを満たしていく。
    起き抜けの掠れた声でハミングを重ねたら、すぐにぴたりと歌声が止んだ。

    「…ぅ?」

    止めたいわけではなかったのにと眉根を少し寄せたら、それと同時に曙光の空と同じ、夜明け色の瞳が跳ねるようにこちらを向いた。

    「わり、起こしたか?」
    「ん…べつに、かまわない…です。おまえは…眠れなかったのか?」
    「ただの習慣。いつも仕込み手伝ってるからな」
    「そうか…。えらいんだな……です…。」

    ぽそぽそと返事を返せば、何が面白いのかヤスが笑う。

    「眠いならまだ寝てろよ、適当に時間潰すし」
    「ん…? ん…いや、もう起きる…です。」

    充分寝たから、そう呟いて布団のなかで伸びていると、ヤスがあぁそうだと口を開く。

    「キッチン、勝手に借りてるけど大丈夫だよな?」
    「ああ。問題ない…が……。」
    「…ない、が?」
    「いや…お前は客なのに家主の俺がこれでは申し訳ないと、そう思っただけだ…です。」
    「別に。俺がしたくて勝手にやってるだけだし…そもそも世話んなってるのはこっちだし。…だから…えっと、…おたがいさま、ってことで」

    照れたようにそっぽ向いて、彼は逃げるように調理台の前へ移動した。追いかけようと布団から出たところで思い直し、リカオは洗面所へと行き先を変えた。


    最低限の身支度だけ整えて戻ってくると、コンロの上には鍋とフライパン。張られた湯に顆粒だしが入れられて、するすると溶けていく。その横ではフライパンの蓋がしきりに揺れていた。

    「…何を作っているんだ?…です。」
    「味噌汁。こっちは米炊いてる」
    「米? フライパンで炊けるのか……です。」

    純粋に感心したリカオは、衝動的に腕を伸ばす。…けれど即座に手首を捕まえられて、結局その指が蓋へ触れることはなかった。

    「フタ開けんな」

    真顔のヤスが、一切の温度を感じさせない声で言う。調理中に手を出そうとしたのが悪いと素直に反省し、リカオは真剣な顔で頷いた。

    「……分かった。すまない…です。」
    「ん」

    掴まれていた手がパッと離され、自由になった腕をそのまま引っ込める。その間も相変わらずコフコフ蒸気を吐きながら蓋が震えていた。

    「何か、手伝えることはあるか?俺だけ何もしないのも落ち着かない…です。」
    「手伝いか…、ん〜〜……?…今のとこ特にねえな」
    「そうか……です。」
    「あっ。いや、ある、あった。わかめ取ってくれ、…場所分かんねえ」
    「…! 今出すから待ってくれ。」

    気を遣ってくれたのだろうなと思いながら頷く。いそいそと取り出した乾燥わかめを差し出せば、振り向いたヤスの頬が緩んだ。

    「ありがとな」
    「あぁ。何かあれば言ってくれ…です。」
    「分かった。……っふ…」
    「? 何かおかしかったか?…です。」
    「いや悪い、なんでもねえよ」

    なんでもない、とくつくつ笑いながら繰り返す。その視線を辿っていくと、ゆらゆらと揺れるリカオの尻尾があった。すぐにピンと真下へ伸ばしてみるが、それも見られていたらしく再度くすりと笑う声がした。

    「わ、笑うな…です!」
    「ごめん、悪かった。なんか面白くて……」
    「いや…怒っているわけじゃない…です。…は、恥ずかしいだけだ…です…。」
    「…そっか。」

    フライパンの火を強めたヤスが、切り替えるようにわかめの袋を軽く振る。

    「どうする?」
    「多めがいい…です。」
    「ん、了解」

    ざかっと鍋へ放り込まれたわかめは、緩く沸き立つだし汁のなかで踊りながらふやけていく。半分ほど戻ったところで鍋とフライパン両方の火が止められる。

    「…うん、これでよし」
    「……もう炊けたのか?…です。」
    「まだ生煮え。こっから10分くらいらさねえといけねえから…蓋、触んなよ」
    「う……承知した…です。」

    懲りずに伸ばしかけた手を再度引っ込めながら、リカオはまたしても真剣な顔で頷いた。
    満足げに口角を上げ頷き返したヤスは、フライパンをそっと鍋敷きの上へ移動させた。スマホでタイマーをかけると、何やらシンク下を覗き込みはじめた。

    「何か探しているのか?…です。」
    「あ、いや…もう一個フライパンねえかなって」
    「フライパンはそれしか無いぞ…です。」
    「おぁ…そうか…。なんかおかずでもと思ったんだけど…ぇなら仕方ねえよな」

    それじゃ代わりに、とヤスは続ける。

    「冷蔵庫のきゅうり、貰っていいか? 最後の一本」
    「あぁ。勿論構わない。お前の好きに使ってくれ…です」
    「ん。じゃあ遠慮なく使わせてもらうぜ」

    トトトトトン、トトトトトン。
    ヤスが規則正しいリズムで包丁を動かすと、きゅうりはあっという間に形を変えた。それを保存用のポリ袋へ突っ込むと、顆粒だしを匙7割程度と、3本指で塩ひとつまみ、醤油を2滴。
    他人の家のキッチンなのに、ヤスの動きはまるで早送りのようだ。軽く空気を抜いて口を縛った袋が、揉んどいてくれと手渡される。

    「……手慣れているんだな…。」
    「そうか? それなりだと思うけど、普段の仕込みのおかげかもな。…母ちゃんはもっと早え」

    道具の片付けを始めたヤスの隣で、もみもみと調味料を馴染ませながら口を開く。

    「ここまで出来るなら充分すごい事だろう。……俺には到底出来そうにない…です。」

    リカオは自分が包丁を握る所を想像して首を振った。ヤスのように素早く同じ厚さに切れるようになるのは、果たして何年先になるだろう。

    「あーー…あんたこういうの苦手そうだもんな」
    「厚さを揃えるくらいは出来るはずだが…。」
    「早さが伴わねえんだろ、なんか想像つく」
    「だろう?…です。」
    「だな」

    不名誉ではあるけれど、実際リカオもそう思うので仕方ない。ふたりは顔を見合わせて小さく笑いあった。

    「食器、出してもらって良いか? 茶碗と、汁椀と…あとそれ入れるやつ」
    「わかった…です。終わったら机を拭いてくるから、何かあれば声をかけてくれ。」
    「ん、了解」



    ピピピ、ピピピ——

    「お」
    「炊けた…のか?」
    「今度こそな」

    丁度机も拭き終わって配膳の準備が整ったところだ。いいタイミングだなとヤスが呟いて、鍋を火にかけた。

    「リカオ、杓文字かスプーン貸してくれ」
    「……このスプーンで大丈夫だろうか?…です。」
    「ん、充分。…さんきゅ」

    手渡したスプーンをさっと濡らして、彼がフライパンの蓋を開ける。
    途端に蒸気があふれて、米特有の甘い香りがリカオの鼻孔をくすぐった。

    「おぉ…本当に白米だ…です。」
    「よかった、うまく炊けてそうだ」
    杓文字代わりのスプーンで返すように混ぜると、底面からほのかに色付いたおこげが顔を出す。リカオの腹が、くぅと鳴いた。

    「茶碗、貸してくれ」
    「あぁ…!」
    「あんたはどんくらい食える?」
    「…そのくらい、で大丈夫だ。ありがとう…です。」
    「ん。おかわり、残しとくからな。あんたが食わなかったら俺が食う。…リカオんちの米だけど」
    「好きなだけ食べてもらって構わないぞ…です。頂き物なんだが、俺ひとりでは使い切る前に悪くしそうだからな。」

    鍋が沸いて、ヤスが火を止める。匙の上で少しずつ味噌が溶かされ、ふわりと香る。

    「……ん…?…俺的にはもうちょっとなんだけど、あんたはどう思う?」

    小皿に少量入れて手渡され、リカオも味を見る。

    「……このままでも悪くはないが、もう少し濃くても良い気はする…です。」
    「ん、なら足す。………ん、これでよし。出来たぞ」

    味噌汁で満ちた椀を、こぼさぬように慎重に運べば、配膳が終わり食卓が整った。
    普段リカオしか使わないテーブルだからか、ふたり分の食事が載るだけでなんだか狭く思える。それでも嫌な感じはしなくて、愛おしいようなぬくもりが、ささやかにリカオの胸を満たした。


    「じゃ、食おうぜ」
    「あぁ。」

    「「いただきます。」」

    本日の献立は、ほんのりおこげの炊きたてごはん、きゅうりの浅漬け、わかめの味噌汁…それから生卵。

    「たまごかけはさ、やっぱり炊きたての飯がいちばん美味いんだよな。………うん、美味い」
    「おこげがあるのがまた良いな…です。フライパンでこんな風に炊けるとは思わなかった…。…むっ、浅漬けも美味いぞ。」
    「マジか、…マジだ…。いつもと量がちげえから適当に調味料突っ込んだけど…ちゃんと出来てて良かった」
    「ふぅ……味噌汁も美味しい…です。ほっとする味だ…。」
    「そりゃ良かった。…今度母ちゃんにも何か作ってやろうかな」

    あんたに褒められたらちょっとは自信出てきた、とヤスは頬を掻く。

    「それは良いな。きっと彼女も喜ぶ…です。」
    「だといいな」
    「……ヤス。」
    「ん? なんだ?」
    「作ってくれて、本当にありがとう…です。どれもとても美味い。」
    「おう。……もし次があるんなら、もうちょっと良いもん作ってやるよ」
    「そうか…。…では楽しみにしている…です。」
    「ああ。…あとさ、言い忘れてたんだけど」
    「なんだ?…です。」

    首を傾げて尋ねると、彼はほんのり微笑んで口を開く。

    「おはようリカオ」
    「あ。すっかり忘れていた…です。おはよう、ヤス。」

    早起きの朝に、ふたりの笑い声が小さく響いた。
    きっとそれは、ささやかな幸せのおと。
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    いなほのほ

    DONE🍱⚖️。両片想いだけど倫理観がガチガチで付き合えない話の幻覚。コピペするメモ間違えてるとかいう信じられないミスがあったのであげ直し。
    Q:そんなことある???A:残念ながらありました。
    5回読み返したからもう平気だと思う。平気であってくれ…。
    それは、時間でしか解決できないその日、俺はリカオとカラオケに来ていた。
    リカオの隣に腰掛けたら、こいつは俺を遠ざけるみたいに、俺から離れるみたいに、10cmくらい遠くに座り直した。別にショックだったわけじゃねえけど、あぁまたか…とは思った。

    リカオが好きだ。でもリカオが俺をどう思ってるかは、正直全然分かんねえ。
    俺の気持ちはもう何十回と伝えてきたけど、でもその度にこいつは困った様に『そうか』とだけ言って話を切り上げるから。付き合うとか付き合わないとかの話、めちゃくちゃ避けられてる気がする。
    リカオからしたら俺はまだ子供だし、第一こいつは弁護士だから、そういうの、余計に難しいのかも知んねえけど。
    …それでもたまに、忙しいだろう仕事の合間を縫って弁当買いに来るし、こうやって誘えばカラオケなんかにもついてきてくれるから、俺は今日もこいつを諦められないままでいる。
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