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    いなほのほ

    @hokahoka_inaho

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    主な生産は🍱⚖️、気まぐれでほか色々。
    大体いつでも気は狂ってる。

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    いなほのほ

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    玉子焼きとヤスリカの短め(当社比)のはなし。
    恋したら人生は忙しいのでヤスに修行させました(?) ヤスママが喋るし全部幻覚です。
    リカオの一人称視点、会話文特盛、地の文少なめ。
    むっっっっずってなりながら書いたのであったかい目でよんでください…。

    #ヤスリカ
    ##ヤスリカ

    とっておきの、甘い玉子焼き外出のついでに弁当屋に立ち寄ったら、今日は珍しくヤスのお袋さんがレジに出てきた。

    「こんにちは…です。」
    「あらいらっしゃい、リカオさん」
    「え、リカオ!? ってヤベ…!」

    彼女が俺の名を呼んだ直後、厨房の方からヤスの叫び声と、何か金属と…液体が溢れたような大きな音が響いた。

    「あらあらヤッちゃんたら…」
    「……何か奥が大変そうなんだが…大丈夫なのか?…です。」
    「ええ大丈夫ですよ。…ヤッちゃん、今修行中で」
    「……修行?」
    「あ、うわっ!ちょっ、母ちゃん!!頼む早く来てくれ!」
    「すぐ行くから、少し落ち着いて頑張んなさい!」
    「ほ、本当に大丈夫…なのか?…です。」

    お袋さんは絶叫するヤスの方をチラと見て苦笑する。俺が居るせいでヤスの元に行けないのだろう。彼女はすぐに、ごめんなさいねとこちらへ向きなおした。

    「…リカオさん、今日はウチ、玉子焼きの日なんですよ。良かったらバンドのみなさんへのお土産にどうかしら?」
    「玉子焼き…!ではそれと、弁当とデザートは…もう少しだけ悩んでいても良いだろうか?…です。」
    「えぇ、もちろん」

    焦った声が耳を掠めるたび、思わず身体に力が入ってしまう。どうにか助けてやりたいけれど、俺にどうこうできる問題ではなさそうだ。ならここは、お袋さんが彼の元へ行けるよう促すのが最適解だろうな。

    「俺は大丈夫なので、その…ヤスの方を…。」
    「…お気遣いありがとうございます。決まったら声をかけてくださいね!」

    彼女は俺の意志を汲んで、素早く奥へ下がっていった。

    ……それから程なくして、店先にはお袋さんの代わりにヤスが戻ってくる。その浮かない顔に、俺は堪らず声をかける。

    「大丈夫だったか?…です。」
    「悪いな、うるさかったろ。あと心配かけた。怪我とかはしてねえから平気だ」
    「それは良かった…です。」

    材料無駄にしちまったけど、とヤスは瞼を伏せ、すぐ切り替えるようにぱっと顔を上げた。

    「それで、注文は?」
    「ミックスフライ弁当の普通盛りをスープ付きでひとつと、玉子焼きを3つ。2つは差し入れにするので袋を分けて欲しい…です。」
    「ん。ミックスフライ普通盛りスープ付き1つタ、マゴ焼きが3つ、んで2個は分けるんだな?…あ、デザートは?」
    「…付けてくれ。これはひとつでいい…です。」
    「了解」

    注文を繰り返すヤスの顔が、徐々に普段通りに戻っていく。打ち込まれていくレジの表示を見ながらそっと胸を撫で下ろし、サウンドルをトレーに並べて待つ。

    「じゃ先にこれ、お釣りとレシートな」
    「ありがとう。」
    「……待たせたな、こっちがあんたの弁当で、こっちは差し入れ用のタマゴ焼き」
    「ありがとう。……ん?これは…?」

    ちらりと覗いた袋には、注文通りの弁当、スープ、日替わりのデザートに、いつもの黄色い玉子焼きがひとつと…何故かもうひとつ玉子焼き。こちらにはほんのりと焼き色がついている。

    「それ俺が焼いたやつ」
    「そうなのか…!」
    「でもまだ丸一本じゃ売りもんに出来ねぇし、今日だって…母ちゃんがずっと付きっきりで見てくれたのに。端まで使えそうなの、何本かしかなくて…」

    そう聞いて思わずもう一度袋を覗き込もうとしたら、ヤスが慌てたように言葉を重ねる。

    「で、でもそいつはいちばん綺麗に焼けたし、母ちゃんの墨もついてるから大丈夫なはずだ!」
    「……なるほど。修行と言っていたのは、これのことだったのか…です。」

    俺の言葉に、ヤスがこくりと頷く。

    「………リカオ好きだろ、うちのタマゴ焼き」
    「あぁ。」
    「だから…あんたの感想が聞きたい。……無理にじゃねえけど」

    良かったら貰ってくれ、と彼は頭を掻いた。

    「分かった。あとで感想を送らせてもらう…です。」
    「うん、頼んだ。じゃあまた来いよな、リカオ」
    「あぁ。またな…です。」

    軽く手を振って店をあとにする。
    昼下がりの商店街は、ミューモンでそれなりに賑わっている。まだ暑い日が続いてるけれど、遠くで鳴く鈴虫と空を泳ぐ鰯雲がそっと秋を主張していた。
    まだしばらくは弁当の痛みやすい時期だとヤスが気にかけていたから、俺は提げた弁当とともに足早に雑踏を抜ける。
    特盛クレープ、限定アイス、新作ラテの誘惑に後ろ髪引かれながら、全て振り切って愛車に乗り込む。

    ヤスの玉子焼き、か。中身の少ない差し入れ用の袋ではなく、わざわざ弁当と一緒に入れたという事はおそらく…4人ではなく、俺ひとりで食べろという事なのだろう。”俺の“感想が欲しいとも言っていたな。…なら修行の動機も、もしかするとそういう事なんだろうか。

    シートベルトをしながらそこまで考えて、エンジンキーへ伸ばしかけた手をはたと止める。
    まさかこんなことを考えるようになるなんて。……俺も大概、絆されたものだな。
    誰に向けるでもなく苦笑してキーを捻る。

    早く帰って、食事にしよう。
    ヤスの玉子焼きはどのタイミングで食べようか。…最初に頬張るのも良いし、いつものと比べながら食べるのもいいけれど、折角ならデザートの前まで残しておこうか。
    本人の修行の進みがどうであれ、俺にとってはヤスの玉子焼きが一等美味しいはずだから。

    弁当と玉子焼きに想いを馳せつつ車を走らせ、出来るだけ安全に、急ぎながら帰った。
    今日はそんな秋の1日だった。

    …ヤスの玉子焼きの感想?
    ちゃんと本人に送っておいたから、今更ここで言うまでもないだろう?
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