眠れない夜がある。
特に何か懸念するような物事がある訳でも、面倒な依頼人への腹立たしさがある訳でも無く、ただ眠ろうと瞼を落として少しした後、どこか覚えた違和感に瞼を緩やかに上げてしまうような夜だ。そうしてそんな事をしている間に沸々と湧き上がる深夜特有の感情の波に囚われたり些細な事が気になって、今度は眠ろうと思っても眠れない夜が今夜だった。
月光に照らされて窓に嵌められたステンドグラスが鈍く床に色を映す。部屋を舞う微小な埃が光に反射し、作りかけの模型たちの上でキラキラと輝いていた。その僅かな輝きさえ今は煩わしく、カーヴェはもぞりと身体を動かして枕に顔を埋める。大抵の場合こうして無理矢理にでも視界を暗くしていれば、いずれ気付かない間に眠りに落ちる事が出来るかそのまま朝になっているのだが、今日は時間の経過が体感随分と緩やかでいつまで経ってもその気配すらも訪れはしなかった。
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