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    かもめ

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    かもめ

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    過去作。
    pixivに載せてるシリーズ(https://www.pixiv.net/novel/series/1414671)の番外編です。
    20210101

    ##ヒロアカ

    【hrak】上+百がコンビニおでんを食べる そもそも、コンビニエンスストアというものにあまり馴染みがない。
     八百万百がそのことを口にすると、上鳴電気は「ええ!? マジで!?」と驚いた顔をしていた。
    「でもさ、学校帰りとかおなか空いたりするじゃん! どうしてたん!?」
    「雄英高校でもそうでしたが、私が通っていた中学校にも学食がありましたので、そちらで……」
    「へえ~。でもなんで? やっぱヤオモモみたいにお嬢サマ育ちだと、買い食いなんてはしたない! とか家で言われたりすんの?」
    「いえ、特にそういうわけでは……。ですが、両親ともあまりコンビニで買い物をしない人でしたので、その影響はあると思いますわ」
     家庭事情の違いを興味深く感じながら、八百万は上鳴の後についてコンビニに向かった。

     八百万と上鳴の二人は今、雄英高校時代にクラスメイトで結成した「Aバンド」の再結成に向けて、絶賛練習中だ。同じくバンドメンバーの常闇も再結成計画に一枚嚙んでいるが、今日の練習は八百万と上鳴のふたりだけだった。それぞれプロヒーローやサイドキックとしての本業の合間を縫って練習しているため、人数が揃う時間は限られている。今日はたまたま半日丸々ふたりの予定が合ったため、音楽スタジオを借りてみっちり練習する予定を組んでいた。
     昼過ぎに集合して、各々の個人練習と二人でのセッションを交互にこなすこと約二時間。流石に集中力が切れてきたので休憩にしようという流れになった時に、上鳴がコンビニのおでんを食べたいと言い出したのだ。
    「おでん? 今からですか?」
    「だってちょっと小腹空かね? ヤオモモ、この前コンビニおでん食べたことないって言ってたじゃん!」
    「確かに、少し空腹ではありますが……」
     それにしても、コンビニのおでんとは間食として食べるものなのだろうか。家庭料理のおでんは、夕飯に出てくるもののような気がするが。
    「まあおやつにおでんって、言われてみれば確かに妙な気がするけど……。でもあったかいし旨いよ? 今安いらしいし!」
     上鳴が言うには、このスタジオの最寄のコンビニチェーンで、三点選ぶと割引になるセールが実施されているらしい。
    「な、俺ひとりでおやつに三つはさすがにちっと多いしさ! 一緒行こうぜヤオモモ~」
     そうして半分上鳴に懇願される形で、八百万ははじめてのコンビニおでんに挑戦することになったのだ。

     街中でよく目にする看板を横目に、二人で自動ドアをくぐる。あまりコンビニに入らない八百万でさえ、どこに行っても似た陳列だと思ってしまうような棚の並び。手前の棚には洗剤から下着類まで細かな日用品が並んでおり、真ん中あたりのお菓子の棚にはスーパーではあまり目にしないパッケージもあって興味深い。惣菜や弁当は見る度に真新しい商品が並んでいるので、空腹時に目にするとあれもこれもと目移りする。そして二台並んだレジの真ん中に、お目当ての商品が入った鍋がどんと据えてあった。
    「お、ここは自分で入れるタイプね」
     上鳴は四角いおでん鍋をほくほくと覗き込むと、鍋の横に並んでいた穴あきおたまを手に取った。
    「自分で入れないタイプもあるんですの?」
    「レジで頼んで店員さんが入れてくれるトコもあんだよね。ヤオモモ、どれにする?」
     これまた鍋の横に重なっていた発泡スチロールの容器を左手に、上鳴が訊ねてくる。八百万は改めて鍋の中を覗き込んだ。卵に大根、白滝といったおなじみの具から、ロールキャベツやウインナー等、八百万の知るおでんには入っていない具材まで、四角く区切られた鍋のなかに種類ごとに分かれて煮込まれている。顎に手を当てて考え込んでいると、上鳴のおすすめは大根だというのでそれを選ぶことにした。
    「俺も大根と……。三つで安くなるから残り一個か。二人で分けやすいやつ……牛スジでいい? 食える?」
     八百万の容器には大根がひとつ、上鳴の容器には大根と牛スジ。出汁も好きなだけ入れて良いと言われたのでおたまいっぱいに掬うと、「俺、前そんくらい入れて溢したからヤオモモも気ぃつけてな」と上鳴に助言された。辛子と味噌の小袋も自由に取れるようになっていたため、ひとつずつ頂いてレジに向かった。まとめて清算してくれた上鳴に、小銭を数えて渡す。
     ありがとうございました、溢さないようにお気をつけて、と渡されたレジ袋は確かに不安定で、八百万は欲張ってたっぷり出汁を入れたことをほんの少し後悔した。

     なんとか出汁を溢さずにスタジオに辿り着き、ロビーのベンチに腰掛けて容器の蓋を取る。閉じ込められていた湯気と一緒に、出汁の香りがふわりと広がった。八百万の口内に唾が溢れ出す。
    「ん~! んまっ! あつっ!」
     先に大根にかぶりついた上鳴があまりにも美味しそうに食べるので、八百万も慌てて透き通った大根を箸で一口大に割り、口に入れた。
    「……っ、あつっ!」
     熱い。熱を逃がすためにはふはふと唇をすぼめると、口内から白い湯気がふわりと立ち上った。なんとか少し冷めたところで大根を咀嚼すると、じゅわりと滲み出た出汁がまた熱い。飲み込んでも飲み込んでも次々と出汁が溢れ出して、もはや大根を食べているのか出汁を飲んでいるのかわからない。やっとのことで一口目の大根を飲み下すと、八百万はふうと息を吐いた。
    「どうよ、初コンビニおでん」
    「思った以上に熱くて……。でも美味しいですわ! こんなに出汁が染み込んでいるなんて……!」
    「だろ?」
     上鳴は得意気にニッと笑い、串から外した牛スジを何切れか八百万の容器に入れてくれた。
    「高校生の頃さ、耳郎とたまに食べてたんだよね」
     上鳴は大根を箸で割りながら、懐かしむように目を細める。猫舌の耳郎が熱がりながらこのおでんを食べているところを想像して、八百万はくすりと笑った。どこか冷めているような印象を与えがちな彼女だが、慣れた相手の前では表情豊かで、特に上鳴といるときは楽しそうな笑顔が多かった。
    「耳郎さん、Aバンドの復活で、元気になってくださるといいですね」
    「それな! 復活したら、今度は耳郎も一緒に食おうぜ、おでん」
     上鳴の言葉に大きく頷いて、八百万は二切れ目の大根を口に入れる。初めて食べるのに懐かしく感じる優しい味が、身体の隅々まで温かさと力を届けてくれるような気がした。

    fin.
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