藍忘機の誕生日祝いをしよう夜狩りの帰り、藍景儀と藍思追が自分をのけ者にしてヒソヒソと話し合っているのが気に食わなかった。
金凌は二人の間に体を押し込み、声を小さくして聞く。
「お前ら何話してるんだ?」
「含光君の誕生日祝いについての会議です」
「何が一番喜ぶか考えてんの」
「お前らバカか?」
藍景儀がなんだと!と金凌に歯をむき出す。
「ちょっとちょっと、あまり大きな声を出さないで。魏先輩と含光君に聞こえます」
今回は指導する弟子が大勢いた。魏無羨は特に不要だと言ったのだが、藍忘機は心配してついてきていたのだ。
藍思追の顔を見て、二人は少し声を落とす。
「あの含光君が喜ぶものなんか、ひとつしか無いだろ」
「魏先輩を含光君に渡すってか?あの人はもう含光君のものなんだぞ。今更どうやって魏先輩を贈るっていうんだ」
「あの二人はまだ婚儀をあげてない」
金凌の言葉に二人の弟子は顔を見合わせる。
「婚儀の場を贈るという事ですね!」
「なんだよ金凌、あたま良いな!」
「ハッ!当然だろ!」
三人の子ども達の会議は魏無羨と藍忘機に筒抜けだった。
魏無羨はクククと腹を押さえて笑い、藍忘機は心なしか微笑んでいるように見えた。
ひそ、と魏無羨が小声で藍忘機に言う。
「藍湛、あいつらとんでもない額を予算にしようって言い始めたぞ。やめさせなくていいのか?」
「好きにさせる」
「いいのか?あいつら、子どものくせに金だけは俺の何倍も持ってるんだ。大変な宴を用意されるかもしれない。蘭陵金氏に行くはめになるかも」
「君が同意するなら、付き合う」
藍忘機の返事に魏無羨は目を丸くする。
「藍湛、やけに丸くなったな。婚儀とか、そういった騒がしそうな催し物嫌いだろ」
「君が楽しければそれでいい」
「なんだって?今、なんて言った?」
「聞こえていただろう」
「いいや、聞こえなかった!もう一回」
そうこうして、魏無羨が予想した通り彼らは蘭陵金氏で盛大な宴を計画していたらしい。そこで藍啓仁と江澄に注意され、姑蘇で粛々とした婚儀の場が用意されることになった。
「婚儀の場でも、やっぱり木の根っこが食事に出てくるのか」
「無理をして食べなくてもいい」
二人の新郎は手をつなぎ、御膳の前で会話をしていた。婚儀の会場は魏無羨の別室として設けられた部屋だ。普段から魏無羨は
静室で藍忘機と共に過ごしているが、何かを開発したり、夜中に眠れない時はこちらの部屋も利用している。
二人の周りを囲むように姑蘇の弟子達が藍忘機に結婚おめでとうございます!誕生日おめでとうございます!と騒ぎ立て始めた。
「ハハ、めちゃくちゃだな」
結婚式と誕生日を混ぜている。こんなの、聞いた事も見たこともない。魏無羨が笑うと、藍思追が心配そうに聞いた。
「こういった特殊な婚儀は嫌でしたか?」
「とんでもない。すごく楽しいさ。嬉しい。………藍先生がめちゃくちゃ俺の事睨んでる事以外はな」
藍忘機がサッと魏無羨を自分の体で隠すように、藍啓仁からの視線をさえぎる。
「いい仕事だ。含光君」
「叔父上も、そのうち君を気に入る」
「そんな日がくればいいんだけどなぁ」
宴は1時辰まで。そう藍啓仁と約束した藍思追は皆に声をかけた。
「皆さまお集まり頂きありがとうございました」
とは言ってもこの場にいるのは魏無羨が普段から面倒を見ている姑蘇の弟子と藍啓仁だけだ。沢蕪君は用事で外出中だ。江澄は自分の仕事が忙しく、金凌も急遽予定が入り来ることが出来なくなった。
藍啓仁の目が怖い子ども達は皆サッと全てのものを片づけ、自分たちのやるべき事をするためにその場から離れる。藍啓仁はジっとこちらを見て、何も言わず家業に戻っていった。
その場には魏無羨と藍忘機だけが残される。
「あっさりしてるな」
「そういうものなのだろう」
「いいや、結婚式なら雲霧ではもっと豪勢にやるぞ。宴も長い。夜中まで続くもんだ」
二人は静室に戻り、寝台に座る。魏無羨は藍忘機の膝の上だ。
「藍湛、赤い服も様になるな?」
「君も、婚儀の服がよく似合っている」
「ん……藍湛………」
整った顔が目の前にせまり、魏無羨は目を閉じて薄く口を開く。
数回唇を触れ合わせたあと、ちゅ、ちゅく、と深い口づけを始めた。
「なんか俺、今日は変かも」
「どうした」
「藍湛に触られてるだけで………いつもより、ぞくぞくする」
「私もだ」
藍忘機も、魏無羨との口づけでつま先までしびれるような心地よさを感じていた。
「今夜は楽しめそうだ。この服のせいかな。なんだかいつもと違う感覚なんだ。思追達に感謝しよう」
「うん」
「結婚が終わったんだから、次は俺を孕ませて」
「また君は……孕めないだろう」
「わからないぞ?だって、俺のお尻は勝手に濡れちゃうんだから。知ってるか?これって普通じゃないんだぞ」
「………そうなのか?」
「そうなんだよ。なぁ藍湛、俺もう我慢できない。早くして」
その翌日、普段より盛り上がった魏無羨は藍忘機に子どもが出来たかもと冗談を言っていた。しかしそれは冗談ではなくなってしまうのだった ………… 。
fin.