藍(lhk_wyb)
DONEお題『婚礼』〜 これまでのあらすじ 〜
閉関を解き、療養目的で三月ほど蓮花塢に滞在した曦臣が江澄と紆余曲折を経て、無事に付き合うこととなり、浮かれて先走った曦臣が、姑蘇へ帰る際、世話になったお礼の品として、婚礼衣装用の赤い布を江澄に贈ったのがことの発端。さて、初心な二人はどうなったのか。
紅を隠す雲 曦臣と江澄が付き合い始めて早数年。付き合い初めの頃は互いに忙しくなかなか会える時間もとれず逢瀬にも苦労があったが、それも今となってはいい思い出だ。そしてあの時江澄がもらった婚礼衣装用の赤い布も当時のまま引き出しにしまってある。もちろんそのままでは虫に食われてしまう可能性もあるので、保存のための術がかけてある。江澄はその布がしまってある引き出しをたまに開けてはひと撫でして閉める。この布を見るたびに江澄は曦臣との婚礼を想像しては、その光景の中心に自分がいる幸せを噛み締めていた。
金凌も宗主としてだいぶ動けるようになったし、もういい加減暗殺の心配もなくなり、金家内部も安定してきた。江家は他の仙門に比べると新規門弟も多く、いつも賑わっている。藍家は曦臣が閉関を解いてすぐは、規模こそ小さいが野望だけは大きい仙門が、この機会に取り入ろうと復帰したばかりの曦臣をこぞって訪ねた。おかげで曦臣と江澄は逢瀬の時間をほとんど取れず互いにやきもきもしたが、その時に曦臣を訪ねてきた便乗仙門は、この数年で統合なども含めほとんどが消え去った。そして知らぬ存ぜぬの三不知・聶懐桑の聶家は、江家ほどではないが入門者が以前より増えていた。懐桑がただの三不知ではなかったことを聞きつけた者たちがこぞって聶家の門を叩いたからだった。
7549金凌も宗主としてだいぶ動けるようになったし、もういい加減暗殺の心配もなくなり、金家内部も安定してきた。江家は他の仙門に比べると新規門弟も多く、いつも賑わっている。藍家は曦臣が閉関を解いてすぐは、規模こそ小さいが野望だけは大きい仙門が、この機会に取り入ろうと復帰したばかりの曦臣をこぞって訪ねた。おかげで曦臣と江澄は逢瀬の時間をほとんど取れず互いにやきもきもしたが、その時に曦臣を訪ねてきた便乗仙門は、この数年で統合なども含めほとんどが消え去った。そして知らぬ存ぜぬの三不知・聶懐桑の聶家は、江家ほどではないが入門者が以前より増えていた。懐桑がただの三不知ではなかったことを聞きつけた者たちがこぞって聶家の門を叩いたからだった。
藍(lhk_wyb)
DONE曦澄、真ん中バースデーおめでとう💙💜【現代AU】
・純文学作家 曦臣
・サラリーマン 江澄
※ナチュラルに同棲している二人
※曦澄がそれぞれモブと会話してます。
coeur rouge「先輩が学生の頃って、どんなことが流行ってましたか?」
仕事中の雑談で、江澄と同じチームの女性の後輩が江澄に話題を振ったのがきっかけだった。
ここで出ている流行りというのは、一般的な流行ではなく『いわゆる恋人同士になったらみんなやっていたこと』だ。
「俺はそういうのに疎かったから同年代の奴らがどんなことをしていたかはよくわからん。そういうお前の頃は何が流行っていたんだ?」
江澄は面倒になって、話を振ってきた後輩に話を戻した。
「私の頃ですか?そうですね、真ん中バースデーが少し流行ってましたね。」
初めて聞く単語に、江澄はその単語を鸚鵡返しした。
「真ん中バースデー?」
江澄の思いの外素っ頓狂な返事に、気をよくした後輩は真ん中バースデーの説明をしてくれた。
4058仕事中の雑談で、江澄と同じチームの女性の後輩が江澄に話題を振ったのがきっかけだった。
ここで出ている流行りというのは、一般的な流行ではなく『いわゆる恋人同士になったらみんなやっていたこと』だ。
「俺はそういうのに疎かったから同年代の奴らがどんなことをしていたかはよくわからん。そういうお前の頃は何が流行っていたんだ?」
江澄は面倒になって、話を振ってきた後輩に話を戻した。
「私の頃ですか?そうですね、真ん中バースデーが少し流行ってましたね。」
初めて聞く単語に、江澄はその単語を鸚鵡返しした。
「真ん中バースデー?」
江澄の思いの外素っ頓狂な返事に、気をよくした後輩は真ん中バースデーの説明をしてくれた。
藍(lhk_wyb)
DONE閉関中、密かに好意を寄せていた江宗主と自分の夢小説を書いていたのが江宗主にばれて、なぜか謝りあっているうちに曦澄になる話秘密のそのさき※曦臣が書いた文章に一部に晩渙らしきものが出てきますが、最終的には曦澄です。
※登場人物も少しキャラ改変がされています(曦臣の書いた文章のみ)
※この曦臣は閉関中ですが、なぜ閉関を解かないのか疑問なくらいには元気です。
※金光瑤→曦臣と思しき描写がありますが、曦臣は義弟としか思っていません。
※聶懐桑、イマジナリー大哥出てきます(Not双聶)
『阿渙はなんて可愛いんだろうな、このまま蓮花塢に隠してしまいたい。あなたが俺だけのものだなんて夢のようだ。阿渙、ずっと俺のことを愛していてくれるか?』
いつも自信に満ち溢れているのに、この時ばかりは少しだけ不安をその美しい顔に滲ませる。しかしそんな表情まで美しいなんて、こんな美しい人に愛されている私はなんて幸せ者なんだろう。
13700※登場人物も少しキャラ改変がされています(曦臣の書いた文章のみ)
※この曦臣は閉関中ですが、なぜ閉関を解かないのか疑問なくらいには元気です。
※金光瑤→曦臣と思しき描写がありますが、曦臣は義弟としか思っていません。
※聶懐桑、イマジナリー大哥出てきます(Not双聶)
『阿渙はなんて可愛いんだろうな、このまま蓮花塢に隠してしまいたい。あなたが俺だけのものだなんて夢のようだ。阿渙、ずっと俺のことを愛していてくれるか?』
いつも自信に満ち溢れているのに、この時ばかりは少しだけ不安をその美しい顔に滲ませる。しかしそんな表情まで美しいなんて、こんな美しい人に愛されている私はなんて幸せ者なんだろう。
youmeihy
DONE曦瑶季節イラスト+懐かし同人便箋ネップリローソン/ファミマ RAH8Z5RZR8
2023/1/19 22:00まで
季節イラスト→写真用紙L版 全領域印刷推奨
※ラミカ用に描いた名刺サイズのイラストなので周囲に色縁が付きます。
懐かし便箋→白黒A4 全領域印刷推奨
A4に4枚印刷されるので切り離してお使いください(使えるのかは不明ですが…) 5
ushiai_41
MEMOねたいっぱい食べるきみが好き朝から忙しく食べる暇もなくてふらふらの曦臣が偶然入った居酒屋は思っていたよりも美味しく満足していた。
ほろ酔い気味で他のお客さんと世間話をしていたらお客のひとりが「そろそろハムちゃん来んじゃねえか?」と言い出し店主も「もうそんな時間だったかあ。準備するかね」と料理を仕込み始める。
ハムちゃん?なんだ?と思っていたら店に来たのは180cm越えの草臥れたリーマン。
よれたスーツを壁にかけている動作がどこか気だるげで艶っぽく見惚れてしまう。疲れた様子だがその顔はとても秀麗でとにかく目を引く。
「よお、いつものでいいかハムちゃん」
「ああ、頼む」
ハム。えっ。ハムちゃん…?あの人が?
目をぱちくりさせ他のお客さんを見ると、お客さんはうんうんと頷いた。ハムちゃんというには些かいかつ…強めな見目をしているが。と困惑していると、どかんと大皿がハムちゃんの前に置かれる。山盛りの肉、野菜、そして昔話のように盛られた白飯。
1773ほろ酔い気味で他のお客さんと世間話をしていたらお客のひとりが「そろそろハムちゃん来んじゃねえか?」と言い出し店主も「もうそんな時間だったかあ。準備するかね」と料理を仕込み始める。
ハムちゃん?なんだ?と思っていたら店に来たのは180cm越えの草臥れたリーマン。
よれたスーツを壁にかけている動作がどこか気だるげで艶っぽく見惚れてしまう。疲れた様子だがその顔はとても秀麗でとにかく目を引く。
「よお、いつものでいいかハムちゃん」
「ああ、頼む」
ハム。えっ。ハムちゃん…?あの人が?
目をぱちくりさせ他のお客さんを見ると、お客さんはうんうんと頷いた。ハムちゃんというには些かいかつ…強めな見目をしているが。と困惑していると、どかんと大皿がハムちゃんの前に置かれる。山盛りの肉、野菜、そして昔話のように盛られた白飯。
藍(lhk_wyb)
DONE創作邪祟プチ参加作品です!氷を溶かせば「江宗主危ない!」
そう言って江澄の前に飛び出して来た曦臣は、江澄と共に退治していた邪祟の攻撃をもろに受けてしまい、その攻撃と同時に放たれた光から二人が出てきた時には、曦臣は十歳くらい、江澄は座学に行っていた十五歳くらいの少年に、見た目が退化してしまっていた。
「くっ……!何がどうなっている……?」
微妙に大きく感じる校服に違和感を覚えながらも、まだ状況を把握しきれていない江澄と、何も言葉を発さない曦臣を心配し、藍氏、江氏の弟子たちが宗主の元へ駆け寄ってきた。
「宗主!お怪我はありませんか⁈」
「沢蕪君、ご無事で⁈」
皆それぞれに宗主に声を掛けるも、返事をするのは江澄だけで、曦臣の返事はない。その異変に気付いた藍景儀が曦臣がいた場所にいる見た事のない美しい子供に声を掛ける。
18724そう言って江澄の前に飛び出して来た曦臣は、江澄と共に退治していた邪祟の攻撃をもろに受けてしまい、その攻撃と同時に放たれた光から二人が出てきた時には、曦臣は十歳くらい、江澄は座学に行っていた十五歳くらいの少年に、見た目が退化してしまっていた。
「くっ……!何がどうなっている……?」
微妙に大きく感じる校服に違和感を覚えながらも、まだ状況を把握しきれていない江澄と、何も言葉を発さない曦臣を心配し、藍氏、江氏の弟子たちが宗主の元へ駆け寄ってきた。
「宗主!お怪我はありませんか⁈」
「沢蕪君、ご無事で⁈」
皆それぞれに宗主に声を掛けるも、返事をするのは江澄だけで、曦臣の返事はない。その異変に気付いた藍景儀が曦臣がいた場所にいる見た事のない美しい子供に声を掛ける。
巨大な石の顔
SPUR MEサンサーラシリーズ番外編。明知不可而為之(四)のつづきになりますが本編とするには短い話。うちの江澄もなかなか兄上を振り回しています。寒室の夜 寒室へ入ると、それまで誰もいなかったそこは外よりも冷たかった。
藍渙は江澄を抱きしめてきた。彼の体臭である花のように甘い香りが鼻をくすぐる。
このまま情事にもつれこむのだろうかと半ば覚悟するかのように江澄は瞳を閉じていたが一向に唇は合わされなかった。
「君は私に体を委ねても心は見せてくれない」
目を開ければ藍渙はみるからに悲しそうな表情を浮かべていた。顔の造りは違うのに、その表情はさきほど見かけた藍啓仁とよく似ている。
彼は江澄をまたしても詰ってきたわけではない。夜空のように深い色の瞳には手で雪をすくって溶けてしまうのを止めたくても止められないかのようなあきらめが浮かんでいた。
かつて父にお前は家訓をわかっていないと首を振られたときのように、江澄は胸が千々に乱れる思いがした。
2012藍渙は江澄を抱きしめてきた。彼の体臭である花のように甘い香りが鼻をくすぐる。
このまま情事にもつれこむのだろうかと半ば覚悟するかのように江澄は瞳を閉じていたが一向に唇は合わされなかった。
「君は私に体を委ねても心は見せてくれない」
目を開ければ藍渙はみるからに悲しそうな表情を浮かべていた。顔の造りは違うのに、その表情はさきほど見かけた藍啓仁とよく似ている。
彼は江澄をまたしても詰ってきたわけではない。夜空のように深い色の瞳には手で雪をすくって溶けてしまうのを止めたくても止められないかのようなあきらめが浮かんでいた。
かつて父にお前は家訓をわかっていないと首を振られたときのように、江澄は胸が千々に乱れる思いがした。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。モブ門弟たち視点の兄上と江澄の話です。明知不可而為之(三.五) 旗未動、風也未動、是人的心自己在動
(旗未だ動かず風また未だ吹かず。揺らぐは人の心なり)
――映画『楽園の瑕』より
五年ほど前に金魔と呼ばれる肺の病が蓮花塢周辺で猛威を振るって以来、雲夢江氏では家宴の習わしは途絶えた。
以前より他の世家との交流が増え、他家で開かれる家宴のにぎやかな様子を小耳にはさむようになったこともあり多くの門弟たちは再開を望むものの、うちの宗主様は大変厳しい人で再び未知の疫病が発生したときのために備えを徹底していて、なかなか言い出しづらい。
金魔の拡大で蓮花塢を閉鎖中は家宴どころか、『食うに語らず』と姑蘇藍氏のように黙食を誰もが求められた。あのときに比べればまだましだ、と幼い頃匂いにつられ修練場の塀をよじ登って眺めた美味しそうな料理にあふれた家宴に憧れ雲夢江氏の門前に立った門弟たちは悔し涙を飲み込む。
10706(旗未だ動かず風また未だ吹かず。揺らぐは人の心なり)
――映画『楽園の瑕』より
五年ほど前に金魔と呼ばれる肺の病が蓮花塢周辺で猛威を振るって以来、雲夢江氏では家宴の習わしは途絶えた。
以前より他の世家との交流が増え、他家で開かれる家宴のにぎやかな様子を小耳にはさむようになったこともあり多くの門弟たちは再開を望むものの、うちの宗主様は大変厳しい人で再び未知の疫病が発生したときのために備えを徹底していて、なかなか言い出しづらい。
金魔の拡大で蓮花塢を閉鎖中は家宴どころか、『食うに語らず』と姑蘇藍氏のように黙食を誰もが求められた。あのときに比べればまだましだ、と幼い頃匂いにつられ修練場の塀をよじ登って眺めた美味しそうな料理にあふれた家宴に憧れ雲夢江氏の門前に立った門弟たちは悔し涙を飲み込む。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。とうとう兄上と江澄がキスするお話。明知不可而為之(二) 藍宗主が閉関を解いてからときは少し進み、雲深不知処で何年かぶりに清談会が開かれた。当主の誕生日も近くその復帰祝いもかねていたので、暗黙の了解として常よりも仙門百家の人々は着飾って参加していた。
人々が驚いたのは、雲夢江氏宗主が会場へ現れたときである。金凌のように日ごろの厳格な江宗主をよく知る人物ほど今日の彼をみて顎が落ちそうになった。
今宵の江宗主は、普段結い上げている髪をしどけなく下ろし蓮の形をした銀の髪冠をつけ、動きやすさを重視した校服から袖も大きくゆったりとした優美な上衣に袖を通していた。色は夕暮れにかかる雲のような薄紫色で、合わせの隙間から宵闇のような黒い裳裾をなびかせている。人を寄せ付けないとげとげしい雰囲気も眉間に寄せる深い皺も今日は消え、衣に合わせた扇子を片手ににこやかに愛嬌をふりまいていた。
14755人々が驚いたのは、雲夢江氏宗主が会場へ現れたときである。金凌のように日ごろの厳格な江宗主をよく知る人物ほど今日の彼をみて顎が落ちそうになった。
今宵の江宗主は、普段結い上げている髪をしどけなく下ろし蓮の形をした銀の髪冠をつけ、動きやすさを重視した校服から袖も大きくゆったりとした優美な上衣に袖を通していた。色は夕暮れにかかる雲のような薄紫色で、合わせの隙間から宵闇のような黒い裳裾をなびかせている。人を寄せ付けないとげとげしい雰囲気も眉間に寄せる深い皺も今日は消え、衣に合わせた扇子を片手ににこやかに愛嬌をふりまいていた。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。兄上と江澄がキスしそこなった話。明知不可而為之(一) いちばんになりたかった。
あいつに勝ちたかった。
誰よりも強く秀でていたかった。
ちがう、ちがう。
いちばんになって俺は褒められたかった。
さすが次期宗主だ、自慢の息子だって。
愛されたかった、父さんと母さんに。
庭に侵入者がいると思えば、それは江澄が幼い頃から気にかけている少女だった。彼女は向前看(シャンティエンカン。前を向いていこうという意味)という明るい名前のーー前(ティエン)を銭(ティエン)、尚銭看(お金に目をむけていこう)と実はかけているのではないかと江澄が疑っているーー霊剣へ今にも飛び乗ろうとしていた。
「小蓮!」
少女を見つけるなり呼び止めた。
「雲夢へ帰ったんじゃなかったのか。なぜこんな夜更けにまた金麟台にいる?」
12967あいつに勝ちたかった。
誰よりも強く秀でていたかった。
ちがう、ちがう。
いちばんになって俺は褒められたかった。
さすが次期宗主だ、自慢の息子だって。
愛されたかった、父さんと母さんに。
庭に侵入者がいると思えば、それは江澄が幼い頃から気にかけている少女だった。彼女は向前看(シャンティエンカン。前を向いていこうという意味)という明るい名前のーー前(ティエン)を銭(ティエン)、尚銭看(お金に目をむけていこう)と実はかけているのではないかと江澄が疑っているーー霊剣へ今にも飛び乗ろうとしていた。
「小蓮!」
少女を見つけるなり呼び止めた。
「雲夢へ帰ったんじゃなかったのか。なぜこんな夜更けにまた金麟台にいる?」
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第二章。兄上が夢から醒めて江澄のために生きることを決意するお話。酔生夢死 月は眉のように細く無数の星が瞬いている夜だった。
雲夢江氏の若い門弟は、戌の刻が終わろうとしているときある高貴な絵師が滞在している金麟台の部屋へやってきた。
大きく燃え上がるろうそくの明かりに少女の満面の笑顔を浮かびあがる。
「白木蓮殿、これがこたびの姿絵の報酬にございます」
江澄の弟子である白蓮蓮が、腰ひもから卓の上にぱんぱんに膨らんだ小さな革袋を恭しくおくなり、じゃらじゃらと特定の貨幣がこすれあう音がおびただしく聞こえた。
その音からおそらくは庶民であれば数か月余裕をもって暮らせるほどの金子が入っていることに藍曦臣は気付いて目を丸くした。たった二枚の姿絵にこんな大金をなぜ。
「こんなにかい?」
8139雲夢江氏の若い門弟は、戌の刻が終わろうとしているときある高貴な絵師が滞在している金麟台の部屋へやってきた。
大きく燃え上がるろうそくの明かりに少女の満面の笑顔を浮かびあがる。
「白木蓮殿、これがこたびの姿絵の報酬にございます」
江澄の弟子である白蓮蓮が、腰ひもから卓の上にぱんぱんに膨らんだ小さな革袋を恭しくおくなり、じゃらじゃらと特定の貨幣がこすれあう音がおびただしく聞こえた。
その音からおそらくは庶民であれば数か月余裕をもって暮らせるほどの金子が入っていることに藍曦臣は気付いて目を丸くした。たった二枚の姿絵にこんな大金をなぜ。
「こんなにかい?」
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ番外編。オリキャラに私の江澄への愛を叫ばせている話。時系列は天人五衰の五と六の間です。師父の姿絵「残忍」「気性が荒い」「人の話を聞かない独裁者」「しょっちゅう機嫌が悪くてうっぷん晴らしに子弟を殴っている」「六芸の大会で優勝しなかったら子弟は鞭打ちの刑に処される」「いつも人を貶してばかりでほめることはない」「夷陵老祖が憎くて鬼道を使ったやつをひっ捕まえて殺している」「自分が殺したくせに、気が触れて夷陵老祖は死んでないと思い込んでいる」「よみがえって復讐されるのが怖いから血眼になって探している」「温姓というだけで陳情に言っても門前払いだった」「庶民が困っていてもまったく助けてくれない」「血も涙もない鬼だ」「あんな冷酷でまわりをみていない宗主じゃ雲夢はもうだめだ。江楓眠さまのときが懐かしい」
蓮花塢そばの町の大人たちは酔えば二言目には江宗主のことを悪く言う。
11526蓮花塢そばの町の大人たちは酔えば二言目には江宗主のことを悪く言う。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。兄上がとうとう天人から人間になる話。天人五衰(六) ほどなくして江宗主は上半身を動かせるようになった。下半身はしびれが残っていてまだしっかり床に立てそうになかったが確実に彼は回復してきていた。
雲夢江氏からは白蓮蓮によって毎日蓮の花のしずくが届けられている。雲深不知処からも滋養強壮にいい野菜や薬草が届けられた。届けにきたのは江澄が命がけで助けた少年だった。
少年は江宗主と藍宗主に挨拶へきた。太い眉が凛々しい彼は礼儀正しくかしこまっていて恭しかった。その折り目正しい様子から幼いときの弟を藍曦臣は懐かしく思い出す。
弟の藍忘機はいつの間にか兄を追い越して自分の道を歩き、運命を掴んだ。母が忘機には『お前は人間よ』とわざわざ言わなかった理由が今の兄には理解できた。弟は人間だったからだ、はじめから。
7320雲夢江氏からは白蓮蓮によって毎日蓮の花のしずくが届けられている。雲深不知処からも滋養強壮にいい野菜や薬草が届けられた。届けにきたのは江澄が命がけで助けた少年だった。
少年は江宗主と藍宗主に挨拶へきた。太い眉が凛々しい彼は礼儀正しくかしこまっていて恭しかった。その折り目正しい様子から幼いときの弟を藍曦臣は懐かしく思い出す。
弟の藍忘機はいつの間にか兄を追い越して自分の道を歩き、運命を掴んだ。母が忘機には『お前は人間よ』とわざわざ言わなかった理由が今の兄には理解できた。弟は人間だったからだ、はじめから。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。毒に倒れた江澄の看病をする兄上のお話。天人五衰(五) 魏無羨たちが嵐のように来て帰った翌朝。ようやく江宗主の意識は戻ったが、四肢のしびれがとれず体を自由に動かせないのでしばらく金麟台へ滞在することになった。
当分は主管が雲夢江氏の執務を遂行するが、やはり宗主の判断や決定が必要なことなどはここまで来て江宗主と相談することになった。
江宗主が毒霧に倒れた事件により、その正体が金家の子弟にも知れ渡りつつある絵師はどうしたかというと、彼もやはり金麟台へ残った。
彼の身を案じるとともにそばから離れたくないという気持ちがあったからだ。
表向きは、『子弟の夜狩りを遠くから見守っていた藍宗主が、怪我をした姑蘇藍氏の子弟を助け毒霧を浴びてしまった江宗主にその恩を返すため彼の看病に金麟台へ残った』ということとした。事実にウソを混ぜ込むと事実は際立つのだ。
6463当分は主管が雲夢江氏の執務を遂行するが、やはり宗主の判断や決定が必要なことなどはここまで来て江宗主と相談することになった。
江宗主が毒霧に倒れた事件により、その正体が金家の子弟にも知れ渡りつつある絵師はどうしたかというと、彼もやはり金麟台へ残った。
彼の身を案じるとともにそばから離れたくないという気持ちがあったからだ。
表向きは、『子弟の夜狩りを遠くから見守っていた藍宗主が、怪我をした姑蘇藍氏の子弟を助け毒霧を浴びてしまった江宗主にその恩を返すため彼の看病に金麟台へ残った』ということとした。事実にウソを混ぜ込むと事実は際立つのだ。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。兄上が江澄への片思いを自覚する話。オリキャラが出ます。天人五衰(四) 涅槃へ行って阿瑶へ謝ることさえも許されないのか。涅槃へ行っても彼らはまだいないのだ。
藍曦臣は嘆きのあまり顔を覆った。
彼らの魂が来世を望んであの狭い棺桶から抜け出るだろうと思い込んでいた。自身の見通しの甘さにも気分が悪い。どうして私はいつまでたっても愚かなのか。
聶懐桑が帰ってから寒室にいたときのように深い自己嫌悪の沼に陥っていた。
もはや金麟台に彼が滞在する意味を見出せなかった。明日にでも雲深不知処へ戻り再度の閉関をすべきだろうかと悩んでいたその矢先。
どんどんと激しく部屋の扉を叩かれた。
こんな夜更けに何ごとだろう、きっとろくでもないことだと今は気分がすこぶるよくない藍曦臣は無視を決め込んだ。しかし扉を叩く音は止むことはなかった。
7604藍曦臣は嘆きのあまり顔を覆った。
彼らの魂が来世を望んであの狭い棺桶から抜け出るだろうと思い込んでいた。自身の見通しの甘さにも気分が悪い。どうして私はいつまでたっても愚かなのか。
聶懐桑が帰ってから寒室にいたときのように深い自己嫌悪の沼に陥っていた。
もはや金麟台に彼が滞在する意味を見出せなかった。明日にでも雲深不知処へ戻り再度の閉関をすべきだろうかと悩んでいたその矢先。
どんどんと激しく部屋の扉を叩かれた。
こんな夜更けに何ごとだろう、きっとろくでもないことだと今は気分がすこぶるよくない藍曦臣は無視を決め込んだ。しかし扉を叩く音は止むことはなかった。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。一問三不知も兄上を心配している話。天人五衰(三) 江宗主と久しぶりに言葉を交わした日の翌朝。まだ卯の刻になっていないのに、下履きが濡れている感触に藍曦臣ははね起きた。
この年で、と衝撃を受けたが何を漏らしたかがわかって恥ずかしさのあまり手で顔を覆った。なぜこの年で?とやはり衝撃を受けた。
放精で濡れた下履きを宿屋の洗濯係に渡す気になれずこっそり部屋で洗った。汚れとともに羞恥も落とそうとして強くこすったところ、勢いあまって盛大に破いたのは言うまでもない。
町中へ新しい下履きを探しに行き手に入れると、色鮮やかな布がちらりと横目に入って藍曦臣は足を止めた。
布かと思ったらそれは姿絵だった。
彩あふれた絵が竹で組んだ高い壁に所せましに吊るされ、粗末な木の台に何枚も積み上げられている。どれも版画で刷られていて書の頁ほどの大きさだ。墨絵は案外少ない。
7158この年で、と衝撃を受けたが何を漏らしたかがわかって恥ずかしさのあまり手で顔を覆った。なぜこの年で?とやはり衝撃を受けた。
放精で濡れた下履きを宿屋の洗濯係に渡す気になれずこっそり部屋で洗った。汚れとともに羞恥も落とそうとして強くこすったところ、勢いあまって盛大に破いたのは言うまでもない。
町中へ新しい下履きを探しに行き手に入れると、色鮮やかな布がちらりと横目に入って藍曦臣は足を止めた。
布かと思ったらそれは姿絵だった。
彩あふれた絵が竹で組んだ高い壁に所せましに吊るされ、粗末な木の台に何枚も積み上げられている。どれも版画で刷られていて書の頁ほどの大きさだ。墨絵は案外少ない。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。江澄はすごく心配しているけれど兄上には伝わらない話。天人五衰(二) 白木蓮こと藍曦臣は金麟台へ到着したその日から蓮池の写生に取りかかった。
金麟台の蓮池の蓮は、金凌の父親である金子軒が妻江厭離のために特別に品種改良したもので早朝から夜半まで花開くとかつて金光瑶が教えてくれた。藍曦臣はしかし陽が沈む前には町で取っている宿へ戻るつもりだった。
絵師の格好をしてはみたものの、手元にある色彩は墨だけで色を付ける気は今のところちっとも起きなかった。
阿瑶に何度か通されたことのある四阿に腰かけ、寒室に残っていた上等の紙に墨一色で濃淡をつけて蓮池を再現していく。
青々とした立ち葉と立ち葉の隙間から、蓮は茎をのばしてぽつぽつと咲き始めたが満開はまだ当分先になるだろう。池の底にある汚泥を映したかのような黒い水面にアメンボが波紋を描いている。まるで雨が降っているかのようだ。
5489金麟台の蓮池の蓮は、金凌の父親である金子軒が妻江厭離のために特別に品種改良したもので早朝から夜半まで花開くとかつて金光瑶が教えてくれた。藍曦臣はしかし陽が沈む前には町で取っている宿へ戻るつもりだった。
絵師の格好をしてはみたものの、手元にある色彩は墨だけで色を付ける気は今のところちっとも起きなかった。
阿瑶に何度か通されたことのある四阿に腰かけ、寒室に残っていた上等の紙に墨一色で濃淡をつけて蓮池を再現していく。
青々とした立ち葉と立ち葉の隙間から、蓮は茎をのばしてぽつぽつと咲き始めたが満開はまだ当分先になるだろう。池の底にある汚泥を映したかのような黒い水面にアメンボが波紋を描いている。まるで雨が降っているかのようだ。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第一章。閉関していた兄上が絵師に身をやつして金麟台へ行きます。天人五衰(一) 天人五衰とは、仏教用語で、六道最高位の天界にいる天人が、長寿の末に迎える死の直前に現れる五つの兆しのこと。
大般涅槃経においては、以下のものが「天人五衰」とされる、大の五衰と呼ばれるもの。
一.衣裳垢膩(えしょうこうじ):衣服(羽衣)が埃と垢で汚れて油染みる
二.頭上華萎(ずじょうかい):頭上の華鬘が萎える
三.身体臭穢(しんたいしゅうわい):身体が汚れて臭い出す
四.腋下汗出(えきげかんしゅつ):腋の下から汗が流れ出る
五.不楽本座(ふらくほんざ):自分の席に戻るのを嫌がり楽しみが味わえなくなる
出典元Wikipedia
幼い頃藍曦臣は母のことを、羽衣を奪われた天女のようだと思っていた。
天帝から受けた命を果たしに地上へ降り立ったところ羽衣を父に奪われてしまって、二度と生まれ育った天へ還れない。好きでもない男に閉じ込められその子どもを生まされた気の毒な美しい女性。そう信じていた。
9058大般涅槃経においては、以下のものが「天人五衰」とされる、大の五衰と呼ばれるもの。
一.衣裳垢膩(えしょうこうじ):衣服(羽衣)が埃と垢で汚れて油染みる
二.頭上華萎(ずじょうかい):頭上の華鬘が萎える
三.身体臭穢(しんたいしゅうわい):身体が汚れて臭い出す
四.腋下汗出(えきげかんしゅつ):腋の下から汗が流れ出る
五.不楽本座(ふらくほんざ):自分の席に戻るのを嫌がり楽しみが味わえなくなる
出典元Wikipedia
幼い頃藍曦臣は母のことを、羽衣を奪われた天女のようだと思っていた。
天帝から受けた命を果たしに地上へ降り立ったところ羽衣を父に奪われてしまって、二度と生まれ育った天へ還れない。好きでもない男に閉じ込められその子どもを生まされた気の毒な美しい女性。そう信じていた。