友人以上恋人未満(恋人以上友人未満) 友達だ、と意識するのにはそれほど時間はかからなかったし、恋人だ、と意識するのにもそれほど時間はかからなかった。狡噛は同級生で友人で恋人で、いつかパートナーになる男だって俺は真剣に思っていて、だから恋人になるまでの焦ったいラブコメディ映画の感覚なんて、俺は彼と一緒にいても分からなかった。
苦しく思うようになったのは、むしろ彼と恋人になってからだった。彼が他の誰かと喋っているだけで苦しい、彼が他の誰かから告白されているだけで苦しい、狡噛は夜寝る前に必ず俺におやすみの挨拶と愛してるの挨拶をしてくれるが、俺はその贅沢なメッセージをもっても、学校が始まるまで悶々とした。学校が始まってもデバイスを見ては悶々とした。恋人ならずっとデバイスを繋げて寝て、起きて挨拶をするのに、狡噛はなぜかそれをしてくれなかったからだ。これはまぁ、同じクラスの女子たちで流行していることなので、狡噛は知らないのかもしれないけれど。
「狡噛は歯ぎしりとかするタイプか?」
カフェテリアでストロベリーシェイクを飲みながら言うと、彼は不思議そうに俺を見た。そうだな、悪い質問だ。
「どうして? 俺と一緒に寝てみたいとか? 歯ぎしりされると眠れないタイプ?」
狡噛はカレーうどんを一本飲み込んだ。俺は何と言っていいか分からず、そうかもな、と、ずずっとストロベリーシェイクを飲み干した。
「今日母さんが夜勤なんだけどさ、確かめてみる?」
狡噛が言う。彼の提案はいつも直球で、思った通りにはやって来ない。ただ俺はふりまわされるだけだった。
「歯ぎしりをしたら別れるって思ってるなら困るけど、だったらマウスピースをつけてしないようにする」
狡噛は歯ぎしりを気にしているのかそんなことを言った。俺たちはそこで話を終えて、トレイを持ってカウンターにへ返した。
これが俺が初めて彼の部屋に泊まった日の話だ。この時俺たちは恋人だったが、友人未満であるような気もしたのだから不思議だった。