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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    狡噛さんの傷を撫でる宜野座さんのお話。
    800文字チャレンジ31日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    おやすみ(明日も明後日も明明後日も) 狡噛のこめかみには弾丸がかすった傷跡がある。あと数ミリずれていたら、脳を傷つけて紛争地では助からなかった傷跡がある。俺は彼と寝る度にそれに触って、あぁ、狡噛は生きているのだと思わされた。狡噛は生きている。俺を置いて行ったりはしない。何度も確かめたのに、俺はその傷を触る度に、もし弾丸がここじゃなく違う場所を撃っていたらと思わずにはいられないのだ。自分も任務では大概無茶をしたくせに、俺は恋人が馬鹿をやったことを今でもいくらか恨んでいる。
    「ギノ、くすぐったい……」
     眠そうな声が聞こえる。それは恋人の声で、低くて、腰に響いて、誰のものより美しい声だった。俺が好きな声だった。それは俺を抱きしめるように響き、俺は彼の背中に腕を回す。
    「ごめん、起こしたか?」
    「いや、まだ眠ってなかったから。そんなに傷が気になるんなら消してもらおうか? 別に大した意味があって残してるんじゃない。お前が苦しいんなら……」
     狡噛はなんでも先周りをしてしまう。俺がどうして自分の傷で苦しんでいると思った? どうしてそんなに自分を高く評価出来る? なぁ、狡噛、お前の答えは当たっているけど、たまに憎らしくなるよ。
    「いや、お前が気にしていないならいいんだ。わざわざ治療しないでもじきに消えるさ。ただ耳たぶの近くにあるから気になるだけで……」
     俺はそう言って彼の耳たぶをくすぐり、そして何度かキスをした。狡噛もそれに答えてくれる。俺たちは何度もキスをする。
    「ならいいんだ。考えすぎなのは俺の方なのかもな。これを負った時、久しぶりに死ぬかもって思ったからさ。その時お前を思い出したから、消したくなくて」
     また馬鹿なことを言う。俺はどうしていいかわからなくなって、ベッドの上で転がってクッションを狡噛の胸に押し付けて、そして覆い被さってキスをした。唇にじゃなく、こめかみに、傷跡に。そしておやすみを言う。生きてくれてありがとうの代わりに、明日も生きてくれないかと、俺のために生きてくれないかと、おやすみを言う。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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