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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

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    何気ない日々のやりとり。
    ちょっと遠慮気味に生きるのがやめられない宜野座さんのお話。
    800文字チャレンジ37日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    わかっていると君は言う(大丈夫、じゃない) ギノは物分かりがいい。俺が何も告げずに数日消えても、全て任務だと思って一言も聞こうとしない。ギノは物分かりがいい。俺が口元を赤い口紅で汚しても、ため息をついて飛行機の備品のクレンジングで洗ってくれる。ギノは物分かりがいい。俺が誰かの香水の匂いを移しても、そのまま抱かれてくれる。けれど俺は寂しくなる時がある。そんなに何もかもを誰かに捧げてしまって、お前は本当に幸せなのかと。
     
    「ん……狡噛、まだ朝早いぞ」
    「急に任務が入ってな。そろそろ出なきゃならないんだ」
     母との面会を詮索されたくなくて、俺はそんな嘘をついた。母は先日から出島にやって来ていて、俺が取ったホテルで暮らしている。仕事を始める前に会っておきたかった。ただそれだけのことなのに、俺は彼に言えないでいる。
     俺は何もかも失ったようで、彼ほどは悲しみを味合わなかった。もとよりいない父はともかく、母は強い人で息子が潜在犯堕ちしても、海外に逃亡しても、外務省に籍を移しても動揺は見せなかった。その度に厚生省から取り調べを受けてもだ。母とこうやって会うのは二日目だ。昨日は赤い口紅を散らされて大変だったし、出島で評判だという香水を移される羽目になった。それだけ聞けば女との密会もいいところなのに、ギノは大丈夫、分かっていると言って聞かないのだった。全部分かっているから、答えなくていいと。
     俺はそんな彼に何も言えなかった。でも、このまま進んでいい訳がない。だから耳元で「嘘だよ、母さんと会ってくる」とささやく。するとギノは驚いた顔をして、今までの不自然だったこと全てを思い出して、俺に向き合う。
    「狡噛、もしかして、昨日の……」
    「全部母さんのだよ。お前に会わせるのはくすぐったくってさ。なぁ、時間を作ってお前も会いにくるか? 何度か会ったことがあるだろう。懐かしがる」
    「大切な息子を潜在犯堕ちさせた男の顔なんて見たくないに決まってる」
     ギノはわざとそんなことを言う。物分かりがいいくせに、こんな時に不機嫌になってしまうんだから可愛らしい。耳たぶが赤くなっているの、気付いているのか?
    「ほら、ゆっくり用意して……」
     耳たぶに口付け、俺はギノの腰をさする。そして結局は不安がっていた恋人に、何度も愛している愛しているとつぶやくのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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