イミテーション(コスチュームジュエリー) 二十歳の誕生日プレゼントは、正真正銘のダイヤモンドのネックレスだった。母はそれくらい持っていないさいと言い、父もそれに頷いた。でも私はどうしてか喜ぶ気にはなれず、ずっと仕舞い込んだまま今日まで来ている。私が付けるのはイミテーションのダイヤと決まっている。なぜならばそれをくれたのが先輩だから。美佳ちゃんには本物が似合うと思うんだけど、こんな仕事でしょう? 失くしたら大変だもの、コスチュームジュエリーとして使ってね。そうあの人が言ったのだ。だから私はどんな場所にも先輩がくれた本物と見まごうダイヤモンドの大ぶりのダイヤとパールを模したネックレスをつけていくことにした。母がくれた押し付けがましいものじゃなく、父が私に相応しいと言った本物のネックレスじゃなく。
「課長はコスチュームジュエリーをつけるんですね。うん、似合ってる」
公の酒の席でそう言ったのは、新しく着任した監視官だった。これが本物じゃないと見分けるなんて、なかなか目が肥えている。さすが先輩が推薦した人間、と言うところだろうか。
「駄目なの? あなたは嫌い?」
「まさか、ココ・シャネルもその価値を認めてますよ。何カラットの宝石を身につけるかが問題なのではなく、大切なのは洋服にいかにマッチしたジュエリーをつけるかということってね」
男が女のジュエリーについて語るなんて無粋だ。私はそう思ったけれど、彼が語るままにしておいた。今は幽閉の身分にあるあの人がくれたネックレスを、否定しない彼が少し好ましかったのもある。
「貰い物なの。本物は仕事中に落としちゃったら困るでしょうって言われてね」
「じゃあ課長はこの宴会の最中にも仕事が起こるって思ってるんですか?」
「もののたとえよ」
ワイングラスを傾け言うと、新任の監視官は楽しんで、と去って行ってしまった。私はネックレスを触る。私に本物のダイヤは似合わないのだろうか? でも先輩とどこかにいく時は、それをつけていたいと思う。先輩に守られながら、あの人とこんなふうに楽しみたいと思う。