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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    祭り終わりの話。
    800文字チャレンジ44日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    祭りのあと(花火) 出島では入国者によって数多くの祭りが催される。俺たちはそれが大々的であればあるほど警備に駆り出される羽目になる。行動課は実働部隊だって? それは名目上のことでしかない。そもそも人員を割き辛い公安局の人数とドローンの数では祭りの警護には足りず、海外調整局で余っているのは俺たちくらいのものだった。それに祭りの日は事件がよく起こる。俺たちが想像もしないものが。
     今日はチャイニーズマフィアと繋がった公安局員を逮捕する羽目になった。詳細は省くが、スキャンダルが世に出る前に裁けて良かった。恩も売れたというものだ。そんな俺たちは日本風の縁日を歩きながら、水っぽいビールを飲んでいた。花城の奢りだ。彼女はその逮捕した公安局員を須郷と護送してしまって、俺たちは二人きりだった。ギノは汗をかいた首筋を拭いながら水のようなビールを飲んでいる。俺はもう少し濃いものが欲しくて、チップを握らせて瓶ビールを頼んだ。
    「狡噛、そろそろここを離れて戻らないと……」
    「いいじゃないか、今日くらい。今日で祭りも終いだ。最後の花火を見て帰ろう」
     俺はそんなことを言ってギノと出島の狭い道なりを歩き始めた。浴衣を着る少女たちが通り過ぎてゆく。手にはふわふわのわたあめ、赤いリンゴあめ。甘い香りがまとわりつくようだ。
    「ほら、もう始まる。急ごう。場所取りは昔から上手いんだ」
     汚れたバラックの上に乗って、狭い小屋の屋根を歩く。ギノは足を踏み抜きやしないかと心配しているようだった。でも、俺たちと同じような人々はそこかしこにいる。
     その時、花火が鳴った。俺はギノの手を掴んで、ほら、と空を見せてやる。するとギノの綺麗な横顔に赤い火花が散った。オレンジ、緑、黄色、ブルー。それは色を変えて彼を彩る。俺はそれをずっと眺めていた。祭りが終わってしまうまで。美しい彼をずっと見ていたかった。彼は振り返らなかった。それがとても嬉しかった。
    「狡噛、今度こそ帰ろう」
     ギノが言う。祭りは終わった。あの魔法のような時間は終わってしまった。俺はそれにあぁ、と答えて、日常に戻ったのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAININGお母さんが亡くなった時、海に行った宜野座さんの話。思い出の全ては狡噛に支配されていて消えられない苦しさ。執監時代。
    800文字チャレンジ3日目。
    波打ち際(サマータイム) 恋人と行きたいデートスポットは? もちろん海です、夏の海はロマンチックだもの。俺はそんな若い女の感想を耳にしながら、やがて海を模したプールの宣伝に変わってゆくコマーシャルを一つ無人タクシーの中で見た。途中でナイアガラの滝が出てきた時は笑ってしまったが(あれは川だ)高濃度汚染水で満たされていると分かっていても、彼女らにとっては海は憧れの場所なのだろう。
     狡噛が読んでいた本にも海を賛美するものは多かった。詮索はしなかったけれど、事実彼は泳げもしない海を眺めに行っているようだった。誰かに影響されやすい、可愛らしい恋人。
     俺は今、母の遺体を引き取りに沖縄に来ていた。そして何かに導かれるように、全てを終わらせると海に行った。多分、学生時代に俺の母の出身が沖縄と聞いた狡噛が、きっと色なんて全然違うんだろうなななんて、そんな馬鹿げたことを言ったからだった。その頃は俺は監視官で狡噛は執行官だったから、俺は意固地になって言わなかったが、彼の言葉はいつだって俺の中にあった。
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    TRAINING美佳ちゃんが煙草の香りに思うこと。
    宜野座さんと狡噛さんはちょろっと出演で気持ち常霜です。
    800文字チャレンジ18日目。
    見かえしてやるんだわ(煙草の香り) 私が公安局に勤め出した時、歳は二十にもならなかった。桜霜学園の教育方針に半ばか逆らうようにして公安局入りした私を守ってくれる人などは誰もいなかった。伝説の事件を解決した先輩とはソリが合わず、かといって移動するわけにもいかず、私は自分が埋もれてゆく気がした。でもそれよりも私を揺さぶったのは、一人の男の存在だった。
     彼の名前は宜野座伸元という。以前は私と同じ監視官をして、先輩が解決した事件で執行官堕ちした人間。ずいぶん優秀だったのよ、とは二係の青柳監視官の言だが、彼女は宜野座さんと同期というから信用はならない。ただ、多くの猟犬を一人でコントロールして、一人も死なせなかったというのは、私の興味を引いた。私はその頃の宜野座伸元の日誌を読むことにした。別に先輩に言う話でもないし、宜野座さんに許可を取るものでもないから、無断で読んだ。そこにはいつもより厳しい、私の前でいつも笑っている彼とは違う、苛烈な男の人生が描かれていた。
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