祭りのあと(花火) 出島では入国者によって数多くの祭りが催される。俺たちはそれが大々的であればあるほど警備に駆り出される羽目になる。行動課は実働部隊だって? それは名目上のことでしかない。そもそも人員を割き辛い公安局の人数とドローンの数では祭りの警護には足りず、海外調整局で余っているのは俺たちくらいのものだった。それに祭りの日は事件がよく起こる。俺たちが想像もしないものが。
今日はチャイニーズマフィアと繋がった公安局員を逮捕する羽目になった。詳細は省くが、スキャンダルが世に出る前に裁けて良かった。恩も売れたというものだ。そんな俺たちは日本風の縁日を歩きながら、水っぽいビールを飲んでいた。花城の奢りだ。彼女はその逮捕した公安局員を須郷と護送してしまって、俺たちは二人きりだった。ギノは汗をかいた首筋を拭いながら水のようなビールを飲んでいる。俺はもう少し濃いものが欲しくて、チップを握らせて瓶ビールを頼んだ。
「狡噛、そろそろここを離れて戻らないと……」
「いいじゃないか、今日くらい。今日で祭りも終いだ。最後の花火を見て帰ろう」
俺はそんなことを言ってギノと出島の狭い道なりを歩き始めた。浴衣を着る少女たちが通り過ぎてゆく。手にはふわふわのわたあめ、赤いリンゴあめ。甘い香りがまとわりつくようだ。
「ほら、もう始まる。急ごう。場所取りは昔から上手いんだ」
汚れたバラックの上に乗って、狭い小屋の屋根を歩く。ギノは足を踏み抜きやしないかと心配しているようだった。でも、俺たちと同じような人々はそこかしこにいる。
その時、花火が鳴った。俺はギノの手を掴んで、ほら、と空を見せてやる。するとギノの綺麗な横顔に赤い火花が散った。オレンジ、緑、黄色、ブルー。それは色を変えて彼を彩る。俺はそれをずっと眺めていた。祭りが終わってしまうまで。美しい彼をずっと見ていたかった。彼は振り返らなかった。それがとても嬉しかった。
「狡噛、今度こそ帰ろう」
ギノが言う。祭りは終わった。あの魔法のような時間は終わってしまった。俺はそれにあぁ、と答えて、日常に戻ったのだった。