Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    監視官時代から外務省時代まで。
    変わったことと変わらないことがある二人の話。
    800文字チャレンジ10日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    抱きしめたい(雑踏) 俺たちを知らない人しかいない雑踏の中で、不意に抱き締められることがあった。信号が赤に変わって、立ち尽くすしかない時に、彼は後ろから俺を抱き締め、甘えるように鼻をこするのだった。周りの人間は何も言わない。だって俺たちはただの通りすがりで、狡噛慎也と宜野座伸元が抱き合っているなんて、誰も知るところにないから。あの時、狡噛が何を考えていたのかは分からない。ただ見知らぬ誰かに俺を自分のものだと主張するのが、彼の幼い独占欲であることは分かった。でも、俺なら自分を知る人の前でも抱き合えるのに、彼はそうではないらしい。
     
    「あなたたちって、本当によくくっつくわね。そんなに寒いの? 部屋の温度を上げましょうか?」
     真夏の行動課のオフィスで、花城は狡噛にそう言った。さっきの話は俺が監視官時代の話のもので、外務省に来た今となっては、狡噛は自分たちの関係を隠そうともしなくなった。仕事場でも、まだ勤務時間内でも(花城はそれに怒っているのだ)。
    「いやいい、こっちの方が落ち着くし、考えも浮かぶんだ」
    「そういう話じゃないんですけどね……!」
     花城は呆れて怒りに震えている。俺はそれが恐ろしくて狡噛から離れる。俺だって仕事とプライベートは分けたい。ただいつの間にか、例えばコーヒーを差し入れられてありがとうと言ううちに抱き締められているだけで本意ではないのだ、多分。
    「分かればいいの、分かれば。さぁ、仕事よ!」
     花城が手を叩いて俺たちは仕事に戻る。まぁ、ずっと仕事はしていたのだが。狡噛に抱き締められながら。
     
     仕事を終え、部屋に戻ってカウチに座る狡噛を後ろから抱き締めると、彼は少し不思議そうに俺を見た。俺は言い訳が見つからなくて、「こんなふうにしてくれたこともあっただろう」と言った。すると昔のことを思い出したのか、狡噛は「あの頃は勇気がなくてな」と、俺に言った。「お前が上を目指して、俺を捨てるつもりなのかと思っていたから。縁談やら何やらが来ていただろう?」
     妙にしおらしいそれに、俺は笑ってしまって、もう一度狡噛を抱きしめた。そしてキスをして、お前以外考えられないのに馬鹿だな、と言った。そして独占欲をあんな形ではたしていた恋人を、とても強く愛おしく思った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works