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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    21回目の記念日の話。
    800文字チャレンジ50日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    Draw(ゲームの達人) 勝ち負けなんて考えたことはなかった。というより、彼を好きになった時点で負けだと思っていた。全国考査一位の天才、色相は限りなくクリア、周囲の人は皆彼を称賛する。そんな男が自分のことを愛してくれるなんて、そんなの想像出来るだろうか? 俺は何もしなかったというのに? 俺はただ愛されているだけで、特に愛されるために努力もしていない。魅力的であろうとしたこともない。彼に告白をする少女たちがするような努力、リップクリームを塗ったり、髪の毛を巻いたり、まつ毛をびっしりと生やしたり、手に入れられる限りの愛される方法を試したこともない。だから俺は負けなのだろう。彼が愛したい時にだけ俺は愛されるから、きっと最初から負けだったのだろう。
     
     狡噛と確認をして付き合うようになった時、関係はすぐに終わると思った。でも二十年経っても俺たちは共にいて、共に暮らしている。ここに来るまで色々あったし、正直もう二度と体験したくないことを体験させられたが、それでも共にいて良かったと思う。今日だって記念日にと小洒落たカフェに連れて来てくれた。いつもは出島の安い飲み屋なのにこういうロマンチックなところは変わらない。
    「ギノ、どうしたんだ、さっきからそんなに笑って。俺の格好おかしいか?」
     ややフォーマルな格好をした狡噛にそう言われて、俺はランチプレートに置いたナイフを握った。
    「違うよ、これじゃあお前に負けっぱなしだと思ってな。ずっとお前のペースだろ?」
     そう言うと、狡噛は心外だ、という顔をした。俺は黙ってその言葉の続きを待つ。すると狡噛はプレートのコロッケを口に放り込んで、「俺の方が負けてるよ」と言った。「こうやって機嫌を取らされてるんだからさ」
    「それはお前が勝手に……」
    「勝手に機嫌を取るくらい魅力的なんだよ、お前は」
     狡噛がにやりと笑う。ということは、俺はある面では負けていて、ある面では帰っているということだろうか? そしたらゲームはドローだ。だからこそ、俺たちは長く一緒にいられるのかもしれない。俺はそんなことを思いながら、ようやく運ばれてきた新しい水に口をつけたのだった。それは付き合って二十一回目の、暑い夏の日のことだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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