アニバーサリー(記念日) ギノは記念日を祝うのを少し嫌がるところがある。別に本気なわけじゃないだろうが、ここまでは幸せだったと区切りをつけるのを、怖がっているようにも思えた。俺の考えすぎかもしれない。けれど付き合い始めた日や、初めてキスをした日、セックスをした日、可愛らしいプロポーズをした日なんかにギノはナーバスになる。それはきっと、俺がことごとく裏切ってしまったからなのだろう。きっとギノはまた俺がどこかに行ってしまうと思っているのだろう。だからあんなふうに、俺の申し出を断ったのだろう。
話は数日前にさかのぼる。付き合い始めた二十年ぶりの日が近づいてきたから、俺はディナーの予約を入れようとした。そのためにシフトを調節して、ギノも休むようにと促そうとした。しかし彼は仕事があるからと断り、今度にしようと言ったのだ。二十年目だ、に十年目なのにこれだ。俺はしばし呆然として、それを花城にからかわれた。そして今日が二十年目の日で、ギノはいつもと変わらず仕事に励んでいる。
「ギノ、今日俺の部屋に来ないか? 料理をご馳走するぜ」
「それよりこのデータ解析を手伝ってくれないか。終わりそうにないんだ」
「終わったら食事してくれるんなら喜んで」
ギノが少し嫌そうな顔をする。でもそれは本気じゃないのを俺は知っているから強引にデータのアドレスをコピーする。仕事は忙しいが苦じゃない。これくらいならすぐに終わってしまうだろう。
仕事が終わったのは十二時を超えてしまっていた。ギノは疲れた顔をしていた。呆気なく始まった二十年目の日に、俺は沈黙で始める。
「記念日だな」
「何の?」
「付き合って二十年目の」
しつこく言う俺に折れたのか、ギノは肩を落として「あぁ」と言った。俺はそれに満足してコーヒーを飲む。煙草を吸う。
「こんなに長く続くとは思ってなかったよ、狡噛」
ギノは優しくそう笑って、俺の煙草を取り上げてコーヒーに落とした。そして優しくキスをした。俺は記念日を独占出来たことに喜んで、別にディナーなんてどうでもいいって思った。誰といるかが肝要だ。俺はそれをあの長い放浪で学んだのだから。