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    短い話を放り込んでおくところ。
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    チャリティに行く狡宜。
    800文字チャレンジ57日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    あどけない面影(あなたを愛せたら) ギノの部屋には写真が数枚飾られている。デジタルフォトフレームじゃなく、今では珍しいフィルムカメラで撮ったものだ。そこには小さな犬と戯れるギノがいて、そこに確かに彼の面影はあるのだけれど、どうもしっくり来なかった。それでもこの写真を撮った誰かはギノを心から愛していたのだろう、構図は美しく、賞にでも送ればいいのに、と思ってしまうほどの出来だった。でも、俺は聞いたことがない。旧一係の皆で撮った写真の横に置かれた自分の幼い頃の写真を並べる彼が一体何を考えているのか、それを尋ねたことはない。
     
    「ママー! ママどこぉ! ママー!」
     行動課も参加した海外調整局のチャリティで、迷子が数人見つかった。彼らは皆デジタルデバイスを持たされているから親の発見は容易だったのだが、それでも広い会場だ、中々親子の感動の再会とはいかない。俺たちは自分たちのブースを終えて暇だったから監護を請け負っているのだが、鳴き声の輪唱には少し気が狂いそうになる。子どもだから仕方ないというのに。
     小さな少年が、三十代半ばくらいの男女に駆け寄ってゆく。俺は念のためデジタルデバイスで親子関係を確認して、泣きじゃくり続けた子どもを引き渡した。ギノはそんな様子を心地よさげに見ていた。子どもが親と一緒にいるのを、彼は素晴らしく良いことだと思っているようだった。俺はそういう子どもじゃなかったから分からないけれど、普通はそうなのだろう。母のことはきちんと愛している。だが、俺はあの人に感情を伝えるのが苦手だった。
    「良かったな、見つかって」
    「そうだな。この調子で解散出来たらいいんだが……」
     そんなふうに会話をして、俺たちは迷子がいなくなるまで、チャリティが終わるまで迷子を預かっていた。チャリティで一番稼いだのは隣の課で、花城は悔しそうだった。ギノはそれに複雑そうで、俺もまあいい思いをしたので何も言わなかった。
    「あんなにちっこいのがこんなに大きくなるんだもんな」俺がそう言うと、ギノは不服そうにそれはお前もだろう、と言う。そして俺はまたあの写真を思い出して、誰かに深く愛されたこの男を、自分はどこまで愛せるだろうかと思うのだ。あの面影のあるギノは、今日も俺の愛情を受け取ってくれる。いつまで続くかは分からないが、今日の日に見た穏やかな表情の面影が、いつか見られたらと俺は思うのだ。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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