あどけない面影(あなたを愛せたら) ギノの部屋には写真が数枚飾られている。デジタルフォトフレームじゃなく、今では珍しいフィルムカメラで撮ったものだ。そこには小さな犬と戯れるギノがいて、そこに確かに彼の面影はあるのだけれど、どうもしっくり来なかった。それでもこの写真を撮った誰かはギノを心から愛していたのだろう、構図は美しく、賞にでも送ればいいのに、と思ってしまうほどの出来だった。でも、俺は聞いたことがない。旧一係の皆で撮った写真の横に置かれた自分の幼い頃の写真を並べる彼が一体何を考えているのか、それを尋ねたことはない。
「ママー! ママどこぉ! ママー!」
行動課も参加した海外調整局のチャリティで、迷子が数人見つかった。彼らは皆デジタルデバイスを持たされているから親の発見は容易だったのだが、それでも広い会場だ、中々親子の感動の再会とはいかない。俺たちは自分たちのブースを終えて暇だったから監護を請け負っているのだが、鳴き声の輪唱には少し気が狂いそうになる。子どもだから仕方ないというのに。
小さな少年が、三十代半ばくらいの男女に駆け寄ってゆく。俺は念のためデジタルデバイスで親子関係を確認して、泣きじゃくり続けた子どもを引き渡した。ギノはそんな様子を心地よさげに見ていた。子どもが親と一緒にいるのを、彼は素晴らしく良いことだと思っているようだった。俺はそういう子どもじゃなかったから分からないけれど、普通はそうなのだろう。母のことはきちんと愛している。だが、俺はあの人に感情を伝えるのが苦手だった。
「良かったな、見つかって」
「そうだな。この調子で解散出来たらいいんだが……」
そんなふうに会話をして、俺たちは迷子がいなくなるまで、チャリティが終わるまで迷子を預かっていた。チャリティで一番稼いだのは隣の課で、花城は悔しそうだった。ギノはそれに複雑そうで、俺もまあいい思いをしたので何も言わなかった。
「あんなにちっこいのがこんなに大きくなるんだもんな」俺がそう言うと、ギノは不服そうにそれはお前もだろう、と言う。そして俺はまたあの写真を思い出して、誰かに深く愛されたこの男を、自分はどこまで愛せるだろうかと思うのだ。あの面影のあるギノは、今日も俺の愛情を受け取ってくれる。いつまで続くかは分からないが、今日の日に見た穏やかな表情の面影が、いつか見られたらと俺は思うのだ。