Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    仕事で傷だらけになった二人の話。
    800文字チャレンジ20日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    おそろい(同じ傷) 身体中にある傷だけが俺たちが共に持つものだった。俺たちは生き方すら違っていて、愛情の持ち方すら違っていて、同じところを探すのなら、仕事で負った傷ぐらいしかお揃いのものがなかった。銃弾をくり抜いた傷、ナイフで切り付けられた傷、爆弾の破片が減り込んだ傷。俺はそれが自分の身体にあることを、それほど気に病んではいなかったが、同じものが恋人の体にあることは気になった。あの美しい身体が、俺と同じもので汚されてしまった、そう思うと辛かった。
     だから一度だけ、傷をとってみないかと、任務にかこつけて言ったことがある。あの時は潜入捜査をすることになっていて、身体に目立つ傷があるとよくなかったのだ。一流の諜報員は傷一つから過去を探るから、少ない方がいいと俺は言った。しかし彼はすぐにはそれに同意しなかった。これは自分の勲章だと、かつていた、頑固な軍人のように譲らなかったのだ。それに自分と俺とを繋ぐものだとも言った。俺は信じられなかったが、彼のそのロマンチストな部分を見てしまうと、もう何も言えなかった。
     俺と彼を繋ぐものはほとんどない。セックスをしたって、それは短い間だけだ、繋がっていられるのは。狡噛、そう呼ばれて、キスをして、彼が望むまま身体をさすって、傷を確かめてまたそこにキスをして、俺たちはおそろいの部分を確かめるのだった。それが俺たちの愛し合い方だった。
     結局、その潜入捜査では、恋人は軍用義肢に人工皮膚のカバーをかけただけで乗り越えた。進化して体温を持つようになったそれは触ってみれば面白かったのだが、笑っては失礼だから何も言わなかった。ただ、彼が腕を失わず、俺の前に再び現れた時はきっとあんなふうになっていたのだと思うと、少し苦しかった。俺の力が足りなくて、俺は彼の父も、彼の腕も失うのを見ているしかなかった。でも、彼はそれを誇りだと言うのだ。
     俺たちはキスをする。傷だらけの身体で。唯一のおそろいである、ただの傷を大切にして。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works

    recommended works