Marry me 出島を歩いていると、時折様々な地方の結婚式に出会うことがある。オーソドックスな白のドレスや、刺繍が細かく施された民族衣装など、少女が憧れるドレスに、こんなにも種類があるのだと思わされるのだ。
今日見たのは山岳地方に住むヨーロッパの移民のドレスで、それは花々の刺繍があちこちに施され、彼女の周りの子供たちは花びらを巻いていた。俺はそれを踏みそうになって、あわてて狭い通りの端に寄る。しかし狡噛は邪魔した詫びにとあめ玉をやっていて、そうやって子どもを手なずけるのかと、俺はどこかで感心していた。
「おめでとう」
「おめでとう」
「幸せにね」
「幸せになれよ」
そんな言葉があふれる通りで花嫁と花婿が通り過ぎるのを俺たちは見て、日本に来て幸せになった人々がいることに、俺は単純に嬉しくなった。俺が担当するのは基本的に血生臭い事件だ。誰が誰を殺したとか、移民たちが不幸になる事件ばかりだ。それが今日は違った。人が幸せになる瞬間を見ることができた。花嫁の微笑み、花婿の緊張した表情。それは普段は滅多に見られない。
「なかなかいいものだな。滅多に見られないからさ。それに俺は縁がない」
「あぁ、俺の恋人はそろそろって思ってたのか? なんなら今からでもいいのに」
狡噛があごをしゃくる。するとそこには彼らが使ったのであろう教会があって、狡噛はやや強引に俺の腕を引っ張り、花が美しく飾られた、所狭しに飾られた教会に俺を導いた。甘い匂いがする。香水の匂い、花びらの匂い、儀式に使われる甘い紅茶の風味。
「狡噛、ふざけるのもいい加減に……」
「最初にふざけたのはお前じゃないか。自慢じゃないが、友人代表に選ばれることが多かったから式の進行には詳しいんだ。さぁ、今からひざまずいて愛を乞うぜ?」
子どもたちがかけ回る。式に飽きた子どもたちは、馬鹿をやっている大人たちを見つけて、また花びらをかけてくれる。さっき花嫁たちにしたように。
「ギノ、俺はお前がいなきゃ――」
狡噛が俺に語りかける。もうそんなの信じられなくて、俺は真剣な恋人の顔に笑いそうになった。俺もお前がいなきゃ駄目だ、でもそんなの、あぁ――。