ほどけた髪(そのうなじに) ギノの乱れた髪を撫でるのが好きだ。激しくセックスをして絡まった髪を解いてやって、それに口付けるのが好きだ。もちろん彼は嫌がって、自分の手櫛で直そうとする。まぁ、それを見るのも好きなのだけれど。ギノがなぜ髪を伸ばしたのかは知らない。俺の記憶の中の彼はずっと髪を短くしていて、だからSEAUnで再会した時は驚いたものだ。彼の知らないことなど、絶対にないと勝手に思っていたから。でもそんな彼の変化にももう慣れてしまって、歩くときにひょこひょこと揺れる様とか、セックスの度に解く様とか、好きな様子も増えた。多分、俺は彼ならば何でもいいんだろう。でも、俺の変化を彼はどう思っているのだろう。俺が佐々山を真似て煙草を始めた時も、酒を嗜むようになった時も、ギノは何も言わなかった。ただ顔をしかめて、俺を見るだけだった。それが答えなんだろうか? 何も言わないでいる、それが彼の答えなんだろうか?
俺たちは出会ってもう二十年ほどになる。その中で変化したのは外見だけではない。彼は父親を許し、俺はまだ母親に許されていない。それを彼に言うつもりはない。言ってしまったら、俺を潜在犯に堕とした自分のせいだと思うだろうから。ただ、いつか母と和解できる日が来るのなら、彼を一番に会わせたいと思う。友人としては知っているから、ちゃんと恋人として。髪の綺麗な恋人として。
朝起きると、ギノが髪を櫛でといていた。俺は腹をかきながらそれを見つめて、まるで猫が身なりを整えているようだと思う。じゃあ今日は雨か? そんなことを思って、俺は目をこすりながら彼が淹れてくれたのだろうコーヒーを口に含んだ。
「遅いぞ。早く朝食を取れ。出勤だ」
「一緒に? 嫌がるのに? あ、これはお前が好きな出島のクロワッサ……」
「黙れ、早くしろって言ってるだろう」
ギノは今日はピリピリしていた。何かあったのかもしれない。まぁ、それもおいおい聞くさ。それくらいの付き合いの長さなんだから。
ギノが髪を結ぶ。さらされたうなじは美しく、俺は今日はあそこに口付けてやろうと思った。仕事が終わったのなら、絶対に。